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テューリンゲン 州知事選挙の波紋 – CDU 党首カレンバオアー辞任す

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テューリンゲン 州知事選挙の波紋 - CDU 党首カレンバオアー辞任す

テューリンゲン 州知事選挙の波紋は全国に広まった。極右政党と組んだ政治家は「知らなかった。」、「事故だった。」言い訳をしたが、信じてもらえなかった。

党の首脳部は火の粉がわが身に降りかかってこないように、責任者の左遷を始めたが、CDU 内部ではこれは党内右派の反発を招いた。そして遂に思いもしなかった人物、メルケル首相の後継者として CDU 党首に就任していたカレンバオアー女史が匙を投げてしまった。

日本でも「キリスト民主同盟の党首、辞任す。」と報道はされていたが、なんでまたテューリンゲン州のような東ドイツの大して重要でもない州の州知事選挙で、党首が辞任することになったのか、誰にもわからなかったに違いない

そこで今回はドイツの政治を知らない方でも理解できるように、党首辞任に至るまでの背景、それにその後の展開について解説したい。

テューリンゲン 州知事選挙の波紋 – FPD

右翼政党の甘言に乗せられ、5%の得票率にもかかわず州知事に選出させたFDP のケマーリヒ氏、辞任にもかかわらず、テューリンゲン州知事の役職に留まった。州知事不在となると行政の機能が止まってしまう。この為、新しい州知事が選出されるまでの「代行」に過ぎないが、そう簡単には新しい知事は見つかりそうにない。

そしていつかこの話が収まった暁には、ケマーリヒ氏の政治生命は終わりだ。全国で顔が「売れた」ので、同氏の禿げ頭は蔑みのトレードマークになっている。FDP は選挙民の怒りを恐れて、同氏を二度と候補として挙げることはないだろう。

大体、得票率が5%の政党なのに、州知事に就任しよう、それも右翼の助けを借りて、など、政治家としての判断が欠如している。当然の報いだろう。

テューリンゲン 州知事選挙の波紋 – CDU

CDU のテューリンゲン党支部長のモーリング氏は、極右と共同戦線を引いた廉で、党首のカレンバオアー女史から叱責を受けたが、あまり反省していないようだった。そもそも氏は党首から承諾を得られなかったにも関わらず、独断で右翼との共同戦線を張った確信犯だった。

モーリング氏は、「テューリンゲンで何が必要か、ベルリンからの指示は要らない。」と、党首のカレンバオアー女史の介入を堂々と拒否するほどだ。FDP のケマーリヒ氏を州知事に選んでも、そのままテューリンゲン党支部長に留まるつもりだった。

社会からの大ブーイングに遭っても、反省している様子は見せなかった。しかしテューリンゲン党支部内で、モーリング氏への非難の声が日増しに大きくなってきた。これで氏はようやく過ちに気が付いたが、時遅し。党内での支持を無くした氏は、後任者が見つかった時点で政治の表舞台から追放されることになった。

党首、かくあるべき

このような大きなのスキャンダルが党内で起きた場合、党首は毅然たる態度を見せる必要がある。さもないと党首としての威厳を失い、ひいては統率力を失うことになりかねない。

いい例がある。かってバーデン ヴュルテンベルク州で州知事に就任したエッテインガー氏、メルケル首相を公の場で非難してはばからなかった。エッテインガー氏はCDU内でも保守派の政治家で、その思想は右翼に近かった。

氏がメルケル首相の後釜を狙っているのは誰の目にも明白で、いつ反旗を翻すか?と思われていた。

2013年、ナチスに協力していた廉で非難されていた地方の大物の政治家が死去した。そのお葬式でエッテインガー氏は、「彼はナチスの反対派だった。」と事実を180度転換させた弔いの言葉を述べ、死去した政治家を称えた。

メルケル首相の反応は早かった。氏はバーデン ヴュルテンベルク州で州知事をクビになり、EUに左遷された。

参照 : deutschlandradio.de

本来、地方政治は各党支部の管轄で、中央の党本部は指図をできる立場にない。しかしナチスの過去を覆い隠し、美談で語る批判派を放っておくと、「あ、言っても大丈夫なんだ。」と勇気を与えることになる。これを許すと党首の威厳を失う。

これを制するため、メルケル首相は躊躇しなかった。ドイツの戦後史で現役の州知事がクビになったのは、後にも先にもこの一回だけだ。結果、メルケル首相は党首として威厳を示し、統率力を強めことになった。

党首、これでは駄目

そのメルケル首相はアフリカ諸国を訪問中にもかかわらず、右翼との共同戦線を祝福した東ドイツ担当官をクビした。一方、カレンバオアー党首は、党の方針に背いた支部長をクビにすることもしなかった。支部長と話し別れに終わった後、「後はテューリンゲン党支部に任せる。」とやった。

