ドイツの最新情報 ドイツの経済

ドイツ版 技能労働者移住法 – 不足する専門家

投稿日:2019年1月1日 更新日:


プログラムが書ければ、どこでも就職できます。

日本では労働者不足が叫ばれて久しいが、どちらからと言えば農業、漁業、製造業、あるいは小売店での労働者不足。実際、自民党が強制採決した外国人労働者の招致法案も、こうした業種の要請に応えるものだった。ドイツでも労働者が不足しているのは同じだが、事情が少々異なる。

不足する専門家

EU内ではEU市民は自由に行き来できるので、ドイツ国内で足らない単純労働者は、EU内、とりわけ東ヨーロッパからの労働者である程度は充足している。ルーマニアやブルガリアで働くよりも、ドイツで働いたほうがお給料がいいので、単純労働者はドイツで働きたがる。

ドイツで労働者不足が叫ばれている分野は手工業、介護士、保育園の教育者、技術者、そしてプログラマーなどの専門職だ。商工会議所の発表する統計によると、2/3の企業が社員を探しており、ドイツ全土では160万人の技能労働者が欠けているという。

参照元 : Welt

もっともこの数字は「眉唾物だ。」という主張もある。企業に近い商工会議所などは、数字を誇張して主張する傾向がある。これにより政治から妥協を引き出すのが目的だ。もっとひどいのは個人が書いているブログなど。そこには2020年までに400万人の労働者が欠けるなどと主張しているが、一切、根拠を挙げていない。そのような記事は100%フェイクニュースなので、信用されませんように。

ドイツに長居しない技能労働者

ドイツの技能労働者不足は何もここ数年に限ったものではない。10年以上も前、米国の例を倣ってブルーカード制度を導入したが、うまく機能していない。制度上の問題もあるのだが、これに加えてこの制度を利用してドイツに来てくれた技能労働者が、ドイツに長く留まってくれないという問題を抱えている。

ドイツ語が難しくて、英語のように簡単には話せないという点に加えて、ドイツ人は外国人に完璧なドイツ語を要求する。うまくドイツ語を話せない外国人に対して、ドイツ人はとても冷たい。ドイツ人特有の愛想のなさのなせる業だ。これに加えて外国人になかなか開襟しないドイツ人の疑い深さ。

これがドイツに住む外国人技能労働者に大いに不満で、外国人技能労働者を受け入れている68ヶ各国の人気ランキングでは、ドイツは36位。とりわけ「愛想のよさ」では62位。ドイツ人ほど無愛想な民族は滅多にいないという事実をこの統計が示している。

参照元 : Welt

不思議なことに同じスイスはこのランキングでは5位。スイス人よりも愛想が悪く閉鎖的なのがドイツ人だということなのだろうか。ちなみに外国人技能労働者に最も人気の国は中東のバハレーン、これに台湾、シンガポール、カナダなどが続く。日本人も外国人と交わろうとしないので、ドイツ同様にあまり人気がない。

ドイツ版 技能労働者移住法

ソフト面での問題(ドイツ人の愛想のなさ。外国人に対する不信感)は、解決できそうにないが、ドイツ政府はまずは法律を改正して、ハード面で外国人の技能労働者がドイツに移住しやすくすることにした。この目的で閣議決定された法律が、”Fachkräftezuwanderungsgesetz”という、これまたドイツ語でしか有り得ない長い言葉の法律だ。

参照元 : Spiegel Online

この言葉、”Fachkräfte”(技能労働者)、”Zuwanderung”(移住受け入れ)、それに”Gesetz”(法)という単語からなる。この法律で変わるのは2つ。まずひとつはEU外からの技能労働者へのドイツへの移住を、大幅に簡単にすること。もうひとつは、ドイツにごまんといるドイツへの移住を拒否されたが、そのままドイツに滞在している外国人の就労を可能にすることだ

