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仏の顔も三度まで (12.02.2018)

投稿日:2018年4月7日 更新日:

2017、社会民主党の党首だったガブリエル氏は選挙を控えて、「メルケル首相相手に勝ち目がないから。」と党首の座を、これまでEU議会大統領だったシュルツ氏に譲った。ガブリエル氏はこの取引の条件として、社会民主党がCDU/CSUとの大連合政権を継続する場合、外務大臣の椅子に留まる保障をシュルツ氏に求めた。選挙に勝って首相に就任することを夢見ているシュルツ氏はこの条件に同意、社会民主党の党首兼首相候補として総選挙に臨んだ。これが第一の誤算だった。

後からみれば、ドイツで選挙戦を戦ったこともなければ、ドイツ国内で政治家としての経験がほとんどない人物を、よりによってメルケル首相の対立候補としてあげることは、ドンキホーテ並の愚作だった。選挙戦の始まりから終わりまで、シュルツ氏は世論調査、選挙公約、知名度、あらゆる面でメルケル首相に及ばず、惨敗を喫した。これがシュルツ氏の誇りを大いに傷つけた。敗戦後、選挙を支援した党員の前に現れたシュルツ氏は、「大連合政権の継続は有り得ない。」と断言、敗戦で落ち込んでいる党員から喝采を受けた。これが第二の誤算だった。選挙結果開票の当日に、「○○は有り得ない。」と明言してしまうと、将来の撤退路を自ら断つことになる。しかし経験の浅いシュツ氏には、これが理解できなかった。

社会民主党が大連合を頭から否定したので、メルケ首相は国会で過半数を制する唯一の可能性である3党(正確には4党)からなる連立政権の話し合いを始めたが、難航した。レポーターはシュルツ氏に記者会見を申し込み、「大臣の椅子と引き換えに、前言を翻して大連合政権に加わる気はないか。」と尋ねるた。するとシュルツ氏は侮辱されたような顔をして、「メルケル政権下では、政府に加わることはない。」と明言した。これが第三の誤算だった。

その後4党からなる連立政権の話し合いが決裂した。大統領は各党の党首を大統領府に招いて、再選挙をしないで新政権を樹立する可能性を打診した。この打診を二つ返事で受け入れたのがシュルツ氏で、メルケル首相との大連合政権の話し合いを始める用意があると、開票日の明言をあっさりと翻した。党員は党首のこの突然の心変わりに大いに戸惑った。「有り得ない。」と言っていたことを、3ヵ月後には、「あり得る。」とあっさりと方針転換する人物の言葉にどれだけ価値があるだろう。そんな人物が党首では4年後の総選挙でも、結果は見えている。党内で大反対の声があがったが、党首脳部は結束して臨時党大会で党員を説得、かろうじて過半数の党員が大連合の話し合いに賛成票を投じた

社会民主党はこの連合政権話し合いで、「なにがあっても首相に留まりたい。」というメルケル首相の心理を巧みに利用、財務省、外務省、労働省、法務省、環境省、そして家族省など予算がとりわけ多い省をキリスト教民主同盟から奪取することに成功した。キリスト教民主同盟内では、政権の成否を決めかねない大事な財務省が、選挙で大敗した社会民主党に譲渡されたことに不満の声があがった。逆にシュルツ氏には、この交渉結果は大きな手柄だった。これまでメルケル首相に歯が立たなかった同氏は、ようやく戦術的な勝利を奪取した。今後、この話し合いの結果を党員に説明、過半数が合意に賛成票を投じれば、大連合政権の成立となる。果たして党員はこの合意に賛成するだろうか。それとも前言を翻して大連合を続ける同氏に、反対票を送りつけるだろうか。「爆発する可能性のある爆弾は、事前に処理したほうがいい。」と判断したシュルツ氏は、党首の地位を幹事長のナーレス氏に譲ると発表、1年も経たないで党首の地位を放棄してしまった。

シュルツ氏が大連合の責任を取ったことで、過半数の党員が大連合政権に賛成する可能性が高まった。が、これも長続きしなかった。というのもシュルツ氏はまたしても前言を翻して、「新政権では、外務大臣に就任する。」と言い出したからだ。この翻意にとりわけ怒ったのが、現外務大臣のガブリエル氏だ。約束を保護にされたのだから、無理もない。同氏はメデイアとのインタビューでシュルツ氏の約束破りを非難、「顔に髪が生えている人物ではなく、今後は家族と一緒に時間を過ごすことができる。」という娘からの慰めのメッセージを公開した。このメッセージはあらゆる報道機関で引用されて、ニュースのトップを飾った。これはとってもまずかった。というのもガブリエル氏は社会民主党の政治家では、最も知名度が高く、最も人気のある政治家だった。シュルツ氏のこの声明は、社会民主党の地盤であるNRW州(州都はデユッセルドルフ)で、憤慨の嵐をまきこした。NRW州の社会民主党は最大の党員を抱えており、これを敵に回しては来る大連合政権の継続投票で過半数の賛成票を取るのは難しい。

この時点でシュルツ氏は前言を一度や二度翻しても構わないが、これを人気の政治家相手にやっては自身の命取りになることを悟った。同氏は日本の政治家の得意技、知らない、聞こえないふりをすることもできたが、これをするとますます人気を落として、党員が連合に反対票を投じる可能性があった。連合を救うには、責任を取って外務大臣の椅子を放棄すること。この場合でも同氏の政治家としてのキャリアはゴミ箱だが、大連合政権の合意を救えるかもしれない。こうしてシュルツ氏は唯一正しい決断を下して、外務大臣の椅子を放棄すると声明を出すと、情け容赦ない記者の届かない場所に隠れこんでしまった。哀れ。同氏には国内での政治家しての経験が欠けており、度重なる戦術上の誤りを犯した。これが致命傷だった。シュルツ氏の跡を継ぐナーレス女史は経験豊富だが、果たしてSPDを復活させることができるだろうか。さらに党員は連合の合意に賛成するのだろうか。

 

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執筆者:

nishi

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