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【ドイツの年金制度】 基本年金 / Grundrente って何?

投稿日:2019年11月16日 更新日:

【ドイツの年金制度】 基本年金 / Grundrente って何?

連立政権は長く争ってきたテーマ 基本年金 / Grundrente で、遂に合意に達した。将来、ドイツで年金を貰う人も居るだろうから、ここではこの基本年金の合意内容について紹介したい。

【ドイツの年金制度】 基本年金 / Grundrente って何?

東西ドイツ統一後、ドイツはかってない不況に見舞われた。手厚い西ドイツの社会保障を、東ドイツまで広げたのが原因だ。当時の状況は絶望的で、ドイツもイタリアやイギリスのように、かっての栄華を誇るだけの国になってしまうかに思われた。

ここでシュレーダー政権が、”Agenda 2010″という名前の社会保障システムの大改革を行った。

参照 : wikipedia.org

国と企業の歳出を抑えることで、ドイツ経済は息を吹き返した。しかしその悪影響も少なくなかった。とりわけ年金システムの改悪により、「年金だけでは生きていけない。」という国民が数多く発生した。これまでちゃんと仕事をして、年金の掛け金を払ってきたのに、支給される年金は生活保護よりも低いのだ。

そこで、「ちゃんと仕事をしてきた人には、生活保護よりも高額な年金を払おう!」という理念から生まれたのが、基本年金 / Grundrente だ。

幾らもらえるの?

日本に住んでいる方から、「ドイツでは年金、幾らもらえるんですか。」とよく聞かれるが、コレ、質問自体が間違いです。年金の額は、あなたが払ってきた額で決まります。幾ら払っているかもわからないのに、「幾らもらえるの?」と聞かれても、答えはありませんです。

それでも、「具体的な数字が欲しいっ!」とお嘆きの貴兄、こちで計算できます。

参照 : deutsche-rentenversicherung

言うまでもなく、稼いでるお給料を入れる必要があります。これなしに年金計算は無理っす。

基本年金の計算方法も同様に複雑です。そこで弊害を承知でわかりやすく言います。年金の受給額が社会保障給付額よりも低い場合は、最高で404.86ユーロ/月(西ドイツ)、390.65ユーロ/月(東ドイツ)まで支給されることになります。

社会保障額ってなんぼなん?

すると、「社会保障給付額って、なんぼなん?」という話になります。これはドイツ語で”Grundsicherung”(基礎を確保する)と言い、法律で保障された最低限度の生活を送るに必要な額を指します。これは現在(端数を省略すると)、500ユーロ/月です。

「500ユーロ/月じゃ、生活できないよ!」と言い出す前に、最後まで話を聞いてください。これに家賃(光熱費込み)が支払われます。家賃が500ユーロであれば、合計1000ユーロ支払われるわけです。仕事をしていなくても、ドイツ人であれば一生、、。

基本年金は一生働いてきた人の年金ですから、これよりはっきり高い額であるべきです。しかしあまりに高すぎるとまたしても、国の歳出が増えて不況に逆戻り。そこで合算された年金の上限があります。独身者の場合、1250ユーロ/月まで。夫婦の場合は1950ユーロ/月まで。

年金改悪により年金が850ユーロ/月しか出ない方には、今後(最高で)、毎月400ユーロ上乗せして支給されるわけです。西ドイツに住んでいると。

誰がもらえるの?

基本年金導入の目的が、「一生涯働いてきた人に、もっとましな年金を!」ですから、受給資格には制限があります。具体的に言えば、35年間働いてきた(掛け金を払てってきた)のに、年金の支給額が838ユーロよりも低い人が対象です。

この規則には例外条項もあり、

  • 家族を介護していた期間
  • 育児休暇を取っていた期間

も、掛け金を払っていた期間とみなされます。すなわち子供が生まれて、両親育児休暇 /”Elternzeit”を2年間取っていた女性 / 男性は、33年間の掛け金の払い込み期間でOKです。政府はこの基礎年金の恩恵を受けれる年金生活者の数を、120~150万人と見積もっている。

参照 : zeit.de

いつから、どうすればもらえるの?

