ドイツの達人になる 賃貸

賃貸関連の民法改正 – 不動産屋の手数料が無料に!

投稿日:2015年2月17日 更新日:

タバコを吸う女性
ドイツでは自宅のバルコニーでの喫煙が禁止されていることが多いです

2015年から新しい法律が幾つか施行された。言葉の不自由な外国人のこと、気が付いていない方がほとんどだろう。しかし、「知りませんでした。」では済まされないのがドイツ。法改正を知らなくて何もせず、事故が起きた場合、言い逃れはできない。損害賠償で訴えられないように、今回は新しく施行された法律、その中でも賃貸に関する法改正、それに判例を紹介します。

賃貸関連の民法改正 – 煙探知機義務化

まずは、”Rauchmelderpflicht”(煙探知機設置義務)から始めよう。火事で人命が失われる場合、95%が煙による煙に巻かれての中毒が原因と言われている。これを未然に防ぐため、これまでは任意だった煙感知器の設置が、2015年1月1日から多くの州で義務化された。

「私のアパートではすでにキッチンに設置されているので、関係ない。」と思ったら大間違い。キッチンで煙にまかれて命を落すケースはほんどなく、寝室や居間で眠っている間に煙にまかれて死亡するケースがほとんど。だから感知器は寝室、居間、客室、子供部屋、そして廊下など、人が滞在する場所に設置する事が必要だ。

誰が設置費用を払うの?

「えっつ、じゃ幾らかかるの?」ということになるが、感知器自体は高くはない。中国製なら一個、わずか数ユーロ。ドイツ製は20~30ユーロ。法律では、「ドイツ製である事」という制限はないが、欧州のJISサインである“CE”の規定を満たしていることが条件だ。

中国製の電気製品には、CE規格を満たしていないのに、勝手にこの規格を印刷している事もある。命に係わるところでは、安い製品は信用しないほうがいい。感知器の設置は大家の責任で行う。大家の責任で行うということは、設置費用は大家が払い、感知器が故障したら、これを取り替えるのも大家の責任だ。

もし大家が、「金は払うから付けてくれ。」、あるいは、「金を払うから取り替えてくれ。」という場合は自分でやっても構わない。ちなみに自分で勝手に取り付けてから、大家に「お金を払ってください。」という方法では、大家は支払い義務がないので注意されたし。尚、唯一、Mecklenburg-Vorpommern 州では、賃貸人が煙感知器を設置する責任を負う。

罰則

もし大家さんが、「賃貸人は日本人だから、法改正なんか知らない。何もしなくていいや。」と思ってしまった場合、残念ながら罰則はない。ただし実際にアパートで火災があり、感知器が設置されてないが為に賃貸人が死亡した場合、大家さんは法律を破っていたので、民事訴訟で慰謝料をたんまり請求される。「部屋を貸しています。」という大家さんは、さっさと取り付けてしまおう。

不動産屋の手数料 / Courtage

この機会にドイツの賃貸に関する民法に触れておこう。ドイツには礼金の習慣はない。もっとはっきり言えば、礼金を取るのは違法だ。「礼金を取られました。」という方は弁護士事務所に相談して、不法に取られた金を取り戻そう。

礼金がない一方で、ドイツで不動産屋を使うと”Courtage”と呼ばれる手数料を取られる。これがべらぼうに高い。法律では、「光熱費を含まない家賃2か月分+消費税まで請求できる。」となっている。「うちは家賃1ヶ月分だけにしよう。」という人(不動産屋)はなく、何処の不動産会社もこの最高額を要求してくる。

おまけにドイツで不動産を扱うには免許も要らないので、自己破産申告していなければ、誰でも不動産屋になれる。そしてこの欧州でもトップクラスの「配当率」も手伝って、いかがわしい不動産業者が多い。ドイツでは中古車のデイーラーと不動産業者は “schwarze Scharfe”(悪徳業者)の多い職種であるので、要注意。

不動産屋が正規の手数料を請求してくるなんて、まだかわいい方。「まずは手数料を払ってくれ。契約時には差し引くから。」と契約していないのに、手数料を要求してくる輩もいる。不動産屋が不動産の賃貸契約をする前に手数料を要求する事は法律で禁じられている。そんな要求をしてくる不動産屋は断った方がいい。

不動産屋の手数料が無料に!

日本でも当たり前の慣行であるが、不動産屋に、「賃貸人を探してくれ。」と頼むのは大家の方だ。大家が不動産屋に仕事を依頼したのに、手数料を払うのは賃貸人というのは、おかしい。大家がアパートの壁塗りを職人に依頼、その費用を賃貸人が払わされたら、誰でも怒るだろう。(日本では何故か、賃貸人が抗菌費用という清掃費用を払わされる。)日本では、「昔からそうやっています。」で済んでしまうかもしれないが、ドイツでは済まなかった。

「大家が仕事を依頼したのに、賃貸人がこれを払わされるのはおかしい。」と国会で取り上げられて、「不動産屋の手数料は、不動産屋に仕事を頼んだ者が支払う。」という法律が出来てしまった。この法律は2015年6月1日からドイツ全土で施行されてるので、これからドイツに留学、駐在する人へは朗報だ。お陰でこれまで苦労していた物件探しが、(基本的に)無料でできる事になった。

