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ブレキシット / Brexit 最終章 ジョンソン首相の最後のブラッフ

投稿日:2020年10月26日 更新日:

ブレキシット / Brexit 最終章 ジョンソン首相の最後のブラッフ
ボリス ジョンソン首相へのメッセージ

2016年の国民投票で決まったブレキシット / Brexit 。いよいよ佳境に迫ってきた。

2020年12月31日にイギリスはEUを正式に離脱する。その際、離脱合意をもっての離脱になるか、それとも合意なしの離脱になるのか、これまで1年間交渉が続けられてきた。

数か月前までは、

“No Deal”

すなわち合意なしの脱EU が有力視されてきたが、ここにきて一気にその展望が変化して、

“with Deal”

離脱合意に達する展望の方が高くなってきた。そして合意への展望を与えたのは、よりによってコロナウイルスだった。

ブレキシット / Brexit 交渉は茨の道

ブレキシット / Brexit 交渉は茨の道。

イギリスで生産された製品が、EU内で自由に(関税なく)輸出、販売きることの利益はとても大きいです。

同じ製品を例えば日本に輸出してもいいですが、輸送費がかかり割高になります。”Made in England”と書く事で付加価値を付くなら、日本製品と争っても売れます。

でも、すでにイギリスにはそんな付加価値のつく製品は存在していません。

かってはイギリスを代表したロールス ロイス(車の方です)、ミニはBMWが、ジャガーはかっての植民地のインドのタタ モーターが、所有している。わずかに残ったイギリスの生産業では、もう付加価値をつけることができない。

だから日本には「イギリス製」と書かれた高価な製品は(ほとんど)売られていない。そのイギリスにとって値段で勝負できるEU内の巨大な市場へのアクセスは、イギリス経済には死活問題です。

ところがEUにしてみれば、

「EUを抜けたい。」

と自分勝手を言い出した島国に、加盟していたときと同じ権利を認めるわけにはいきません。そんな事を許したら、次はイタリアがイギリスの真似をします。

だからイギリスどんなに頑張っても、EU加盟国であったときによりも条件は悪くなります。ところがそんな簡単なことも理解できない、理解しようとしないのがイギリス人。

北アイルランド問題

私がドイツに留学した当時は、北アイルランドは内紛状態でした。

イギリスで兵役を終えてドイツで就職した同僚、

「北アイルランドで兵役中、でかい石が飛んできて肩の骨を折った。」

と、言っていたのが今でも忘れられません。

この紛争の原因は、イギリスによる北アイルランド占領です。

アイルランドが独立する際、北アイルランドだけは英国領となりました。その北アイルランドが、アイルランドから独立しようとしたんです。

これは第二次大戦後、韓国の釜山一体を日本領として残したまま韓国が独立、その後、釜山一体が韓国から独立するようなもの。

アイルランド国民には、北アイルランドの独立は絶対に許せません。そこで内紛が勃発、1998年までに3500人が殺害されました。

その内戦を終えることができたのが、「今の状態を保持する。」というアイルランド政府とイギリス政府との同意です。

ところがイギリスがEUから離脱すると、イギリスに属する北アイルランドとEU加盟国のアイルランドの間で、再び国境が生まれることになります。これは再び内紛の再燃につながりません。

