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側面を突け! (17.10.2017)

投稿日:2018年2月15日 更新日:

日本では当たり前で、気が付くことさえないのが政治家の右翼発言。欧州ではそのような言動は”No go”で、ナチスの象徴のカギ十字を落書き したり、ナチス式の敬礼をふざけてするだけで罰金刑を課される。旧日本海軍の日章旗を堂々と掲げている日本の慣習は、欧州では「有り得ない」分野の行動になる。とりわけドイツではそのような言動をするだけで、社会的な地位を失う危険が伴っているので、ドイツに留学、駐在される日本人は言動には注意されたし。日本ではOK、あるいは喝采さえ受ける言動が、ドイツでは非常識な場合がある。

しかし2015年の難民危機をきっかけに、この傾向が次第に、しかしはっきりと変化を始めた。とりわけドイツ人は政府の決定、「難民を歓迎する。」に、大いに不満だった。ドイツに住むと1月~6月のお給料は税金(それに社会保障費)として没収され、7月~12月までやっと自分のために働くことになる。ケチで名高いドイツ人はこの高い税金(それに社会保障費)を、「自分 、社会のためになる。」として我慢して受け入れれている。ところが政府はこの税金をドイツ人のために使用せず、赤の他人(すなわち難民)のために浪費を始めた。ドイツにも助けを必要とするドイツ人が 数十万人といるのに、何故、先に難民を助けるのだ。そして多くのドイツ人は、難民の大多数は経済難民、ドイツの社会保障で楽して生活するためにやってきている、と証拠もないのに確信していた。

メルケル首相はすでに首相に就任してから12年。10数年も一般社会から隔離された生活をしていると、喫茶店でコーヒーを頼むと幾らかかるか、 生活するには幾ら収入が必要なのか、どうでもよくなる。こうして首相の任期が長くなるに比例して、首相と民衆の距離は広まるばかり。メルケル首相は大衆が首相の方針に反対している事実を、真面目に取らなかった。ますます不満を募らせた大衆は、ポプリストや右翼に自分の利益(意見)を主張してくれる人物をみて、当初は抵抗があったが、これに賛同し始めた。メルケル首相が大衆の要求を無視する度に、ポプリストや右翼は支持者を獲得、かってのナチス党のような快進撃を始めた。

この快進撃を見て、「是非、その人気にあやかりたい。」とポプリストの真似をする政治家が出現した。典型的な例が英国の(元)キャメロン首相で、右よりの発言で右翼票を取り込もうとした。その結果が”Brexit”で、キャメロン首相は責任を取って辞任した。確立した政治家が右翼の真似をしても 、所詮はコピーでしかない。大衆は(右翼に関する限り)コピーではなく、オリジナルを優先することを、この一件から学んでもよさそうだったが、学ばなかった。ドイツで右翼の真似をして、「難民受け入れを制限せよ!」とやったのは、ドイツはバイエルン州のCDUだ。お陰で先の下院選挙では、戦後70年近くにわたって守ってきた過半数を割るという、歴史的な敗北を喫した。

同じミスを犯したのがオーストリアのケルン首相だ。最初はメルケル首相の、「難民はウエルカム」を支持、その後、これを非難するという180度の転換を成し遂げた。左翼からは裏切り者と非難され、右翼からは「生半可だ。」と非難された。この局面に”Jetzt oder nie”(こんなチャンスは二度とない!)と連立政権の解消を強いたのが、これまでの連立政権で外務大臣(その後、欧州、移民、外交大臣)に就いていたクルツ氏だ。市はウイーン大学で法律を学んでいたが、学生時代からÖVP(オーストリア国民党)のメンバーだった。何処で学んだのか知る由もないが、まるでヒトラーのような見事な”Rhetorik”(話術)で聴衆を魅了した。国民党の若者で組織される派閥のトップに選出されると、大学を中退、政治家の道を歩み始めた。2009年の任期延長ではナチス政権に負けない99%の支持率、3年後の任期延長投票ではナチスを凌駕する100%の支持率を獲得した。

25歳の若さで政務次官に就任、2年後には27歳の若さで外務大臣に就任した。氏は27歳の若者とは思えない見事な話術で、外務大臣の重職をスキャンダルなくして難なくこなした。もっとも全くスキャンダルがなかったわけではない。クルツ氏はメルケル首相と違って大衆から隔離されておらず、大衆の願望を嗅ぎ取り、これを見事な表現で語る才能があった。ドイツ人は多かれ、少なかれ、イスラム教に不信感を抱いており、とりわけトルコは最大の敵。かってウイーンを席捲しようとウイーンを包囲したことを忘れてない。右翼 は短絡に、「トルコ人は出て行け!」と叫ぶが、話術に優れているクルツ氏は「トルコ政府の行動は、欧州の民主主義と相容れない。トルコがそのような行動を取る限り、EU加盟交渉を 中止すべきた。」とエレガントに表現した。言っていることは同じなのだが、その繊細な表現に、オーストリア国民は魅力された。

心の中では思っていても、これまでは右翼と思われることを恐れていた市民は、クルツ氏にこれまで言えなかったことを代弁してくれる政治家を見出した。難民がオーストリアに押し寄せてくると、 クルツ氏は当初から難民の上限ない受け入れを拒否、難民の波を国境で阻止するように主張した。これは欧州の概念、「助けを必要とする者は、助けてやらねばらない。」を否定するものだったが、カッコイイ同氏が主張すると、ジャーナリストを除けば 、オーストリア国民はこの点を非難しなかった。難民の数が増えるに比例して、オーストリア国民は政府の難民受け入れ政策に反感を覚え、同氏の人気は上昇した。ここでオーストリアのケルン首相 が上述のミスを犯した。突然の方向転換で社会民主党の側面は気持ちいいくらい開いたままだった。クルツ氏はこの側面を突き、連立政権を解消させ た。まるで参謀本部の将校の攻撃立案のような見事な一歩であった。結果、10月中旬に総選挙が行なわれることになった。

選挙結果の速報が出ると、クルツ氏の国民党は第一党に躍進していた。これまで第一党だった社会民主党は、右翼政党と2番目の地位を争い、負けた。ケルン首相のいきなりの方向転換により、第一党が第三の勢力にまで落ちた。ケルン首相、キャメロン首相、バイエルン州のCSU、どのケースでも、確立した政党が右翼の真似をすると、例外なく敗退した。しかしクルツ氏は右翼を強調することで成功した唯一の西側の政治だ。(ポーランドやハンガリーなど東側では、伝統的に右翼が強い。)日本では、「オーストリアは一気に右に寄った。」と報道してい たが、真面目に取る必要はない。クルツ氏は支持率を上げるのに効果があるので、右翼を強調しているだけだ。これが使い古されて効果がなくなれば、元の保守路線に戻ってくる。日本の首相、とりわけ財務大臣の右翼発言に比べれば、同氏の右翼発言はかわいいもの。心配すべきはオーストリアの右翼ではなく、日本で当たり前になっている右翼 発言だ。

 

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