基本年金法案は今後、国会で議決されて正式な法となる。極右政党を除けば反対している政党はないので、法律になるのはほぼ確実。それから半年後に施行されるので、基礎年金が支払われるのは2021年の1月からになる見込みだ。

これまでは生活保護(ドイツでは”Hartz 4″と呼ばれます)を受けるには労働局などに申請が必要だったが、基本年金はその必要がない。年金基金 / “Rentenversicherung”が年金生活者に支払われている年金と収入をチェック、「受給資格がある。」とみなされた場合は、自動で支払われる。

ドイツにしては珍しい、非官僚的なシステムだ。

基本年金 / Grundrente – 導入の背景

名前こそ違うが、基本年金 / Grundrente のコンセプトはかなり前からあった。冒頭で述べた通り、年金システムの大改悪で支給額が激減したので、「一生働いていたのに、年金では生活できない。」という国民が多く発生、老後貧困 /”Alterhsarmut”が社会問題になっていた。

そこで選挙の度に、老後貧困を和らげるコンセプトが示されてきた。しかし年金改悪を実行した社会民主党 /”SPD”は、党の政策の失敗を認める気がなく、「お茶を濁す」だけで終わっていた。これが国民の逆鱗に触れ、選挙の度に過去最低の得票率を記録した。

参照 : ドイツの最新事情

流石に、「このままでは極右政党にも追い越されてしまう。」と悟った”SPD”は、これまでの方針から180度転換した。連立政権の協定書にて、基本年金制度の導入に関してパートナーの CDU / CSU と同意していた。

困窮度のチェック

その同意書では、「困窮度チェック /”Bedürftigkeitsprüfung”の上、基本年金を支払う。」という内容だった。しかしまたしても選挙で大敗した”SPD”では、「これでは不十分。」と考え、「困窮しているかどうかにかかわらず、35年間働いた者には受給資格がある。」という方針に(勝手に)乗り換えた。

これは資本主義至上主義の”CDU/ CSU”には、受け入れられない内容だった。(少ない)年金の他に、家賃収入などの十分な収入がある年金生活者にまで、基本年金の受給資格を広げてしまうと、不公平を減らすことにはならず、かえって広げてしまう。

さらには無駄に国の歳出を増やせば、またしても大不況の原因になりかねない。しかし党の存在意義を失いかけている”SPD”は、「譲れない。」と、パートナーの反論に聞く耳を持たなかった。

妥協案

交渉が平行線をたどり、「このままでは連立政権が基本年金で崩壊してしまう。」と、心配され始めた。するとあの”CDU/ CSU”が妥協案を出した。「年金生活者が、生活に困っているかどうかのチェックは行わない。その代わりに、税務署に収入のデータチェックだけ行う。」というものだ

連立の協定書に「困窮度のチェックの上」と書かれているので、”CDU/ CSU”は、「同意したじゃないか!」と言うこともできたが、”SPD”の散々な支持率に同情した。「ここで花をもたせてやらないとヤバイ。」と思い、妥協案を出す決断をした。

これには、こちらが驚いた。あの”CDU/ CSU”が折れるなんて、余程の事だ。それほどまでに”SPD”が置かれている状況は予断を許さないいのだ。こうして基本年金制度はようやく閣議決定される運びになった。

貧困度のチェックと何が違うの?

税務署が把握しているデータは、毎年、誰がどれだけ税金を払っているか。もし税務署に申請してない財産がある場合、基本年金の受給資格が生まれてしまう。

どんなケースなの?

例えば大赤字で配当金の出てないドイツ銀行の株を、大量に保有している場合。ドイツ銀行が黒字を出して配当金を出せば税務署にもわかわるが、赤字で配当金がでない限り、税務署にはわらない。結果、数億ユーロの財産を持っていても、基本年金の受給資格が生まれてしまう。

あるいは外国で不動産を所有しており、これをキプロスやパナマの事務所で登記すれば、ここからあがる収益はドイツの税務署にはわからない。その他、財産を隠す方法は幾つもある。

問題解決?

一見すると政府内で同意に達したので、「あとは導入されるだけ。」のように思えるが、前途は多難だ。ドイツの年金事務所と税務署と言えば、仕事の遅い事で有名な二つの大官庁。几帳面な日本の総務省でさえ、ずさんさな統計で問題になった。それをもっといい加減なドイツの超でかい官庁が、一緒に仕事をするわけだ。

これが、「うまくいく。」と思うのは、ドイツで住んだことがない方だけ。2021年に基本年金制度が施行されても、「口座に振り込まれてないよ!」というケースが山積するのは、もう今からわかっている。基本年金の受給資格がある方は、官庁を信用しませんように。

入金される筈の年金が振り込まれていない場合、年金事務所に問い合わせましょう。それも根気よく。一回や二回では、埒が明かないのがドイツの官庁です。

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執筆者:

nishi

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