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Aufstocker (22.01.2018)

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日本語での正確な報道がないので、「欧州ではドイツだけ経済の調子がいい。」と思われている方が意外に多い。2017年の国民総生産高の上昇率で見れば、ドイツの景気はEU内で12~13番目、EU加盟国のほぼ真ん中の順位にある。ルーマニア、ポーランド、アイルランド、スロベニア等、ドイツがうらやむような経済成長率を成し遂げているのに、日本では「ドイツばかり勝っている。」という誤謬が広がっている。日本で報道される記事は偏ったもの、誤ったものが多いので、どうか信用されませんように。

ドイツの労働省が発表する失業率も、この誤謬を広めている原因のひとつになっている。労働省が出している最新の統計を見ると、2017年12月の時点で失業者の数は285万人程で失業率は5.3%となっている。この数字だけみて、「ドイツでは地域より完全雇用に近い状況にある。」と主張している人が居る。しかしドイツの実際の状況は、わずか1行の統計を見えるだけではわからない。

ドイツでは長期失業者(1年以上)は、”Maßnahmen”(対策)と呼ばれるコースに送られる。ここでは朝から夕方まで「正しい仕事の探し方」を学ぶことになるのだが、中身は空。「意味がない!」とこのコース休むと失業金をカットされるので、失業者には一種の罰則として受け止られている。このコースは2週間から3週間続くが、コースに通っている間は失業の統計から外れる。これが目的で政府は毎年、数億ユーロもの金をこのような対策コースに送り込んでいる。そして失業者が若い頃に習った職業では就職する可能性が低い場合は、新しい職業訓練を受けるコースに派遣される。この職業訓練コースは2年も続き、期間中は失業者としてカウントされない。

しかしなんと言ってもこの公式な労働省統計の最大の詐欺は、”Aufstocker”と呼ばれる労働者の数だ。ドイツでは日本と同じく、派遣という雇用体系がが社会に広く浸透している。よりによって大企業は人件費を節約するため、正規の労働者を雇わないで派遣で済ます。結果、同じ仕事をしているのに、派遣のため給与が低くてお給料が生活保護にも満たない人が120万人もいる。そのようなケースでは労働者は生活保護を申請すると、労働省から生活保護の額とお給料の差額が支給される。このように仕事があるのに生活保護を受けている人を”Aufstocker”と言う。企業側は派遣を多用することにより多額の人件費を節約、毎年、過去最高益を記録している。結果、「ドイツは飛び鳥を落とす勢いじゃないか。」と外国では見えてしまう。

労働省の正式な失業者数に120万もの”Aufstocker”を加えてみれば、ドイツの労働市場は「飛ぶ鳥を落とす勢い」どころか、過去最大の失業者数に匹敵する。統計の操作はこれだけではない。かっては失業すると失業期間中、国が年金の掛け金を払ってくれた。外国人だろうが、ドイツ人だろうが差別をしないで。これをしないと被雇用者が将来、年金を受給する年齢に達すると年金支給額が低すぎて、生活保護を申請することになる。これは将来の政府、世代に大きな負の遺産を残すことになる。そこで現在の政府が失業者の年金を肩代わりして年金の掛け金を払い込んでいた。ところが社会保障制度の改革でこれが廃止された。そればかりか公的年金を改革(支給額を減額)、「年金だけでは足らないから、自分で年金基金に加入しなさい。」とやった。

この改革から20年近く経って、この年金制度で働いていた被雇用者が次々に年金生活者になり始めた。多くのドイツ人、とりわけ女一人で子供を育てあげたシングルマザーは、ほとんどの場合で年金支給額が生活保護額に満たない。そこで生活保護を受けているのだが、このような年金額が生活保護額に満たない人の割合が、年金生活者全体の16%と非常に高い。しかし政府にとって嬉しいことに、この年金”Aufstocker”の数は失業統計に出てこない。だたしい嬉しいのはそこで終わりだ。2036年にはこの割合がなんと20.2%に達するとみられており、ドイツ政府にとって大きな財政的な負担となる。人口がコンスタントならそれでもまだ払えるが、人口は減る一方。毎年現減少する勤労者の数では、日本並の大きな借金をしないと払える額ではない。このような背景を見ず、「ドイツでは地域より完全雇用に近い状況にある。」と表面だけ見ている報道には注意して欲しい。現実はそんなに甘くない。

ドイツで年金生活。

 

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