フライトキャンセルで空港で過ごす休暇は辛いっ!
ますます人気を博す海外旅行。周囲のドイツ人の、「タイに行った。」割合は、すでに7割にも上る(学生を除く)。「日本に行った。」割合はまだ1割だが、「来年行く(からタダで泊めろ)」と、日本の人気も上昇中。
これだけ海外旅行をする人が増えれば、空港はフル稼働。ちょっとでも手違いがおきると、フライトが大幅に遅れることになる。
2018年、ミュンヘン空港にてある乗客が持ち込んだ手荷物で、セキュリテイーのアラームが鳴った。手荷物に化粧水を入れていたのだ。
普通なら中身をチェックされるのだが、この女性はスキを見て鞄を取ると、人込みにまぎれて消えてしまった!すると空港はシャットダウン。すべての離着陸はストップされて、この乗客の捜索が始まった。
この女性が見つかるまで数時間かかり、200ものフライトがキャンセルされた。
参照 : Süddeutsche Zeitung
このような珍事や空港職員の不始末で、あるいは航空会社の整備ミスで、折角の休暇がおじゃんになったらお金は戻ってくるのだろうか。
この記事の目次
フライト遅延の現状
中には、「私はフライトの遅延に遭ったことがありません。」なんてラッキーな人がいるかもしれない。
しかし日本は世界の例外です。一歩、日本を離れると、世界の法則が通用します。では世界の法則とは?
2018年の統計によると、2万1918本のフライトがキャンセルされた。これは世界中のフライトではなく、ドイツ発の便だけの話。平均すると、60本/日の割合でフライトがキャンセルされている計算になる。
参照 : euclaim.de
これに遅延の飛行機も数えると、その数は10万や20万では済まない。欧州では1/3の飛行機が遅延しているのだ。
格安航空会社のリスク – 燃料切れ
どの航空会社がちょくちょく遅れているの?
ドイツでは圧倒的に格安航空会社の遅延が多い。格安航空会社は少しでも経費を抑えるべく、積載する航空燃料をぎりぎりまで減らして給油する。
何故?
積む航空燃料が少なければ、それだけ飛行機が軽くなり燃費が改善する。燃費がよければ、同じ乗客数でも儲けが飛躍的に増す。
おかげで燃料が途中で切れて、緊急着陸する事件が多発している。とりわけライアンエアーの緊急着陸はその頻度で有名だ。
参照 : welt.de
本来ならすぐに着陸できないケースに備え、航空機が1時間程度は空港上空を旋回できる燃料を積むことが課せられているが、そんなに無駄な燃料を積むと燃費が悪くなる。そこでぎりぎりの燃料しか積まない。
緊急着陸したらどうなるの?
某航空会社はスペインはマドリッド行きのフライトが燃料不足の為、バレンシアの空港に緊急着陸した。それも3便連続で。
航空会社は唖然としている乗客に、「ボン・ボヤージュ。」と言って終わり。その後の面倒は見てくれなかった。
格安航空会社のリスク – フライトキャンセル
格安航空会社のもうひとつの欠点は、フライトを頻繁にキャンセルする事。格安航空会社は座席あたりの儲けが低いので、搭乗率が70%を割ると大赤字。これを回避する為、入りの悪いフライトをキャンセルする。
こうして本来は2便に分かれた乗客を1便に押し込むことにより、航空会社は赤字から、立派な黒字に業績を改善する事ができる。この方法は格安航空会社の必殺技。
乗客にはたまったものではないが、運がいいと、「あなたの翌日のフライトはキャンセルされました。その代わりに、翌々日の朝8時の便に乗れます。」というメールが届く。
運が悪いと空港でチェックインしようとすると、「今日の便はキャンセルされました。明日の朝、来てください。はい、次の方。」と冷たく追い返されてしまう。
こうして休暇の最初の日、あるいは休暇の最後の日は、空港周辺のホテルに一泊する羽目になる。勿論、自費である。航空会社、特に格安航空会社が自発的に乗客の面倒を見てくれることはない。
航空会社の賠償責任 フライト遅延 & キャンセル
本来は、
「フライトが3時間以上遅れると、航空会社は賠償金を支払う必要がある。」
と欧州全域で有効な取り決めたがある。航空会社がこれを守ると思ったら、大間違い。一致団結してこれを無視。
「チケット代金を返せ!」
とうるさい客には、
「社内規定により、飛行機の遅れに対する賠償はございません。」
なとど御伽噺を語ってくれる。あまりにもつれない航空会社の態度に堪忍袋の緒を切らした乗客、
「チケット代金を返せ!」
と賠償金の支払いを裁判所に訴えた。この訴えを受けた裁判所が、欧州裁判所にこの件を委譲したので、欧州裁判所が欧州全域で有効な判決を下す事となった。
参照元 : Handelsblatt
欧州裁判所判決によると、乗客には3時間以上のフライトの遅れから、賠償金の支払いを要求する権利が生まれる。
賠償金の額は予約したルートにより異なる。1500km以内のフライト、例えば国内フライトや欧州内のフライト、であれば、到着時間が3時間遅れると、250ユーロの賠償金を請求する権利が生まれる。
