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解体セール (31.10.2017)

投稿日:2018年2月22日 更新日:

今年の8月に会社更生法の適用を申請したエアベルリン。厚生法といえば厚生されるような錯覚を受けるが、最初から同社の解体、ばら売りセールになることは明らかだった。真っ先に名乗りを上げたのはルフトハンザで、「エアベルリンのヒレ肉の部分だけいただきます。」とオファーを提出した。これに続いたのが英国の格安航空会社、”Easy Jet”。ルフトハンザを利用客数で追い越したアイルランドの格安航空会社、”Ryanair”のO’Leary社長も興味があるそぶりを見せたが、「ルフトハンザに売却されることが最初から決まっているのに、オファーするだけ無駄だ。」とドイツ政府、ルフトハンザを非難して、オファーは出さなかった。

日本にお住まいの方には縁がないが、オレイリ氏はなりふりかまわないそのアグレッシブな宣伝で、ドイツでも一躍有名になった。お陰でコメデイアンのように思われているが、アイルランドという人口の少ない国の小さな航空会社を、欧州最大の航空会社に成長させたのは同氏の手腕(その方法には問題も多いが)によるものだ。その同氏が、「ドイツ政府とルフトハンザが談合している。」と言うのだから、この声明は大きな反響を起こした。勿論、ルフトハンザは「根拠のないいいがかり。」と非難を否定したが、事実はどうなのだろう。というのも大きな会社を幾つも所有しているニュルンベルクの企業家が、「エアベルリンを500億ユーロで丸ごと買い取ります。」とオファーを出した。しかし「エアベルリンは企業として失敗したので、企業として丸売りすることはない。」とドイツ政府がこのオファーを蹴った。まるで最初から、ルフトハンザへの売却が決まっているような阿吽の呼吸の動きだ。

その後、かってのF1ドライバーで航空会社”Niki”の創設者であるニキラウダ氏は、ドイツのチャーター会社、コンドーアとタッグを組んで、エアベルリンの買取オファーを出した。同氏は「エアベルリンがルフトハンザに売却されると、ドイツ、オーストリア、スイスの航空市場はルフトハンザの独占になり、チケット代が高騰する。」と警告した。その他にもドイツの企業家、その他の航空会からのオファーも入ってきたが、エアベルリンと”Insolvenzverwalter”(会社更生法の適用期間中に派遣される管理人)は全く興味を見せなかった。

エアベルリンの大部分がルフトハンザに買収されることが次第に明らかになってくると、エアベルリンのパイロットは一気にやる気をなくした。エアベルリンのパイロットは、格安航空会社なのにルフトハンザとほぼ同じ額のお給料をもらっている。エアベルリンに買収されたかってのチャーター専門航空会社、”LTU”のパイロットはルフトハンザのパイロットよりもお給料がよく、業界でトップの報酬をもらっていた。しかし同社がルフトハンザに買収されると、ルフトハンザではなくその子会社である”Eurowings”に就職することになる。この格安航空会社は”Ryanair”よりも待遇が悪く、業界でもっとも低いお給料しかもらえない。それでもまだいい方で、エアベルリンの従業員8000人の内、ルフトハンザが雇用を請合う用意があるのはたったの3000人。5000人は失業になる。

それでもエアベルリンの社員は、「いつまでお給料が出るかわからない。」という最悪の環境下でも、真面目に働いた。日本人には当たり前だが、路上で拾ったお財布を警察に届けると、「滅多にいない善人」としてテレビでニュースになるドイツでは、とても珍しい光景だった。もっともパイロットは給料の半減を受け入れることを拒否、ドイツ人の必殺技「病欠」を使用、エアベルリンは数多くのフライトのキャンセルを余儀なくされた。これに大いにあわてたのがドイツ政府。以前、紹介したようにエアベルリンは飛行機をすべて売却しており、同社の資産価値はスロットと呼ばれる空港の離着許可しかない。この許可は、飛行機が飛ばないと取り消されしまう。するとベルリンの資産価値はゼロで、ルフトハンザへの売却も水に流れる。ドイツ政府は、「政府がお金を出して運営を保障してるんだから、ちゃんと仕事をしなさい。」と異例の声明を出して、病欠のパイロットを叱咤した。

こうしてドイツ政府が用意した1億5千万ユーロの資金は湯水のように流れ出した。当初、11月末までの営業が可能とされていたが、フライトのキャンセルで予約が激減、赤字が上昇、「10月末までしか操業を続けれない。」と言い出した。これがルフトハンザとの交渉を前押ししたのか、ルフトハンザとエアベルリンは上述の「ニキ」を含む、81機の飛行機(正確に言えば離発着権)と乗員3000人を2億1000万ユーロの捨て値で買収することに同意した。しかし”Easyjet”との交渉は難航した。エアベルリンが10月27日が操業最後の日と宣告したのに、10月26日になっても交渉が続いた。”Easyjet”が値段をさらに叩こうとしているためで、最後の10月27日の深夜になってようやく同意に達した。“Easyjet”はエアベルリンのテーゲル空港発着のスロットを4000万ユーロで購入した。テーゲル空港で働いているエアベルリンの従業員は、「1000名まで”Easyjet”に応募できます。」という。すなわち”Easyjet”に応募して、同社の出す新しい就職の契約書、勿論、条件がエアベルリンよりも悪い、にサインする必要がある。

こうして解体セールが終わってみると、オレイリ氏が予言/非難した通り、ルフトハンザがエアベルリンの大部分を買収することになった。これを偶然と思う人はいないだろう。明らかにドイツ政府とルフトハンザが裏で話し合っていたのだが、状況証拠だけでこれを証明できない。きっと数年後には何処かの新聞社が当時の取引をすっぱ抜いてスキャンダルになるだろうが、その頃にはすでに買収は成立した後。勿論、寡占局が文句を言うだろうが、ドイツ政府が介入する。ルフトハンザは格安航空会社では後発組。路線も飛行機も格段に少なく、Ryanair Easyjetには太刀打ちできなかった。しかし今回の買収で、上位への差をぐっと縮めることができる。ルフトハンザの株価がかってない最高値の27ユーロを突破したのも無理はない。

こうして4000人近いエアベルリンの従業員は、10月末で職を失うことになった。エアベルリンの本拠であるベルリンとデュッセルドルフ(NRW州)は、従業員の受け入れ組合を立ち上げようと、他の州と交渉に入った。この組合が誕生すれば、半年間はここに籍を置いてこれまでのお給料の70%を確保しながら、職探しをすることができるので、ショックを和らげることができる。しかしお金持ちのバイエルン州が、「ベルリンとNRW州のためになる組合に出す金はない。」と参加を拒否、組み合い案は頓挫した。ミュンヘンにもエアベルリンの従業員が居るのだが、デユッセルドルフやベルリンに比べて数が少なく、政治的な重みがなかった。

お世話になりました。

 

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