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2017年 総選挙 (25.09.2017)

投稿日:2018年1月22日 更新日:

2017年9月24日、ドイツで下院の選挙があった。日本でも報道されてはいたが、勘違いな報道がされていた。折角、金のかかるドイツ特派員を派遣しているのに。こうした報道の末に、日本では現実とはほとんど関係ない、「ドイツ像」が出来上がっている。では、本当のドイツの現場はどうなのか。選挙結果とその背景をここで紹介しよう。

大雑把に言えば今回の総選挙では小さな政党が勝利して、”Volkspartei”(大衆党)と呼ばれる大きな政党が敗退した。勝者の中でも一番注目が集まったのが”AfD”(Alternativ für Deutschland”)の名前で知られる右翼政党だ。右翼政党が国会に進出したのは今回が始めてではないが、”AfD”はかってのナチス党以来、誰も達成できなかった12.6%もの得票率を得て、国会で第三の勢力になった。「何処の国でも右翼思想を抱くものが5%程度は居るものだ。」とかってドイツの有名な政治家が語っていたが、この得票率は右翼思想とは縁がない選挙民を獲得することに成功したことを示している。この党の何処がそんなに魅力的なのだろう。

「ドイツ人はケチ」という話を聞いたことがあるだろうか。ドイツでは日本よりも税率(正確には社会保障費)が高く、「1月~6月は税金を払い、7月~12月はやっと自分のために働く。」と言われている。こんなに大きな犠牲を払っているのに、政府はドイツ(人)のために税金を使用せず、働きもしない移民、難民に数億ユーロもの金を使うのが許せない。そう、ドイツ人は、「働きもしない」というが、難民は就労を禁止されていることが多い。難民が就職するとドイツ人の職を奪う懸念から、「ドイツに滞在してもいいが、就労は禁止する。」というおかしな政策を取ってる。就労を禁止された難民の生活費は、国が払っている。そんなことは知らないし、知りたくもないドイツ人は、「難民は俺たちが払った金で、のうのうと生活している。」と勘違い、憎しみのターゲットを難民に向けている。

かっては右翼と言えば、学校での成績が悪く仕事に就けなかったり、若い頃から犯罪を犯して職に就けない人間の寄せ集めだった。こうした人間に、「かってのドイツの栄光をもう一度。」と言えば、トランプ大統領やトルコのエルドガン大統領のように、面白いほど簡単に票が釣れる。しかしドイツのように過去の負の遺産を抱えている国では、このような幼稚なスローガンではせいぜい5~6%が限度だ。そこで”AfD”は通常は保守党に投票している選挙民を巧みに誘導した。例えばドイツに数多く住むドイツ人の移民。かってのソビエト連邦に数多く住んでいたドイツ人を、ドイツに帰属することを可能にしたのはかったのコール首相だった。以来、ドイツ人移民はこれの恩返しとして、賄賂スキャンダルがあってもCDUに投票した。ところが今回はドイツ人移民は揃って”AfD”に投票した。

ドイツ人移民は、ドイツで厳しい生活を迫られている。ソビエトに長く住んでいたので、ドイツ語が苦手で、ロシア語を好んで話す。これでは職につけるわけもなく、犯罪者になる人間も少なくない。そのCDUがドイツ(人)のために金を使用せず、難民ばかりに金を使っているという”AfD”の宣伝は、ドイツ人移民の傷ついたハートを捕らえた。”America first”(アメリカ優先)の向こうを張って、「ドイツ人のためのドイツを取り戻す。」とやると、ドイツ人移民は、「やっと俺たちの声を聞いてくれる政党が現れた。」と思い込んだ。こうした層の支援を背景にして、”AfD”は第三党に躍進することに成功した。ちなみにこの巧みな戦略を考えたのは党首のガオラント氏だ。外見に誤魔化されないように。氏は高齢にもかかわらず選挙民の感情を理解する嗅覚を備えており、これにマッチするスローガンを考案する。まるでかってのゲッペルス宣伝大臣のようだ。

“AfD”はこれまで保守党に投票していた選挙民のハートを捕らえたので、与党のCDUとCSUの被害が一番多かった。先回の選挙に比較して9%近く投票率を落とし、33%の投票率に留まった。この選挙結果は1949年のドイツ連邦共和国の最初の下院選挙に次ぐ、史上二番目に悪い選挙結果だ。とりわけバイエルン州のCSUは得票率をがっくりと落とした。CSUと言えば中国の中国の共産党のように戦後、常に政権を維持してきた政党だ。この政党がなんと過半数を割り、バイエルン州の内務大臣が国会議席を失うという異例の事態が発生した。その責任は党首のゼーホーファー氏にある。4年前、「党首にはもう立候補しない。」と明言しておきながら、4年後はこの約束を反故にした。そしてゼーホーファー氏は”AfD”が彗星のように上昇していくのを見ると、この政党を右側から追い越して人気を回復しようとした。ゼーホーファー氏は政敵の”AfD”を攻撃せず、メルケル首相を攻撃した。これが選挙民離れを引き起こした。

しかし一番哀れな敗者はSPDのシュルツ候補(党首)だ。過去最低の20%の投票利を僅かに上回る、20.5%の得票率でさんざんたる敗北を蒙った。そしてその原因は、候補者自身にある。メルケル首相は何も約束せず、具体的な提案はすべて避けるという、通常ではありえない選挙戦を展開した。これまでいろんな約束をしたが、なにひとつ守れなかったからだ。何も提案しないので、シュルツ候補は攻撃に適している側面を見出せなかった。そこで自身が公約をする攻勢に出たが、「政府の投資を憲法に書き込むべきだ。」と誰も関心のない方向に突進した。選挙民は悪化する治安、増える難民、そして減り続ける年金に対して不安を抱えているのに、「政府は投資をするように憲法に書き込むべきだ。」と主張する候補は、一体、何を考えていたのだろう。さらに対立候補としてメルケル首相の政策を攻撃すべきなのに、「首相の難民政策は正しい。」と首相を擁護する、全くおかしな選挙戦を展開した。過去二番目に悪い選挙結果を記録したのも、これでは無理もない。

シュルツ氏は大敗して、やっとこれに気づいた。このまま連立政権に留まり、4年後の総選挙に望めば20%を割り込むことは避けられない。これを避ける方法はただひとつ。与党ではなく、野党になることだ。実際、国民から愛想を尽かされて国会から消えていたFDPは4年後、同じ選挙テーマで復帰を果たした。野党になり、与党のヘマを待つ。これがSPDの唯一の救済策だ。日本では、「SPD、連合解消する。」と報道されていたが、連合は解消していない。メルケル4次政権では、連合に参加しないだけだ。その連合だが、SPDが「もう一緒にやらないよ。」と言っている今、メルケル首相はFDP、それに緑の党と三党連合を組まないと過半数を取れない。FDPと緑の党は犬猿の仲なので、どうやってこの連合を可能にするのか、メルケル首相の交渉の腕が必要となる。万が一連合が成立せず再選挙になった場合、経済界に不安の種を蒔く。そのときはメルケル首相は辞任して、後継者に道をあけるべきだろう 。

総選挙で大敗を喫したSPD党首、シュルツ氏。いつまで党首に留まれるか?

 

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