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家賃上昇を抑えろ!アパート国有化案【ベルリン編】

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家賃の上昇が止まらないドイツの都市部。ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、ケルン、フランクフルト、デユッセルドルフ、ライプチヒ、シュトットガルトの8都市では、とりわけこの傾向が顕著だ。

ドイツ留学を考えている方、「アパートは現地で探します。」なんて、気軽に考えないほうがいい。アパートの見学日には、アパートの外まで延々と続く入居希望者の列。これらの人を差し置いて、よりによって大家さんがあなたを選ぶ理由があれば話は別だが、そうでない場合、絶望的な状況だ。

何故、そんなに人気なの?

最初の原因は、ドイツ人の優先順位が変わったことにある。これまでは、「緑の多い郊外に住みたい。」と、郊外にある住宅地が大人気。ここに住みたければ、市内中心部と同じ家賃が求められた。ところがここでも世代の交代が起こった。

若い世代は1時間もかけて通勤するよりも、30分で会社に行ける街中での生活を好んだ。街中に住むと緑こそないが、スーパーや繁華街、医者が近くにある利点が、欠点を補ってあまりあった。こうして次第に、しかし着実に都市部のアパートの需要が高まってきた。

州政府の住宅政策の欠如

この傾向に拍車をかけたのが、公共住宅の大幅な減少だ。かってドイツでは国が公共住宅を建ててきた。何故だかわかるだろうか。それは住む権利は、ドイツの憲法で認められている基本権利だからだ。国は収入に関係なく、国民に十分な居住空間を提供する義務がある。

もし公共住宅が少なく、これに入れない人は居住補助金を求める権利がある。

参照 : ドイツの達人になる

ところが国、ドイツ語で”Bund”は、この公共住宅を運営する権限を州、ドイツ語では”Land”に割譲する決定をした。州にしてみれば、権限が増える上、ただでこれまで国が建てた住宅を「もらえる」ので、誰も反対しなかった。

そして公共住宅をもらった州は、これを投資家に販売、ただで大金を手にした。本来は都市部での人口増加に対抗すべく、州が責任をもって公共住宅を運営、新築していくべきだったが、目先の利益に目がくらんだ。

こうして都市部には毎年、学校、大学を終えた若者が流入して、初任給でも払えるアパートを探し始めた。ところが公共住宅は減る一方で借りられず、一般住宅を借りることになった。こうして需要が供給を上回り、不動産市場が遂に点火した。

投資家の登場 & 大量の難民

こうして都市部では10年以上も続く、不動産ブームが始まった。1年で家賃、不動産価格が7~8%も上がると、投資目的でアパートを買い上げる投資家がやってきて、ブームにさらに拍車をかけた。

ここで大量の難民がやってきた。難民がアパート探しを始めると、ただでもブームだった不動産市場にナパーム弾のような効果をもたらして、不動産市場が炎上した。日本の不動産バブルを知っている人は、ドイツのアパート事情がどんな状況か、想像しやすいだろう。

アパート新築攻勢!- 焼け石に水

州政府は選挙で負けて、住宅政策の間違いに気づいた。こうしてようやく公共住宅の建築が始まったが、全く焼け石に水だった。新しく建設される公共住宅よりも、公共住宅の期間を終えて一般のアパートになるアパートの数のほうが多かったからだ。結果としてベルリンだけで今、31万戸のアパートが不足している。

参照 : morgenpost.de

しかし2018年にベルリンで新たに建設されたアパートは、1万6706戸だった。

参照 : rbb24.de

これでも前年比で6.6%の増加だ。このペースで建設が続いても、今ある需要を満たすまで18年もかかることになる。全くお話にならない。

先の選挙で敗退を喫した連合政権は、これまでの政策(州に任せていた)誤りを悟り、「2021年までに150万戸のアパートを創設する。」と、国が主導するアパート新築攻勢を謳った。この目標を達成するには、毎年、37万5000戸、建築される必要がある。

しかし2018年、ドイツ全土で新しく建造されたアパートは23万6000戸。全然足りていない。

参照 : handelsblatt

アパート建設が遅い理由 ドイツ病

こんなにアパートの建設が遅々として進まない理由のひとつは、ドイツにある16の州で、それぞれ建築基準法が異なる点にある。ベルリンで建てたアパートを、そのままミュンヘンで建てると違法になるのだ。このため、アパートを建設する州の建築基準に合わせた、新たな建築計画を提出する必要がある。

「この一大事に、全国同一の建築基準を!。」と国が提唱すると、州は、「建築は州の管轄だ。国は口を出すな。」と、醜い権限争い。州は権限が削られるのを、どんなに利点があっても認めることはない。

さらなる足かせは、超~遅い役人の仕事。州の建築基準に合わせた建築申請書を出しても、1年待たされることも珍しくない。あまりに仕事が遅いので、投資家から訴えられて自治体は50万ユーロの罰金を命じられたこともある。

