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トヨタの販売促進策 環境保護団体 Deutsche Umwelthilfe

投稿日:2019年3月16日 更新日:

ドイツ各地で次々に実施されるデイーゼル車、市内乗り入れ禁止令。作っても売れないデイーゼル車、大量の中古車の在庫を抱えて頭を悩ますドイツの車メーカーは、いよいよ反撃に出た!

デイーゼル車、市内乗り入れ禁止令

2018年2月に連邦行政裁判所が、「デイーゼル車市内乗り入れ禁止は合法。」との判断を下してから、1年が経った。地方自治体としては乗り入れ禁止を施行したくないが、これをしないと判決の不履行で罰金を課される上、環境保護団体からの訴えを覚悟しなければならない。

そこで嫌々ながら、まずはハンブルクがデイーゼル車乗り入れ禁止を発令した。もっとも禁止令は、最も交通量が多い道路だけに限られた。それでも汚染度が改善されない場合は、禁止を市内全域に広げる意向だ。

今後、メルセデスのお膝元のシュトットガルトを筆頭に、ベルリン、アーヘン、ボン、エッセンなど、今年中にデイーゼル禁止令が発令されることになる。当初禁止令はEURO4を含む、比較的古いデイーゼル車に限られるが、この禁止で汚染度が改善しない場合、EURO5, EURO6のデイーゼル車も対称になる。

「これでは商売あがったりだ!」と怒っているのが、ドイツの自動車業界。オペルを除けば庶民向けの電気自動車もハイブリッド車もないドイツの車メーカーは、日本車、韓国車、そしてフランス車に先を越されてしまっている。

環境保護団体 Deutsche Umwelthilfe

その怒りの矛先はドイツの観光保護団体である、”Deutsche Umwelthilfe”(ドイツ環境保護)に向けられている。

参照元 : Deutsche Umwelthilfe

この団体が地方自治体を訴えなかったら、デイーゼル禁止令が発令されることはなかった。ドイツの車メーカーにとっては目の上のたんこぶ的な存在だが、排ガス規制値を超える車を販売している手前、あからさまにこの団体を非難することは避けてきた。

ドイツで名のある企業がある団体を非難すると、その証拠/根拠を求められるがこれを出せない。すると謂れのない非難となり、非難の矛先が自社に向かれて、「法律を破った上に、反省もしていない。」とイメージダウンになることは目に見えていた。

そこで、「同団体の資金源を明らかにすべきだ。」程度の非難に留めてきた。しかしこのままではデイーゼル車が売れない。そこで政治への太いパイプを利用、この環境団体への刺客を差し向けることにした。

トヨタの販売促進策

「メルセデスやBMWはフラッグシップモデルを日本で売っているのに、何故、トヨタはクラウンを欧州で販売しないの?」と思ったことはないだろうか。それはハンドルを左につけて、欧州まで持ってきても売れないから。

これを象徴するのが、トヨタと日産の高級モデル、レクサスとイニフィニテイ。欧州ではからっきし人気がない。

参照元 : Süddeutsche Zeitung

これは何も高級車だけではない。アジアで絶対的なシェアを誇るトヨタだが、ドイツ、もっと広範囲に見れば欧州では、「その他多数」として扱われるほど、売れていない。

参照元 : Statista

その主な理由はデザイン。世界中でヒット、同社の最も多く売れたコンパクトカーのカローラだが、「なんであんな車が売れるのかわからない。」と欧州では人気がない。これを証明するのが市場占有率。わずかに4%ほどの異なる価値観を持ってる「変わった人」が買う車が、トヨタであった。

もうひとつの理由は車の完成度。シャーシーが弱く、これを補強するためにサスペンションを堅くしているので乗り心地が悪い。ブレーキ性能、ハンドリング、内装、どれを取ってもドイツ車のレベルに達していない。

さらには日本人向けのアトラクションも不評だ。バックギヤに入れるとおかしな警告音が出たり、大事でもないメッセージを毎回表示するなど、気配りの日本では親切と受け取れめられるが、ドイツ人は注意を逸らすだけの無用の長物と考える。

これをよく知っている韓国メーカー”KIA”は、ドイツ人のデザイナーを同社の主任デザイナーに起用した。結果、毎年販売台数を8~9%も延ばして、トヨタを猛スピードで追随している。トヨタが今後も日本人デザイナーの独特なデザインを採用する限り、欧州では販売台数を延ばせそうになかった。

