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オイロファイターの後続機 FCAS – 欧州共同の軍事事業

投稿日:2019年6月26日 更新日:

オイロファイターの後続機 FCAS - 欧州共同の軍事事業

オイロファイターの後続機 FCAS とは?

2019年6月中旬、パリ郊外にて恒例の航空機メッセが開かれた。航空機メッセとしては世界最大の規模で、このメッセで飛行機の受注数を発表するのが慣例になっている。三菱重工は大金を払ってこの見本市に参加、開発した日の丸旅客機を展示したが、ひとつも売れなかった。哀れ。その一方でエアバスは、373機もの注文を発表、社長の顔からは笑いが消えることはなかった。

参照 : Finanzen 100

社長が相好を崩したのはもうひとつの理由がある。いよいよオイロファイターの後続機の話が具体化したのだ。ドイツ、フランス、そしてスペインの国防相(ちなみに3人の女性国防大臣だ!)が共同開発の同意書にサインした。これはうまくやれば数百億ユーロもの大金が動く大事業で、A400Mで失った、そして今後も失う金を、取り返して余りあることも夢ではない。今回はその欧州共同の軍事事業について紹介してみよう。

オイロファイター ひょっとして名機説

エアバスが開発したオイロファイターは評判が良くなかった。販売元は、「世界でトップクラスの戦闘機」と言うが、これを採用している空軍では、「せいぜい、F-15、F16程度の戦闘能力」と現実的な見方をしていた。オイロファイターは、F16が開発されてから30年後に導入された事実を考慮すれば、お世辞にも名機とは言えない。

ところがこの悪評を覆す「事件」が2004年、スコットランドの上空で起きた。訓練飛行中のオイロファイターが偶然、F-15E 二機と遭遇した。勿論、目視ではなくレーダー上で。自信満々のF-15はオイロファイターの背後に回り込み、レーダーで目標を補足しようとした。これを(レーダーで)見た英国空軍パイロットは、米軍の意図を察知、いきなり旋回をするとレーダーの捕捉からまんまと逃れ、今度はF-15の背後に回り、レーダーで捕捉してしまった!

これに米軍のパイロットは驚いたが、オイロファイターのパイロットはもっと驚いた。というのもF-15は一人乗りの戦闘機、オイロファイターは訓練用の二人乗り機だったのだ!このニュースは、「米国の機嫌を損ねかねない。」と極秘扱いにされたが、1年後にスコットランドの新聞社にすっぱ抜かれた。

参照 : Spiegel

実は同様の研究がアメリカで発表されていた。この研究では米軍の最新性戦闘機 F-22、ロシアの最新戦闘機 Su-35 と各国の戦闘機の能力テストを行っていた。この研究ではフランスが単独で開発したRafaleはSu-35と1:1のキル デス レイシヨ / kill death ratio、すなわち互角で、オイロファイターは1:4,5という評価が出ていた。

これは撃墜されるオイロファイター一機につき、どれだけの敵機を撃墜できるかというスコアだ。F-22 は Su-35 に対して1:10という圧倒的なスコアだが、オイロファイターが予想外にいい評価になっていた。しかしこのF-15とのドッグファイトで、この研究に信憑性が出た。

オイロファイター の欠点

しかしオイロファイターには、この長所を台無しにする欠点があった。それは信頼性。とにかくよく故障する。2018年にはドイツ空軍に配備されている128機のオイロファイターの内、実戦投入可能な飛行機は4機という情けない状態に陥った。何故、こんなに信頼性が低いのだろう。

参照 : Spiegel

オイロファイターの計画が始まったのは冷戦の真っただ中。ワルシャ条約機構の攻撃にさらされている西ドイツ政府が、新型戦闘機にドッグファイト、すなわちお互いに相手を目視しながら戦える性能を最重視した。東ドイツと国境を接している西ドイツでは、敵機を迎撃できる性能が最重要視され、ステルス性能などは全く問題にならなかった。

一方、ドイツのパートナーのフランスは、地上攻撃できる機能を最重視した。長い目でみればフランスの戦略の方が正しく、戦闘機とは言えドッグファイトをすることはほとんどなく、戦闘機は主にその速度を生かして適地深く侵入、敵の施設を破壊するのが主要な任務となっている。

その他にもフランスは「一緒に戦闘機を開発するなら、半分の職場はフランス国内におくことが条件だ。」と相変わらずのフランス調で、共同の戦闘機開発は挫折。結局、ドイツが要求した性能に従って戦闘機の開発が始まったが、これが完成する前にソビエト連邦が崩壊した。

ドイツ統一、ポーランドのNato加盟により、敵機とドッグファイトする可能性はほとんどなくなった。これを受けてオイロファイターには改造が施され地上の目標を攻撃できるようにされたが、搭載された精密機器が頻繁に故障するようになった。又、改造により製造費用が爆発した。当初4700万ユーロだったが、1億3300万ユーロにまで高騰した。同時にこれは米国製の最新性能のF-22戦闘機の費用とほぼ同じだ。