参照 : hannover.ihk

そして政府が導入した二酸化炭素排出削減政策も原因になっている。条例により、新築のアパートには断熱措置を施すことが必要だ。断熱材を入れて二重窓にすると、建築費は上昇する。公共住宅でそこまで厳しい建築基準を採用する必要があるのか?建築費が高くなると、公共住宅に投資をする投資家が二の足を踏む。

こうして政府が建てたアパートの新築攻勢は、十分な補給がなく、出だしから行き詰まり。投資家が見つかっても、官僚がこれを妨害するという悪循環。お陰で現在の不動産ブーム、家賃の上昇が止まる気配がない。

家賃上昇を抑えろ!アパート国有化案【ベルリン編】

都市部に住む住人は高い家賃に長く耐えてきたが、お給料の半分が家賃にもっていかれると、堪忍袋の緒が切れた。とりわけ急進的なベルリンでは、州が不動産を利益至上主義の不動産企業から取り上げて、国営化すべきだという論が人気を博した。

そもそも不動産会社が所有するアパートの多くは、ベルリン州政府が払い下げしたもの。「これを買い戻せばいい。」という理屈だ。払える家賃、アパートを求めてデモをしていた市民は、「不動産会社にお灸をすえることができればいい。」くらいに考えていたのかもしれないが、このアイデアに政治家が賛同し始めた。

参照 : freiewelt.net

左翼政党の政治家が言うなら誰も気にしないが、アパートの国営化に賛同したのは、次期首相候補(のひとり)とみられている緑の党のハーベック党首だった。今、観光保護の波に乗った緑の党は、世論調査で政権にあるCDUを追い越して、もっとも支持率が高い。これに加えて急進派のベルリンでは、左翼政党、緑の党、それに社会民主党の3党が連立政権を組んでいる。

左翼政党と緑の党がアパートの国営化に賛同したことから、国有化論は一気に現実味を帯びてきた。

アパートの国営化 法律上可能なの?

ドイツの首都で私企業が保有している財産を国が国有化すると、これが投資家に与えるイメージはこの上なく悪い。という点はさておき、ドイツは日本と違い法治国家。私有財産の国有化は憲法で認められているのだろうか。

それが不思議なことにドイツの憲法の15条に、「土地、資源、製造手段は一般の利益のために、共同体に移管することができる。」と書かれている。もっとも憲法が出来てから70年、一度も行使されたことがない。もしこの条例を行使した場合、行政裁判所がそのような行為をどう判断するか、誰にも予想がつかない。

という前提はあるが、原則として財産没収は可能なのだ。

ドイツ不動産 ベルリン市民の目の敵に!

ベルリンで最大数の不動産を所有しているのは、ドイツ不動産 /”Deutsche Wohnen”という害のなさそうな名前の不動産会社だ。害のないのは名前だけで、「アパートをリノベーションします。」という目的で窓を入れかえると、家賃を75%も上昇させるなど、好き勝手をしてきた会社だ。

参照 : bz-berlin.de

ドイツ不動産がベルリン市民の目の敵になったことは、語るまでもないだろう。市民はこの不動産会社が所有するアパートをベルリンが買い上げて、国営化することを要求した。問題は憲法上の問題に加えてて、もうひとつある。それは金。

ベルリンはドイツの州の中でも、一番お金がない貧乏な州だ。

参照 : tagesspiegel.de

10年近く完成が遅れているベルリン空港や、市内に数多い公共工事の費用は、バイエルン州やBW州が払う金で払われている。ドイツ不動産が所有する不動産を取り上げる決議を議会で行っても、払う金がない。事実上、国営化は実行不可能である。

家賃上昇を抑えろ!家賃値上げ禁止令案【ベルリン編】

とは言え、ドイツでは住む場所を提供するのは国の義務。「このままではいけない!」とようやく政治も動き出した。政治家が考え出しのが、家賃値上げ禁止令である。政府のアパート新築攻勢で十分な数のアパートが建設されるまで(5年間)、ベルリンの家賃上昇を条例でストップするという計画だ。

参照 : tagesspiegel.de

すでに存在している賃貸契約では、家賃の上昇を5年間禁止する。新しい賃貸契約では、前の契約の家賃と同じ額を要求することを今後、5年間強制するという内容だ。法律を作っても罰則がなければ、ドイツ不動産を始め、不動産会社がこれを守らないのは、火を見るよりも明らか。

そこで法律違反には50万ユーロの罰金を課す。「まさかそんな条例が可決されるわけがない。」と思っていたら、2019年6月末にこの条例が可決されてしまった。流石、リベラルなベルリン。この条例は2020年から施行されるので、「今のうちに家賃を上げろ!」と大家組合は対策を協議中。

来年、ベルリンに留学、滞在される方は、大家のトリックに騙されないように!

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執筆者:

nishi

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