ここで発生したのが、フォルクスヴァーゲンによる排ガス洗浄機能の違法操作だ。デイーゼル車のイメージが一気に悪化したが、トヨタは元々、デイーゼル車をわずかしか生産しておらず、ハイブリットを次期の駆動力と考えていたので、濡れ手に粟だった。

トヨタは上述のドイツ環境保護の正式なパートナーになり、ドイツでハイブリット車の売り込みを始めた。その一環でドイツ環境保護は地方自治体を、「自治体は、政令で定められている空気の汚染基準を守っていない。」とドイツ全土の裁判所に訴えた。その甲斐あってようやく、ドイツ全土の自治体でデイーゼル禁止令が発令されることになった。

折からの米中関税戦争に端を発した景気不安から、ドイツの車メーカーは2019年、車の販売予測を下方修正することを余儀なくされている。そのドイツにあって、「今年は8%以上の販売台数増加を見込んでいる。」と鼻息が荒いのがトヨタだ。

日本の製品をドイツに持ってくるときは、別の販売戦略が必要だ。これを理解していない日本企業が多い中、トヨタは「観光にやさしい。」とドイツ人のハートを掴むテレビ宣伝を流した。そしてドイツ観光保護はドイツ各地で地方自治体を訴える。トヨタの上手い販売促進策といわざるを得ない。

ドイツ車メーカーの反撃!

ドイツの車メーカーにしてみれば、ドイツ観光保護(団体)は憎っくきトヨタの手下でしかない。この悪者を成敗す刺客をしてドイツの車産業が放ったのが、政府与党CDUの党首、カレンバウオアー女史だった。

女史は所信演説で、「特定の駆動力だけを推進する団体は、公共団体の認定を再考、政府の補助金も見直すべきだ。」と語った。女史がどの団体を指しているか、どの駆動力を挿しているのか、誰の目にも一目瞭然だろう。

ところがこれが裏目に出た。観光保護をお笑い番組よりも数倍も重大なテーマと考えるドイツ人は、CDU 党首のドイツ観光保護団体いじめに憤慨した。政府が補助金の停止を提案すると、ドイツ人は観光保護団体に会員として登録、会員数は過去最高に達した。

参照元 : Der Tagesspiegel

すると今度は車産業に近い大学教授が、「現在の酸化窒素の環境基準はおかしい。」と世界保健機構が定めた大気汚染値を疑い始めた。すると阿吽の呼吸で交通大臣が、「現在の環境基準値は見直すべきである。」と発言した。基準値を「改定」して、汚染物を撒き散らすデイーゼル車の市内乗り入れを可能に使用すれば、車メーカーの悩みも解決できる。

国民の健康よりも、車メーカーの利潤を優先する大学教授から大臣まで、恥ずべき言動だ。これでは福島原発事故で手に負えない状況に対面した政府が、「100ミリシーベルトの汚染上限を250まであげられないか。」と災害救済に向かう隊員を見殺しにしようとした行為を責められたものではない。

電気自動車攻勢

幸い、一党独裁政権と異なり、ドイツでは連立政権だ。「二酸化窒素の値は長年の研究の上、世界保健機構が出したものでこれを疑う余地はない。」と環境大臣は交通大臣の環境基準値見直し提案をあっさりと蹴った。

デイーゼル車の議論が戦われている中、かってトヨタを追い抜いて世界一大きな自動車メーカーになったフルクスヴァーゲン社、ついに電気自動車の開発を終えた。

参照元 : Focus

このプラットフォームを傘下にある各自動車で使用する。販売開始は今年の秋以降になるそうだが、価格は29000ユーロと庶民価格に抑えられている。基本モデルの走行距離は330km、上位モデルでは550Km、スピード充電が可能で30分で80%の充電ができるという。日本の電気自動車と遜色ない性能だ。勿論、ハイブリッドモデルも用意されている。

これまでは電気自動車、ハイブリッド車と言えば、テスラーを除けば日本車、韓国車の独壇場だった。今年末からはドイツ車がこの電気自動車戦線に加わる。日本の車メーカーは、今、保有しているリードを保てるだろうか。

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執筆者:

nishi

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