これはマズかった。女史はこれまで度々、失言を行い威厳というメッキが剥がれかけていた。この時点で党首の意向に従わず、大スキャンダルを起こした支部長を処罰しない事で、完全に威厳が失われた。結果、「党内の右派を野放しにしている。」と党幹部は党首を非難した。

そして党首への非難は党内の中道派ばかりか、右派からもやったきた。

ヴェアテ ウニオン / Werteunion

CDU は党内に幾つかの派閥があるが、右派の中核をなすのがヴェアテ ウニオン /Werteunion と呼ばれる派閥だ。この集団は極右政党とほぼ同じ価値観を共有しており、支持者の多くを AfD に失っているのを悔しく思っていた。

そのヴェアテ ウニオンにとって、テューリンゲン州における右翼政党との共同戦線は「歓迎すべき出来事」だった。右翼にとっての最大の敵は、今も昔も左翼。左翼政党の州知事をその地位から引き落とすためなら、極右の兄弟との共同戦線は、理想ともいえた。

しかし党首はこれを非難することで、ヴェアテ ウニオンを敵に回してしまった。メルケル首相が党首だったら、ヴェアテ ウニオンと言えど、公に反旗を翻すことはしなかっただろう。しかし威厳を失っていたカレンバオアー党首には、ヴェアテ ウニオンの格好の標的だった。

テューリンゲン 州知事選挙の波紋 – CDU 党首カレンバオアー辞任す

カレンバオアー女史はメルケル首相の人事により、ドイツの西の端にある小さな州から党の書記長に抜擢され、ほぼ1年前に党首に就任した。

メルケル首相の後継者は?- 3人の党首候補者

しかしその後、メルケル首相とカレンバオアー党首の仲は急速に冷却化した。党首に就任してから数々の失言を繰り返し、一向にこれが収まる様子はなかった。しまいには、「大臣職には就かず、党首としての責務に専念する。」という公言を翻し、国防相の椅子に座ってしまった。

メルケル首相はこれをかなり不満に思っていたようで、国連で環境会議が開かれた際、メルケル首相は首相専用機でニューヨークに飛んだが、党首との同席を拒否した。結果、カレンバオアー党首兼国防相は、空軍の飛行機でニューヨークに飛んだ。

首相との仲が疎遠になり、党の同僚から非難される四面楚歌の状況下で、カレンバオアー女史はかなり悩んでいたようだ。テューリンゲンの新州知事の選出で議論が交わされている中、「後任が決まり次第、党首から辞任する。」と声明を出した。

連立政権のパートナー SPD の新党首も1年で匙を投げたが、

EU 議会選挙 – 大敗を喫したドイツの二大政党

カレンバオアー党首も14カ月しか持たなかった。

尚、女史は党首からは辞任するが、国防相には留まるという。前任者はスキャンダルを繰り返し、国防相をクビになる前にEU委員会大統領に就任した。果たして国防相の重責が務まるだろうか?

CDU 次期党首選

こうしてCDU 次期党首選の火ぶたが切っておとされた。先回の党首選に立候補して、カレンバオアー女史に負けた面々が立候補することは容易に想像できたが、予想外の出馬もあった。かってメルケル首相のお気に入りの政治家で、NRW 州知事選に出馬、ボロ負けして党本部に戻ってきたレットゲン氏が真っ先に立候補した。

その勇気には脱帽するが、根幹党員からの支持が薄い。気の毒だが、その資質もない。氏が選挙で勝つ見込みは、次期、SPD の首相候補が首相に就任するのと同じで、限りなくゼロに近い。

次に立候補を表明したのは、NRW 州時事のラシェット氏だ。党の根幹党員からの支持が高く、有力候補だ。氏は党首に選出される可能性を高めるべく、先回、党首選に立候補した現厚生大臣のスパーン氏とコンビを組んでの、立候補となった。

これによりスパーン氏を支持する党員をも取り込める。その見返りに、ラシェット氏が党首に就任した暁にはスパーン氏は副党首、あるいは書記長の役職をもえらえる。

最後まで立候補をじらしていたのは、メルケル首相の(かっての)政敵で、先回の党首選で惜しくもカレンバオアー女史に負けたメルツ氏だ。メルツ氏は党内の経済派 & 右派の政治家で、上述のヴェアテ ウニオンの候補でもある。

メルツ氏復讐なるか?それともまた負ける?