EU外からの技能労働者

まずはEU外からの技能労働者の受け入れについてみてみよう。これまでは例えば日本人大学生が、「将来はドイツで働きたい!」と言った場合、大卒で(これはクリア)、すでに雇用契約書にサインしていること(無理)、それにお給料面でも年俸が4万4000ユーロ以上(微妙)、保障されてることが条件だった。それだけはまだ不十分で、ドイツで就職する前に本当にその専門職の技能を備えているか、テストがあった。こうした制限により単純労働者がドイツにやってくるのを防ごうとしていた。

こうした制限が、この法案が法律になればほとんどなくなる。今後は認定された専門技術を持っており、すにで雇用契約書を交わしていれば、滞在許可証と労働許可が下りることになる。「ちょっと待ってよ、雇用契約書なんて持ってないよ。」という方には、堂々と「職探しのために」という理由で、ドイツにやってくることが可能になる。

これまでは空港で、「仕事を探しにきた。」と言えば、入国を拒否されるか、遅くても外人局で滞在ビザの発行を拒否された。今後は職探しという理由でビザが取れることになる。(要 財産証明)さらにはこのビザで週10時間まで試験的に働いて、雇用者を説得する機会が与えられる。もっともこれにはすでに終了した職業訓練を証明できることが条件だ。

「ちょっと待ってよ、終了した職業訓練なんて大卒じゃ持ってないよ。」という方は、

1. 高等教育を終えている

2.ドイツ語が自由に操れる

ことを条件にドイツにやってきて、職業訓練を受ける場所を堂々と探すことが可能になる。これまでは「ドイツで職業学校に行きたい。」という方には、門戸は堅く閉ざされていた。というのも職業学校は税金で運営されているので、日本人には応募する資格がなかった。今後は日本人でも、ドイツ語さえできれば、職業学校に通うことが可能になる。条件は24歳以上であることだけ。

滞在許可なしでドイツに滞在している外国人

日本ほどひどくはないが、ドイツの制度にも意味のない制度がある。その典型がドイツで滞在許可を得られなかった外国人に関するもの。彼らは滞在許可がないので、働くことも禁じられている。するとドイツ人からは、「働きもしないで税金でのうのうと、、。」と外国人を非難される。さらには生活保護では金が足らず犯罪に走るケース、1日中することがないのでドイツ社会に対して反抗心を抱くケースも少なくなかった。

産業が労働者不足を叫んでいるのに、ドイツに大量にいるこの外国人を「利用」しない手はない。そこでこうした外国人の就労禁止を和らげて、まずは職業訓練を受けることを可能にする。この訓練を無事に終了したものは、2年まで就労できる。この労働でちゃんと生活費を稼ぎ、税金を納め、犯罪も犯さなかった外国人は、正式に滞在許可証が下りることも可能になる。

技能労働者争奪戦

このようにドイツ政府が技能労働者の受け入れ制限を大幅に緩和する理由は、数字の誇張はあっても、確実に技能労働者が足らないという事実に尽きる。おそらく一番典型的なのがプログラマー。米国の一流企業にプログラマーとして採用されれば、初任給は9万ドルと言われている。しかしプログラマーを必要とするのは、中小企業、町工場も同じ。町工場にはとても9万ドルという年俸は払えないので、一流のプログラマーは国外の大企業に引き抜かれて、ドイツの労働市場は干からびてしまっている。

ドイツ経済の本当強さは、中小企業の独創性にある。他社では製造できない製品を作るノウハウで世界をリードしているが、インダストリー4.0で必要になるITの専門家が足らない。これではFacebook, Google, Microsoft, Amazon,Netflixを擁する米国とますます差を空けられてしまうどころか、AI(ドイツ語ではKI、人工頭脳)で世界最先端を行く中国においつかれてしまう。これを阻止するために日本政府を初め、ドイツ政府も技能労働者の獲得に乗り出した。

