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ラシェット氏 CDU党首選挙を制す!

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ラシェット氏 CDU党首選挙を制す!

ラシェット氏 CDU党首選挙を制す!

2021年1月16日、政府与党 CDUは臨時党大会をオンラインで開き、カレンバオアー党首の辞任により空席となる新しい党首を決める選抜選挙を行った。

党首に立候補したのは3名であったが、本当に見込みがあったのは2名。

NRW州知事でメルケル擁護派のラシェット氏と、メルケル首相との権力争いに敗れてヒラ議員になったメルツ氏。

一番支持者が多いのはメルツ氏だったが、蓋を開けてみると、ラシェット氏が CDU党首選挙を制してしまった。一体、何があったのだろう?

ラシェット氏 CDU党首選挙を制す!

CDUの党首選挙の行方を決めたのは、よりによって一番支持者が少なくて、

「はなっから見込みがない。」

とされていた外交専門家のレットゲン氏だった。氏は三候補の中では一番若く、その政治思想は(CDUの中では)リベラルな方。

環境保護にも積極的で(まだ役職がないので)、言いたい事をバシバシ言い、見ている側には気持ちが良かった。これが若手党員受けた。氏を推していたのはこのCDUの若年層で、最も小さな「派閥」だった。

一方、一番人気のメルツ氏は最年長者で日本風に言えば、保守派。リベラルな言い方をすると(ちょっと)右翼。CDU内には右派とお年寄りが多いので、最大派閥をもっていた。

ラシェット氏は、

「メルケルの政治を継承する。」

と言う穏健派。NRW州はドイツで圧倒的に人口が多い州であるから、ここの州知事であるラシェット氏は、メルツ氏に次ぐ支援者をもっていた。

第一回目の選挙の結果が出ると、案の定、メルツ氏が最多の票を獲得した。次席はラシェット氏だが、その差はわずか5票。予想以上の接戦だった。

レットゲン氏は最も票が少なく、早くも党首選から脱落した。

参照 : www.sueddeutsche.de

まだ誰も過半数の票を得ていないので、二度目の決選投票が行われることになった。すなわちレットゲン氏に投票していた党員が、どの候補を支持するかが、決定的な要因になった。

いざ蓋を開けてみると、レットゲン氏に投票していた党員の1/3がメルツ氏に、2/3がラシェット氏に投票。結果、ラシェット氏の勝利となった。

党首選挙の行方を決めたのは、党首の人柄や政策ではなく、よりによって一番支持率が低かったレットゲン氏だった。(*1)

CDU それとも CSU?

通常は、CDUの党首は総選挙で首相候補指名を受ける権利がある。

第二野党 SPDの支持率が15%と低迷している以上、このSPDの首相候補が首相になる可能性は低い。ちなみにSPDの首相候補はすでに決まっており、党首選出公開ショーで敗退したショルツ氏だ。

なれば世論調査で37%の支持率を得ているCDUの首相候補が、首相になる公算が高い。しかし例外もある。

例えば2002年の総選挙。当時の首相はSPD最後の首相となったシュレーダー首相。本来ならCDU党首のメルケル女史が首相候補として指名される筈だったが、メルケル女史はこれを姉妹党 CSUのシュトイバー党首に譲った。

ちょうどシュレーダー政権は落ち目だったので、何故、メルケル女史がこの絶好の機会を譲ったのか、今でも不明だ。

しかしシュトイバー党首の人気も、バイエルン州以外では極めて低く、人気のない二人の首相候補の争いになった。そして2002年の総選挙は、歴史に残る接戦となった。CDU/CSU、それにSPDは共に38%の得票率で並んだ。

最後の1票まで数えた結果、シュレーダー首相が6000票多かった。

こうしてシュレーダー第二政権が誕生、シュトイバー党首はその後、党首の座も追われて、引退に追い込まれた。

あれから19年経った2021年、

「同じことが繰り返されるのでは?」

とささやかれている。その原因はよりによってコロナ禍だった。

ゼーダー氏 コロナ禍で人気 No.1

国をある危機が襲うと、政治家(指導者)の支持率は高まるもの。

コロナを

「ただの風邪」

と言い、まともな政策をうたなかったブラジルの大統領。お陰で21万人の市民が命を失った。しかし大統領の支持率は上昇。

世界で最悪のコロナ政策を実施(なにもしていない)、40万人の死者を出したトランプ大統領、猛烈な支持を受け、危うく二期目に選出されるところだった。(*2)

この現象はドイツでも例外ではなく、既存政党の支持率が上昇、極右政党 AFDは支持率を落とす一方だ。日本では

「ドイツでは、、。」

と報道されると、メルケル首相の国民向けのメッセージばかりが紹介されている。が、コロナ禍で一番株を上げたのは、バイエルン州CSUの党首、ゼーダー氏だ。

その理由は厳しい行動&外出制限を、真っ先にバイエルン州に導入したからだ。

国の一大事に直面すると国民は、危機を克服するための重責を担う覚悟を決める。

政治家はこれを要求するだけでいい(*3)。そしてまさにゼーダー氏はこれを行った。するとバイエルン州に住むバイエルン人(あえてドイツ人とは言わない。)は、

「この政治家なら危機を克服してくれる。」

と安心して支持率が高まった。他の州で感染者数が増えると、州知事はバイエルン州の政策をコピーした。こうしてゼーダー氏の支持率は、全国に広がった。

ちなみにCDUの新党首のラシェット氏は、経済への考慮から厳しい規制に反対した。NRW州で手に負えないほど感染者が増加してから、ゼーダー氏の政策を真似た。

首相候補は誰に?

人気度ではCDUの新党首のラシェット氏は、ゼーダー氏の足元にも及ばない。

が、コロナ禍が収まれば、ゼーダー氏の人気も後退するだろう。だからゼーダー氏が首相候補になるには、今回が最初で最高のチャンス。気を見るに敏なゼーダー氏が、みすみすこれを見逃すはずもない。

そこで今、水面下でラシェット氏とゼーダー氏の綱引きが始まっている。有利なのはCDUの新党首のラシェット氏。国民の支持率は低いが、CDUはCSUよりも桁違いに大きな党だから、首相候補の指名を受ける権利がある。

が、イケイケドンドンのゼーダー氏を差し置いて、首相候補の権利を超え高に主張すると、党内で反発を買いかねない。決戦投票での得票差が55票であった事を考えれば、ラシェット氏 vs. ゼーダー氏となれば、力関係はひっくり返るかもしれない。

今後、春先から夏にかけて、党首使命争いが激化しそうだ。もしラシェット氏が前任者のカレンバウアー女史のようなヘマを犯すと、

「待ってました!」

と、ゼーダー氏が名乗りを上げることは間違いない。

注釈 – ラシェット氏 CDU党首選挙を制す!

*1

ドイツ語でこのように決定打を出す人を、王様を決める人 / Königsmacher という。

*2

日本の安倍政権、並びに菅政権は世界で誰も成し遂げることができなかった奇業、コロナ危機に支持率を下げる、を達成した。

*3

国民が重荷を担う覚悟があるのに、対策を先送りにする政治家は、支持率を無くすことが多い。

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執筆者:

nishi

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