欧州共同の軍事事業

ロシアからの脅威はあるものの、ドイツが中国に次ぐ最大のロシア産のガスの輸入国である以上、ロシアがドイツを攻撃する可能性は、宝くじに当たる確率並みだ。万が一に備えて軍備を怠ることはできないが、米国のように国内総生産の3%もの費用を国防に支出するのは馬鹿げている。将来の戦争は情報戦だ。それよりも基礎研究、とりわけKI(人口知能)に金をつぎ込むべきだ。

なんとかして軍事費を抑えながら、米国並みの軍事力を備えることはできないか?まるで夢みたいな話だが、これが可能なのだ。EU各国が支出している軍事費を総合すると、米国の軍事費に匹敵する。問題は小さな国が国内の職場を死守するため、独自で兵器を開発していること。この”Klein-Klein”(烏合の衆)を辞め、中央で統合して軍備を進めれば、米国並みの軍事力を保有できる。

それにはまず、現状のようにエアバスとフランスのDassaultが別個に主力戦闘機を開発する事を辞める必要がある。そこで「ヨーロッパの新型戦闘機」を目標に、新型戦闘機の主要な買い取り先のフランスとドイツが協議を進めてきた。今度ばかりはあのフランス人でさえも、欧州共同の軍事事業の必要性を認めたので、計画が具体化した。これに国内にエアバスの大きな工場があるスペインも、「一緒にしてね!」と加わり、三国で共同開発をする協定書にめでたく調印することになった。

参照 : Tagesschau.de

オイロファイターの後続機 FCAS

では、オイロファイターの後続機となる FCAS とは何なのか?まずは名前から。正式名称は”Future Combat Air System”(未来の対空戦闘システム)、略して FCAS だ。戦闘機ではなく、対空戦闘システムという名前になっている点に注目されたい。今後、戦闘機は情報を取集するレーダー管制機、衛星、それに地上の管制センターから支援を受けて行動をすることになる。だから戦闘機だけを開発するのではなく、これらのシステムを一括して構築しようという大事業だ。

さらに次期主力戦闘機の主眼は、ステルス性。そもそも Horten H IX でステルス機を世界で最初に開発したのがドイツなのに、これまでこの機能をないがしろにしてきた。

参照 : Wikipedia

今回やっと、ドイツのお家芸のステルス機能が主力戦闘機の最大の特徴となる。そしてもう一つの大きな特徴が、これまで欧州には存在していなかったドローン(無人戦闘機)の導入だ。FCAS では主力戦闘機は複数のドローンと一緒に作戦を行う。このドローンは攻撃目標の監視から攻撃まで、戦闘機に代わって行う能力を備えているので、わざわざパイロットが搭乗している戦闘機が敵が待ち受けている適地に潜入する必要がない。

参照 : airbus

実はこの案、オリジナルはエアバスではない。英国とフランスが共同で進めてきた研究がそのオリジナルだ。EUと仲が悪い英国は、「欧州との共同軍事事業なんてまっぴらごめん。」と単独で次期主力戦闘機を開発することにした。

参照 : wikipedia

これが原因で、英国にふられたフランスがドイツに歩み寄り、フランスが英国と行動で進めてきた基礎研究をエアバスがコピーした。

オイロファイターの後続機 FCAS 実現の可能性

共同開発の契約書に署名されたからといって、本当に実現されるどうか、まだ未定だ。ここでも問題はフランスにある。ドイツと比べて景気がぱっとしないフランスでは、できるだけ多くの部品をフランス国内で生産、組み立て工場も「フランス国内に置くべし!」と言い出すのは間違いない。フランスのメデイアが、「ドイツのほうが得をしている。」と報道すれば、ただでも人気のないマコン政権は、協定の変更を要求してくるだろう。

そして実際にすでに両国間で軋轢が起きている。欧州共同の軍事事業は次期主力戦車で始まった。ここでフランスはドイツ一の軍事産業、”Rheinmetall”社が戦車の製造に加わることに難色を示した。ラインメタル社にしてみれば、主力戦車の製造は売上に加え、面子の問題でもある。

現在の主力戦車の製造がライバル社に落札されてから、ラインメタル社は報復を狙ってきた。すなわち政治家とのコンタクトを大事にしてきた。すなわち政治献金をしてきた。お陰でフランス側がラインメタル社が計画に加わるのに難色を示すと、ドイツ側は「そっちがそう出るなら、FCAS の話も白紙に戻す。」と脅した。フランスがあまりにも利益を独占しようとすれば、この計画は頓挫する可能性がある。

運よく計画が頓挫しなかった場合、FCAS の導入は2040年になる。「なんだまだ20年も先か。」と気の長い話に思えるが、主力戦闘機の初飛行は2026年に計画されており、7年しかない。エアバスは遅れの名人なので、この計画通りにいくことはまずないが、それでも10年後には主力戦闘機は初飛行を済ませている筈だ。

そしてこの壮大な計画が実現されることになれば、欧州はやっと米国に軍事力で対抗できる対空戦闘システムを持つことになる。これが主力戦車、その他の分野でも実現すれば、これまでは米国に頼ってきた欧州が、相応の軍事力を持つことになる。結果、EUの夢であるEU統合軍の設立につながるかもしれない。果たして将来はどうなるだろう?

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執筆者:

nishi

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