競争相手は何も大国の米国や中国だけではない。冒頭で述べた通り、資源に欠ける都市国家のシンガポールはすでに数十年前から技能労働者の受け入れている。日本では小さな大学の研究室しかもらえなく、小額の予算でほそぼそと研究を続けている学者がシンガポールに行くと、最新の高価な試験機器が揃った助手付きの研究所を与えられる。家族は日本では考えられなかった優遇措置を与えられて、子供には幼少の頃から英才教育を受けさせることができる。これが理由でシンガポールは世界中の研究者に人気を博している。

Global Innovation Index

WIPO(世界知的所有権機関)がイノベーションインデックスを公開している。これはどれだけ国に画期的な発明をする環境が揃っているかを計るものだ。

参照元 : WIPO

ドイツはかって世界第三位だった。それがいまやオランダ、デンマーク、フィンランドに追い越されて9位にまで落下した。トップの座はスイスかシンガポールが占めてきたが、2018年版ではスイスがトップに返り咲き、オランダやデンマークが大躍進した。日本はドイツには勿論、イスラエル、アイルランド、さらには韓国にも負けて13位。背後には香港が迫っており、その差、わずか0.3ポイント。追い越されるのは時間の問題だ。

これまでは「外国人労働者を受け入れる。」という上から見下していたが、その時代は終わった。今は「外国人労働者に来ていただく。」という形に移行している。我々が享受してる今のスタンダードを保つには、外国人労働者は欠かせない。「治安が心配。」という心配をする前に、「どうすれば韓国、香港、シンガポールに行かないで、日本に来てもらえるか。」という点を心配しなくてはならない。しかるに最低賃金も払わないで、奴隷のような環境で外国人労働者を酷使している日本は、外国人労働者の間で、ますます人気を失っている。

ドイツ移住サポート

ドイツ在住24年の経験を生かして、当社ではドイツ移住サポートを行なっております。中身は語学学校でのドイツ語習得と職探しサポートになります。まずは言葉ができないと話にならないので、語学学校でB2の合格証を取得してください。その後、職業訓練先、見習い先探しからドイツ語での願書の作成までサポートいたします。記事の冒頭で述べたように、ドイツ人は愛想がないので、その点は覚悟しておいてください。テレビ番組などで紹介されているドイツ像は日本のテレビ局のやらせか誇張で、現実の姿ではありません。

「ドイツに移住する得点はあるの?」ドイツ人は愛想がないですが、ドイツ社会には、日本にはない大きな利点があります。それは”Flache Hierarchic”(平らな階層)と呼ばれるものです。ドイツには日本で鉄則になっている先輩、後輩という関係は存在していません。上下関係がないのです。勿論、ジーメンスやメルセデスのような会社は別。中小企業には上下関係が存在していません。この道20年の先輩でも「お前」で話しかけれます。就業後、週末に上司に付き合う必要は全くなし。そして労働契約書で明記されていない限り、残業なし。

とりわけ女性には大きな活躍の場があります。日本では女性というだけで大学の入学も差別されますが、ドイツには”Gleichberechtigungsgesetz”(平等法)があり、性、民族、年齢等による差別は法律で禁止されています。職探しに「男性希望」、あるいは「40歳まで」と書くだけで法律に抵触するという徹底振り。日本の大学のような不祥事があれば、損害賠償請求できます。いい例があるので紹介します。

警察官募集で応募した女性、結構お見事な刺青が入ってました。日本では刺青が原因で民間企業でも解雇されますが、ドイツの警察も、「社会の模範になりえない。」と採用を拒否しました。この女性は人を外見で判断するのは差別だと、訴えました。そして裁判所は「刺青は仕事に差し支えない。」と判断、警察はこの刺青女性を雇用する羽目に。これがドイツです。日本とは違い本当の法治国家です。最初は愛想がないのでとっつき難いですが、一度慣れると住み心地が良くて、日本には戻って来れません。

-ドイツの最新情報, ドイツの経済

執筆者:

nishi

コメントを残す

アーカイブ