この法律の施行がそれほど喜んでいないのが大家だ(お金持ちほどケチ)。投資目的でアパートを購入したのに、これでは実質、2ヶ月以上のタダ貸しになる。そこでこの法律の施行を受けて、これまでは不動産屋と契約を結んでいた大家がこの契約を破棄、直接、賃貸人と賃貸契約を結び直している。そうしないと、今後、賃貸人が払っていた仲介料を自分で不動産屋に支払うことになるからだ。

しかしこれでは不動産屋の商売はあがったりだ。大家との契約が切れ、取り扱い物件が少なくなり、存続の危機に立たされることになった。そこで元からあやしな商売方法も辞さなかった不動産屋は、法律を回避できるいろいろな方策を考え出した。

不動産屋の新商法

一番簡単な方法は、これまでは、「キッチン付き」だった物件を、キッチンなしにする方法だ。このアパートに入りたい人は、「このキッチンを2000ユーロで購入することが条件。」とする。キッチン付きでアパートを貸すと、設置されている家電が壊れた場合、大家は修理の義務を負う。そこでこれを2000ユーロで売れば、臨時収入に加え、故障時の修理も賃貸人の責任になる。

もうひとつの方法は、客(賃貸人)から、アパートを探すように依頼を受けるように仕向けることだ。どういうことかと言えば、賃貸人が、「アパートを探してます。」と不動産屋に行くと芝居をうって、「現在紹介できる物件はございません。」「正式に依頼いただけると探してみます。」と言う。

そこで書類にサインすると、これまでなかった物件が、引き出しを開けるだけで一気に、それも数十件も出てくる。この場合、物件探しを依頼したのは賃貸人なので、賃貸人が手数料を払うことになる。しかし猿芝居がばれると、不動産屋には25000ユーロ(法貨で350万円)までの罰金が課される。

尚、サインをして不動産屋に物件探しを依頼、これを見学して気に入らなければ、断っても手数料は取ってはならない。不動産屋は契約締結時に限り、手数料を取ることが許されている事実に変わりはない。

被害者続出 賃貸詐欺

不動産屋を使って探すのが主流の日本と異なり、ドイツではインターネットを利用して、自分でアパートを探す方法が主流になっている。大家と直接契約すれば、余計な手数料がかからないからだ。

そこでインターネットで部屋の写真を無断拝借、ありもしない物件をこしらえて、「手数料無料 大家との直接契約です。」とやる輩も居る。詐欺のコツは、家賃を他の物件よりも20%程度安くする事。家賃が安いと、「なんでこの物件だけ安いの?」という健全な疑いの代わりに、「急がないと他の人に取られてしまう。」と考えるので、なかなか詐欺に気が付かない。

「鍵を送るから、スペインの口座に保証金を送金してくれ。」なんて返事が来たらアラームが鳴る筈だ。ここでもアラームが鳴らず、「保証金を送ったのに、何故、鍵が届かないの?」なんて言う奇特な人は居ないと思うが、部屋の契約も結んでいない、ましてや見ていないのに、お金を要求してくるのは詐欺の証拠です。

アパートでの喫煙

苦労してやっとアパートに入居したものの、下の住人(定年退職者)がバルコニーで朝から晩までタバコを吸っている!なんて事もある。愛煙家なら問題ないが、洗濯物をバルコニーに干す日本人には、喫煙家でもあまりうれしくない。同じ経験をしたドイツ人が、「幾ら自分の部屋だからと言って、四六時中バルコニーでタバコを吸うのは、我の権利を侵害するものだ。」と裁判所に訴えた。

この案件に関して、「生活の内部まで裁判所が規定/決定するのはどうしたものか。」という懸念の声もあった。さらに高等裁判所が、「自分のアパート/バルコニーでタバコを吸うのは自由。」と判断した事もあったので、これで終わりと思われたが、禁煙家団体がこの訴えを金銭的に援助したので、最高裁判所で判決が下ることになった。

最高裁での判決

最高裁は1月16日、「バルコニーで喫煙をするのは基本的に許されるべきだが、これにより隣人の生活を重度に妨げる場合、喫煙を控えるべし。」と判断した。こして愛煙家はバルコニーでタバコを吸う「時間表」を作成、隣人が許可(納得)した時間に限り、バルコニーでの喫煙が許されることになった。愛煙家の方、ご注意あれ。

バーべキュー

同じようによくトラブルになるのが、隣人の行うバーベキューだ。夏になるとドイツ人はバルコニーでバーベキューをするので、お洗濯物はこげた肉の香りがする。当然、これについても訴えがあったのだが、裁判所は、「夏にはグリルをするものだから、隣人の生活を重度に妨げない限り許される。」と判断した。

ここでも問題になっている「隣人の生活を重度に妨げるかどうか」は、その回数による。毎週、バルコニーでグリル、月4回もスモークされた衣服を着ることを余儀なくされる場合は、重度の妨げになるので、「下の住人のグリルはたまらん。」という人は証拠を取っておこう。

小便の自由

最後にもうひとつ愉快な判決があったので紹介しておこう。ある大家が高価な木材、床に大理石を使用した「高級トイレ」をアパートに入れた。ところが賃貸人(おそらく男性)が立ったまま用を足すので、大理石がくすみ、木材が腐りかけた。

「座って用を足してくれ。」と賃貸人に頼んでも、「立って用を足そうが、座って用を足そうが、俺の自由だ。」と(ドイツ人らしく)放尿の自由を束縛されることを拒否した。こうしてこの件も裁判所で争われることになった。1月22日、デユッセルドルフの地方裁判所は、「賃貸人は立ったまま用を足す権利がある。」と判断、ドイツ中でお笑いを誘った。

 

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執筆者:

nishi

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