その内紛の危険を回避する案でメイ(前)首相は、党内をまとめることができず、辞任に追い込まれます。その辞任劇に一役買ったのが、現ジョンソン首相です。

ジョンソン首相の北アイルランド案

ジョンソン首相は、

「北アイルランドに国境を作らず、イギリス本島内で関税措置を取る。」

という北アイルランド案でEUと合意、正式に脱EUすることが決まります。残るはイギリスで生産された品が、EU内で販売できる条件で合意に達するだけ。

問題はジョンソン首相の資質。イギリスのコロナウイルス対策を見れば、首相の資質がよくわかります。

コロナウイルスが蔓延し始めると、ジョンソン首相は隔離措置を奨励せず、国民をウイルスに感染させて集団免疫を作ろうとします。

それにはものすごい死人が出るとわかると、国をシャットダウンしますが、すでに時遅し。人口の少ないイギリスでドイツの4倍、4万人を超える市民が死亡。

ジョンソン首相は、先まで考えず、場当たり的な対策を実施する計画性のない(典型的な)イギリス人です。脱EU貿易交渉でも、

「合意なしの離脱でブラッフをかければ、合意が欲しいEUは折れて、すべてうまくいく。」

と確信、首相の無茶な計画を実行に移すべく任命されたのが、合意なき離脱を主張してきた David Davis 氏。

デイビス氏は首相から、

「EUにブラッフをかけて、No Deal で脅せ」

と言われる前から、さらさら合意に達する気がない。EUも今後、EUを離脱する国への「見せしめ」が必要なので、いつまで経っても交渉は平行線。

ブレキシット / Brexit 最終章 – 国内市場法案

何を考えたのか、ここでジョンソン首相が持ち出してきたのが、国内市場法案。

「イギリスの国内市場は、イギリスの法案でのみ定めることができる。」

という法案は、1月にEUと交わした合意に反するもの。これが保守派の議員に受けて、国会で認可されてしまいます。

EUは条約違反でイギリスに対して法的措置を発動、

「週末までに法案を撤回せよ。」

と通知。

参照 : Handelsblatt

イギリス政府はこの警告を無視します。それどころかジョンソン首相は反撃に出て、

「10月15日までに脱EU関税で合意に達しない(EUが妥協しない)場合、交渉を終える。」

と宣言。このブラッフに怒ったのがイギリスの宿敵、フランスのマコン大統領で、

「離脱合意がより必要なのは、イギリスの方だ(放っておけばいい)。」

と発言。ドイツのメルケル首相は妥協を促すものの、EU側で交渉にあたっているフランス人のバルニエ氏は、イギリスの最後通報を無視。10月15日は何も起こらず、過ぎていってしまいます。

ジョンソン首相の最後のブラッフ

これに怒ったジョンソン首相、

「脱EU交渉は終わった。」

と宣言、バルニエ氏を始めとしたEU側の交渉団に帰国するように通知します。イギリス国民に対して、

「脱EU交渉は終わった。」

と宣言します。イギリス国民を利用したこの宣言こそが、ジョンソン首相の最後のブラッフでした。

EU側の交渉団がイギリスを去った3日後、

「脱EU交渉を再開したい。」

とジョンソン首相。

参照 : Deutsche Welle

一体、何があったんでしょう?

最悪のイギリス経済 – ブレキシット / Brexit 最終章

ジョンソン首相の出鱈目なコロナウイルス政策で、長期のシャットダウンを迫られたイギリス経済。

4月~6月に国民総生産高が20,4%も落ち込みます。ドイツは10,1%。比較的「軽傷」で済んだ日本は7.8%。

「日本の景気が悪い。」

と思われている方、イギリスはほぼその3倍も景気が悪いんです。その最悪の経済状況で、合意なきEU離脱になったら、イギリス経済はもう回復できないほどのダメージを受けます。

ましてや今、コロナウイルスの第二派が到来、日々、2万人が感染。北部と西部では二度目のシャットダウンに突入。イギリス経済は悪化の一途を辿っています。

コロナウイルスが蔓延する前であればイギリスは合意なき脱EU / hard Brexit も可能だったでしょうが、今ではイギリス経済の棺桶の蓋を止める釘になりかねません。

遅かれ早かれ、ジョンソン首相は妥協して、EUと合意に達します。

切羽詰まった首相、EU と離脱交渉を進めてきたデービス氏を呼び寄せて、

「合意なき離脱になると日々、7000台のトラックが国境を封鎖することになる。」

と警鐘を鳴らして、合意を迫るほどの豹変ぶり。だったら最初からはったりだと見え見えのブラッフなんかしないで、ちゃんと交渉すればいいのに、、。

でもイギリス人は、値段交渉をしないと気が済まない大阪人同様に、ブラッフをかけることが生き甲斐なんです。問題はこれがバレている事を、イギリス人がわかっていない事。

このせいでブレキシット / Brexit交渉が長びく結果に、、。

「ベルリン新空港とブレキシット / Brexit、どっちが先?」

とジョークが流行りましたが、ベルリン新空港は10月31日に開港(予定)。「永遠に完成しない」と言われたベルリン新空港の方が、鼻の差で勝ちそうです。

米 バイデン大統領誕生でジョンソン首相窮地に!

ジョンソン首相とトランプ大統領は、幾つかの共通点で結ばれていました。

その共通点の中でもとりわけ重要なファクター(要因)が、EU嫌い。ジョンソン首相とトランプ大統領は「共通の敵」を持つことで意気投合、米英通商交渉を進めてきました。

ところがその頼みの綱のトランプ大統領の敗戦色が濃くなってきました。バイデン大統領は、

「英国のEU離脱は誤りだ。」

と発言するほどの親EU派。

「なんで米国の上院議員が、欧州の政治にそんなに関心を持つのか?」

と思ったあなたは、素晴らしい感覚の持ち主です。

バイデン一家はアイルランド出身

その理由は簡単。バイデン一家はアイルランドの出身なんです。

バイデン大統領(まだ)候補は、北アイルランドに再び国境線が引かれ、内紛が再燃する事を危惧しているので、英国の脱EUに反対だったんです。

英国の将来を心配しているわけではありません。

ところがトランプを後ろ盾を当てにしていたジョンソン首相は、まさに北アイルランドに再び国境線を引き、内紛が再燃する事を誘発しかねない国内市場法案を議会で承認させます。

これをバイデン大統領(候補)が許すわけもなく、今後の米英の貿易交渉には暗雲が立ち込めています。

バイデン大統領(候補)の優先順位は、明らかにEUが英国よりも上。ジョンソン首相には、11月中にEUとの間で離脱合意に達する圧力がさらに増しています。

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執筆者:

nishi

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