3000kmまでのフライトで3時間以上遅れると400ユーロ、それ以上の長距離フライトの場合は、600ユーロの賠償金である。
フライトがキャンセルになった場合だが、代わりのフライトが3時間以内に出ない場合、同じ扱いになる。
航空会社の、「飛行機の故障で。」といういい訳は通じない。機材の故障でも、このルールは採用される。
例外は、戦争、大きな自然災害、あるいはストなのどの場合のみ。この規則は欧州全域で有効であり、欧州内から出発する便に採用される。
すなわち日本発、フランクフルト着の便が3時間以上遅れた場合、裁判所の管轄は日本になるので、このルールは採用されない。
航空会社の賠償責任 – 乗り継ぎの場合
「これで大丈夫!」と思ったら、甘い。パラグアイに旅行したドイツ人、なんと22時間遅れで到着した。
某ナショナルキャリアに600ユーロの賠償金の支払いを求めると、「フランクフルト空港での乗り継ぎの時点では、2時間の遅れだった。」と支払いを拒否した。
欧州裁判所は、
「乗り継ぎのフライトの場合は、最終目的地への到着時間により判断される。」
として航空会社に賠償金の支払いを命じた。このルールは2009年9月まで遡って適用されるので、「そういえば昔、フライトが遅れた事があったな。」という経験をされた方、お小遣いを稼ぐいい機会である。
家族で飛んでいれば、一人頭600ユーロの賠償金を要求できて、賠償金はタックスフリーなので税金支払いの心配もない。丸々ポケットに収めることができる。
意地でも賠償金を払わない航空会社
「ここまで決めてしまえば大丈夫!」
と思ったら、甘い。欧州裁判所の判決が出ているのに、航空会社は一向に賠償金の支払いに応じていない。80人を超える乗客が乗ったフライトがキャンセルされて、翌日のフライトになった。
ドイツに帰国後、乗客が航空会社に賠償金の支払いを要求したが、全く無視されてしまった。他に方法がない上、負けるはずがないので、乗客が航空会社を裁判所に訴えた。
裁判所は勿論、航空会社に賠償金の支払いを命じて、今度はちゃんと払った。
「これで大丈夫!」と思ったら、甘い。同じ飛行機に乗っていた乗客がこの判決を引用して、「私のチケット代を返して!」と航空会社に要求したが、この要求も全く無視された。
負けるはずがないので、乗客が航空会社を裁判所に訴えた。裁判所は勿論、航空会社に賠償金の支払いを命じて、今度はちゃんと払った。
同じ飛行機に乗っていた乗客がこの判決を引用して、「私のチケット代を返して!」と航空会社に要求したが、この要求も全く無視された。
負けるはずがないので、乗客が航空会社を裁判所に訴えた。裁判所は勿論、航空会社に賠償金の支払いを命じて、今度はちゃんと払った。
こうして航空会社と乗客との争いは、最後一人の乗客が裁判所に訴えるまで続くのである。
元がとれる航空会社の試算
頭のいい航空会社は、
「裁判が必要になれば、びびる乗客も居るだろう。」
とちゃっかり計算している。実際のところ、これまで賠償金を求める権利があるのに、裁判所への訴えを辞さなかった乗客はわずか数パーセント。航空会社にとっては裁判、弁護士費用を払っても、十分にペイするのだ。
これに目を付けた弁護士事務所が、
「無料で訴えをお受けします。」
と宣伝を始めたら航空会社にはたまらない。弁護士事務所にしてみれば、負けるわけがなく、同じ書面で済むので、これほど手際よく儲ける機会はない。
そこで
「賠償金を勝ち得た場合は、25%を取り分としていただいきます。」
という消費者/乗客にはリスクのない訴訟サービスを提供している。弁護士事務所より手数料が30%のケースもあるが、手間と経費が省けるので、これは消費者にとってもありがたい。
弁護士事務所は、「負けるわけがない。」と確信しているので、万が一負けた場合でも消費者には手数料は一切かからない。飛行機の遅れに遭遇された方は是非、一度、お試しあれ。
ドイツ語で、”flugverspätung entschädigung”とぐぐれば、弁護士事務所の宣伝かサイトが無数に出てきます。
往路に乗り損ねると、チケット無効?
これを機会に、欧州裁判所はもうひとつ乗客の権利を強めたのでここで補足しておこう。
これまでは、「往路の便に乗り遅れると、復路のチケットは無効です。」と一方的に航空会社に都合のいいルールを押し付けてきた。
欧州裁判所はこの点も指摘して、「往路の便に乗り遅れても、チケットは有効であり、復路は使用できる。」とした。
これにより今後、往路に乗り遅れた場合でも、新しい往復チケットを買う必要はなく、往路のみの片道チケットを買えばいい。
言うまでもなく航空会社は、「そんな事はできません。」と言うに違いないので、そのようなケースでは担当者の名前、日付、時間を何処かに明記しておこう。
証人がいればもっといい。あとは弁護士事務所に任せて、余計に払わされたチケット代を取り戻してもらおう。