現時点ではメルツ氏が優勢だ。ザールランド州の州選挙に何度も勝利したカレンバオアー女史は、党首として不適任だった。地方政治の経験がまったくないメルケル首相は、コール首相に政治家のノウハウを叩きこまれて、立派な首相になった。

ドイツの政治史を見る限り、コール首相を除き、地方政治家でありながら、党首になって成功した例は少ない。そこで仮にメルツ氏が党首に就任して、そして2021年の総選挙の首相候補になったとしよう。その場合、メルケル首相が2021年の総選挙まで首相の座に居座ることができるか興味津々だ。

かってメルツ氏はメルケル首相に冷や飯を食わされて、党の役職をすべて辞任して、経済界に下った。あれから13年もの年月が流れたが、誰に感謝すべきか忘れたことはない。仮にメルツ氏が党首に就任した場合、総選挙までメルケル首相と二人三脚でやっていくことは想像しがたい。

一方、NRW 州時事のラシェット氏は、メルケル派。彼が党首に選ばれた際は、総選挙までメルケル首相と二人三脚でやっていくだろう。だから当然、メルケル首相も氏を支援するだろう。果たしてこれが吉と出るか、凶と出るか、予想がつかない。

党内にはメルケル首相の批判派も数多く居るので、ラシェット氏が党首になることは歓迎しないだろう。

テューリンゲン 州知事選挙

カレンバオアー党首の突然の辞任劇で話が逸れてしまったが、根源の問題、テューリンゲン新州知事をどうやって選出するか、は残ったまま。問題を引き起こした張本人の CDU は、「ラメロウ氏は自身のエゴを捨てて、他の候補を推すべきだ。」と主張した。

するとラメロウ前州知事は、「よかろう。では前々州知事のリープクネヒト女史(CDU)を新州知事に選び、それから州選挙をやり直そうじゃないか。」とCDU の要求に応じてしまった。政界を引退していた前々州知事のリープクネヒト女史(CDU)も、「役にたてるなら。」と、提案を拒まなかった。

実際、ラメロウ前州知事の提案は、テューリンゲン州の堺を超えて、全国で歓迎された。これに困ったのが CDU だった。先の選挙で大敗、21%の得票率で第三党に転落した CDU は世論調査でボロボロの9%まで支持率が落ちてる。

まだほとぼりが冷めない4~5月に州選挙なんどやった日には、目も当てられない敗北を喫する。そこでラメロウ前州知事の提案を蹴り、またしてもテューリンゲン州知事選挙は座礁に乗り上げた。

ラメロウ氏、新州知事に就任す

CDU が一向に妥協をしないため、左翼政党、緑の党、社会民主党は少数派政権の樹立を目指すことにした。3月4日にテューリンゲン州議会が開かれ、州知事の選出選挙が行われた。

選挙に先だって、「国を代表する悪者」になった州知事のケマーリヒ氏の以下 FDP は、「誤って」州知事に選出される事を防ぐため、「選挙には参加しない。」と表明、州議会にも出席しなかった。

こうして州知事の選出選挙が行われたが、過半数に4票欠けるため、第一回、第二回の投票では賛成票不足となり、最後の第三回目の投票になった。テューリンゲン州の憲法では、「3回目の投票では、最も得票数の多い候補が州知事に選出される。」とある。

第三度目の投票では、ラメロウ前州知事が最大の得票を得て、新州知事に就任した。

参照 : dw.com

就任後、各党の党首がお祝いにやってきて握手を交わしたが、極右政党の党首が差し出した右手をラメロウ州知事は無視、無視された極右政党は州議会でヤジを飛ばし、議事録の進行を妨げることでうっぷんを晴らしていた。

尚、ラメロウ新政権の期間は1年と限られている。来年、州選挙をやり直すことで CDU と同意に達しており、それまでは少数政権を容認する事で州議会運営を可能にした。

CDU の拒絶条項

そもそも今回のスキャンダルが起きた原因のひとつに、CDU の拒絶条項がある。かって東ドイツの独裁政権と長く戦った CDU には、「共産政党の後続政党である左翼政党、及び極右政党と共同戦線を張る事を禁ず。」という拒絶条項がある。

この条項のお陰で、左翼政党の候補に投票することが禁止されている。もっとも CDU 党内には右翼思想を抱く議員も多く、右への逸脱を大目に見る傾向がある。しかし左への逸脱はご法度なのである。これが今回の事態を招いた。

壁の崩壊から20年が経過、左翼政党議員の多くは民主主義を認め、これを守るべく努力している。いい加減、CDU も党の方針を時代に合わせるべきだろう。これを認めないのが保守派と呼ばれる所以だが、古びた党の方針はブーメランとなってダメージを与えかねない。

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執筆者:

nishi

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