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メルケル4次政権 (20.03.2018)

投稿日:2018年5月23日 更新日:

CDU/CSUと大連合政権の話し合いに入ったSPDは、去年の総選挙で大敗を喫したにもかかわらず、とっておきの切り札をもっていた。それはこの話し合いを挫折されるという脅し。話し合いが合意に達しない場合、CDU党内のメルケル反対派に大きなチャンスを与える。反対派に主導権を渡すのをなんとしても避けたいメルケル首相は、SPDに大きな妥協をする用意があった。そして案の定、大きな妥協をした。メルケル首相はこれまで12年間、CDUの砦であった財務省をSPDに明け渡してしまった。22時間も続いた話し合いが終了してみると、SPDは財務省、外務省、法務省、家族省、環境省、労働省の6つの省を奪取。選挙で大敗した政党には、ありあまる結果だった。

メルケル首相が何の代償も求めずに、肝心要の省庁を明け渡したことに党内では反対の声があがったが、そこは老練なメルケル首相、その対抗策をちゃっかり用意していた。フランス国境にある小さなザールランド州でSPDの果敢な攻撃を撃退、まるで砦のようにザールランド州を守っていたカレンバオアー州知事を党の新しい幹事長に指名した。党内で出世するには地方政治で成果を上げて党首に選出されるケース(例えば前コール首相)と、党内で競争相手を蹴散らしてコネだけで党首に選出されるケース(例えばメルケル首相)がある。党内では後者よりも前者の方が名声が高い。そこでカレンバオアー州知事を党の幹事長に就任させることで、党内の反対派を押さえ込む見事な戦術だった。勿論、男性の州知事もいたが、男性の州知事はかってのコッホ氏のように首相を攻撃して自分の出世を最優先するので、メルケル首相は男性は信用していなかった。

メルケル首相の思惑通り、カレンバオアー州知事が北朝鮮か中国の人民会議のような98.8%の賛成票多数で幹事長に就任すると、反対派の声はとても小さくなった。さらには党内でのメルケル批判派の旗手、スパ-ン氏を厚生省の大臣に就任させた。一見すれば批判派に大臣の椅子をプレゼントして、そのお返しにメルケル首相への忠誠を要求するようにも見えるが、実はそうではない。数多い省の中でも一番危険なのが防衛省。任期中に首になることがもっとも多い省だ。これに続いて批判されることが多い省が厚生省。高年齢化社会でドイツの医療費はうなぎのぼり。若い人が減る一方で、どうやって現在の健康保険制度を維持できるのか。スパーン氏を厚生大臣にすることで、同氏はメルケル首相を批判する余裕がなくなり、この方面からの危険が減少する。スパーン氏が健康保険の改革に成功すれば、それは同氏を任命したメルケル首相の手柄になる。同氏がヘマを犯して失脚すれば、反対派を黙らせることができる。これは4年前フォン デア ライン女史を国防大臣に任命したときと同じ戦術で、フォン デア ライン女史はドイツ軍の問題で手一杯、メルケル首相の地位を脅かす存在ではなくなった。

SPD党員による大連合の賛否の投票結果は、こうした背景もあり66%の党員が賛成票を投じた。もっときわどい結果になると予想されていたが、SPDの首脳がメルケル首相から大きな妥協を奪取したことが大きく評価された。あとはもう事務手続きのみ。3月14日、国会にて首相の選出投票が行なわれた。CDU/CSU、それにSPDは合計で399議席を有しているが、メルケル首相に”Ja”で投票したのは、364人(票)。10%近い党員が反対票を投じたことになるが、過半数をかろうじて9票上回っていた。米国との関税戦争が控えている今、ようやくメルケル4次政権が誕生した。もっとも国民の期待はそれほど大きくない。国民の間で貧富の差が広がり続ける中、何も対抗策を出さない大連合政権が君臨する限り、ドイツでも米国やイタリアのように右翼とポプリストがますます支持層を増やしていくのが心配だ。

新政権での財務大臣には、ハンブルク州知事のショルツ氏(SPD)が就任した。同氏はSPDの期待の星だったが、数年前、オリンピックのハンブルク招致でヘマをおかした。ハンブルク市民は、「高い金がかかるだけのオリンピックなんて要らない。」と言っていたのに、個人の名声を売りたい一身で招致運動を開始した。最後には住民投票で是非が問われ、ハンブルク市民はきっぱりとこれを拒絶した。お陰で招致運動に使われた金はどぶに捨てることになった。これで学んだかと思えばそこは政治家、名前、顔を売る機会があると、何度でも同じ間違いをする。今度は先進国首脳会議。ハンブルク市民は、「他でやってくれ。」というのに、会議を無理やりハンブルク誘致した。結果は「ハンブルクの反乱」と飛ばれる無法状態だった。世界中から集結した左翼の無政府主義者が、市内で車に放火、店舗を略奪、警察は遠くから見守るしかできなかった。この二度目の失敗後、同氏が再び(正確には三度)ハンブルクの州知事に就任できる可能性は低い。そこでまたタイマーが緑のうちに、中央政府に呼び戻して財務大臣に就任されることにした。この思わぬ出世は、SPDの新しい党首、ナーレス女史に負うところが大きい。

逆にナーレス女史と仲が悪い現外務大臣のガブリエル氏は、外務大臣の椅子を負われて、引退に追い込まれることになった。1年前ほど前までは同氏は党首だったのに、仲違いをしたために閣僚にも入れてもらえず、表の政治舞台から消えることになった。哀れ。空いた外部大臣の椅子に座るのは、これまで法務大臣だったマース氏だ。同氏は前政権では法務大臣だった。その成績はぼちぼち。原子力燃料税では最高裁判所で敗北、違法に徴収した50億ユーロを超える税金の返却を余儀なくなれた。そして同氏のイニシャテイブで法になった家賃ブレーキ法は全く役立たず。役に立たないどころか、家賃を返って上昇させることになった。にもかかわらず、同氏が外務大臣の要職につけたのは、ナーレス党首のお陰。外務大臣として重責をこなせるか、あまり期待しないで長い目でみるしかなさそうだ。

最後に社会民主党の新党首に指名されているナーレス女史だが、地方政治には参加せず、党内でキャリアを積んだ官僚政治家だ。そう、ちょうどメルケル首相のキャリアと同じ。そして国民に人気がないのも同じ。(メルケル首相は、首相になってから人気が上昇。)4年後は彼女が首相候補として総選挙を戦うことになる。すなわち今後4年間大きなヘマを犯さず、「行儀良く」している必要がある。このため女史は新政権には参加せず、党首として現政権に一歩距離を置くことにした。メルケル政権下でスキャンダルが発生しても、女史には関係がない。それどころかスキャンダルは大歓迎。この機会に政権、あるいは大臣を非難することで点数を稼げる。なかなか賢い決断だ。これまでのSPD首相候補は、この点で失敗してきたので、4年後には「ナーレス首相」が誕生しているかもしれない。
 

 

メルケル4次政権誕生

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執筆者:

nishi

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