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罪と罰 (18.05.18)

投稿日:2018年7月25日 更新日:


2018年になっても排ガス洗浄を操作しているソフトを搭載。

フォルクスワーゲン社(以下VWと略)がデイーゼル車の排ガス洗浄機能をソフトウエアを使って操作したことを認めてから、3年が経った。VWは米国と韓国で罰金を払ったが、欧州や日本では全くお咎めなしだった。日本車も同様の操作をしているので、ドイツ車に罰金を課すなら日本車にもこれを課さなければならない。

そこで呉越同舟となり、誰もその責任を問われないことになった。唯一、米国で車を買っていれば賠償金をもらって、車を新車価格で返却できたたが、ドイツで購入した消費者は貧乏くじをひいた。そんなことが許されていいのだろうか。

フォルクスワーゲン社

消費者には理解できないこの待遇の違いの理由のひとつに、ドイツでは企業に対する”Sammelklage”(集団訴訟)が認められていないことがあげられる。VWのデイーゼル車を買ってしまった被害者は、VWが違法なソフトを使って排ガスを操作したとわかっていても、これをドイツの裁判所に訴えて損害賠償を勝ち取る必要がある。

しかし世界で最大の販売台数を誇る大企業を相手に、勝てるチャンスは低い。VWの弁護士はあらゆる手を使って裁判/公判の開始、進展を遅らせる。裁判費用を2年も3年も払える人は多くなく、訴訟してもお金を失うだけなので最後はVWが勝つ。

BMW

これを知ってか、VWを初めとする車業界は全く反省していない。2018年になってまずはBMWが、「車に間違ったソフトをインストールした。」として、デイーゼルエンジンを搭載した車をリコールした。
参照元 : Bimmet Today

BMWの声明によると、「他の車種に開発されたソフトをインストールしたので、排ガス洗浄機能が作動しない。」という。つまるところ、BMWも排ガス洗浄機能をストップさせるソフトをインストールしたことを認めたわけだ。違法な操作を素直に認めると米国で多額の損害賠償金を払う羽目になるので、「間違ってインストールした。」という、いかがわしい言い訳を付け加えた。

BMWは何故、そのようなソフトを開発(おそらくはボッシュから購入)したのか。排ガス洗浄機能の操作はすでに3年前に公になり、車業界は非難の的になった。VWがみせしめになり高額の罰金を払ったのに、車業界はこの一件から何も学んでいないようだ。

Audi

2018年5月になるとドイツの週刊誌、シュピーゲル誌が、「アウデイはこれまで未知の排ガス洗浄操作ソフトを、同社のデイーゼル車にインストールしている。」と報道した。アウデイは当初、「ノーコメント」だったが、交通局が調査を始めた。するとこれまでは「排ガス洗浄の操作はVWだけ。アウデイは関係ありません。」と無実を主張していたアウデイが、「うっかり(間違って)A6,A7に排ガス洗浄機能を操作したソフトをインストールした。」と認めた。

参照元 : Zeit Online

アウデイによるとこの違法ソフトがインストールされている車はドイツ国内で3万台登録されており、輸出された車は3万台に登るという。さらにはこの違法ソフトがインストールされている車は日々、アウデイの工場から出荷されているので、その数は日に日に増加している。これ以上被害を拡大させないために、アウデイはこの車種の製造ラインを止めることを余儀なくされた。

デイーゼルゲイトと呼ばれるスキャンダルから3年、張本人のVWは何も学んでいないばかりか、未だに違法なソフトをインストールした車を消費者に騙して売り続けている。これほどあつかましい業界が、(銀行業界を除いて)他にあるだろうか。3年前のスキャンダルでは、(VWの前社長の言葉を引用すれば)「VWは嘘をついたわけではない。」と堂々と詐欺行為を正当、罰金を払わずに済んだ。今度も同様に、「間違い。」で済まされるのだろうか。

集団訴訟

ドイツで集団訴訟が禁止されていたのは、企業を守ることを最優先するCDU/CSUの政策の賜物だった。ところがデイーゼルゲイトで、欧州の消費者には当然の権利さえも行使できないことが明白になった。これでは選挙民に受けが悪い。このままでは秋に実施されるバイエルン州選挙で大敗するかもしれない。そこでこれまで「反対」の一言しか言わなかったCSUが、態度を軟化させた。

米国では塗れた猫を電子レンジに入れて乾かそうとした消費者が、電子レンジの製造元を訴えて億単位の賠償金を取る。そのような「訴えた者勝ち」の状態を回避すべく、「どこまで消費者に集団訴訟の権利を認めるか。」と討議された挙句、”Musterfeststellungsklage”(見本訴訟)が閣議で決議された。

見本訴訟

これは一種の集団訴訟ではあるが、弁護士がぼろ儲け、失礼、濡れ手に粟、失礼、集団訴訟を目的とする弁護士組合が発生しないように、デイーゼルゲイトのような企業による詐欺行為が発生すると、消費者保護団体がその企業を相手に見本訴訟を起こす。これには最低50人の被害者が必要だ。50人の原告が集まると、消費者保護団体が原告に代わって企業を提訴するので、原告には費用は発生しない。

「(例えば)アウデイは違法なソフトをインストールした車を新車価格で買い戻しなさい。」と判決が出た場合、車を返却できることになる。難しいのは賠償金を要求する場合。個々の賠償金は見本訴訟では要求できないので、個々に企業を訴える必要があり、消費者は大企業に対して不利な立場にあることは以前と変わらない。

とは言っても、これまでは集団訴訟が全くできなかったドイツで、企業を訴えることが可能になるので歓迎できる。悪事を働いた企業がこれまでのように、「何も悪い事はしていません。」とうそぶくことができなくなる。そして裁判で負けた場合のイメージダウンは、企業が払う賠償金よりも大きい。

そして排ガス洗浄を操作したアウデイを買わされた消費者は、この制度を利用してアウデイを訴えるころが可能になる。よりによってVWによるデイーゼルゲイトが原因で議論が始まった集団訴訟が、まさにそのVWの子会社のアウデイに対して行なわれるといのは、当然の報いとしか言いようがない。

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執筆者:

nishi

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