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赤字スーパー テンゲルマン争奪戦 – 大臣許可

投稿日:2016年6月27日 更新日:

スーパー
街頭から消えたテンゲルマン

安売り王

ドイツに住んでいる方で、”Hertie”、”Inter Spa”さらには”Walmart”などのスーパーの名前をまだ覚えている方は、20年を超える長期滞在者だ。ドイツ人は欧州きっての「倹約家」なので、お買い物の際は値段が物を言う。少しでも高いと、「あの店は高い。」と概念が定着して、客足が遠のいてしまう。高品質の肉や野菜を提供しても、クノールやマギー(日本で言う味の素)のソースの味を「おいしい。」と感じるドイツ人には、通用しない。

ドイツ人は、安い肉にマギーのソースをかければ至極満足する、わざわざ高価な肉を買う意味を見出せない。これに最初に気づいたのがドイツでは知らぬ者はいないAlbrecht兄弟で、店舗の内装、品数よりも価格に重点を置くデイスカウントスーパーAldi”を展開、全国的に大ヒットした。アルブレヒト兄弟はこの成功で、ドイツ一の富豪になった。

成功を真似る者

成功する人がいると、自分では何も考えないで、アイデアを盗んで真似する者が必ず現れるもの。ドイツでは「デイスカウンター」と呼ばれるスーパーが次々に誕生した。結果、ドイツの食料品市場は値段競争になり、その競争に勝てないスーパーは、次々に買収されていった。

現在、ドイツ全土の食料品市場は4強、”Edeka(netto)”、 “Rewe(Penny)”、 “Schwarz (Lidl& Kaufland)” 、それに”Aldi”が市場の85パーセントを寡占している。日本ではその土地、土地で地場のスーパーがあるものだが、ドイツでは何処に行っても同じスーパー、同じ食材しかないという退屈な市場になっている。

まだ百貨店が頑張っている日本と異なり、ドイツでは百貨店は”Auslaufmodel”(時代遅れの商売形態)となった。ドイツの有名な百貨店、”Kaufhofは、「儲からない。」と親会社のメトロが2015年にカナダの投資家に売却した。以後、ドイツ中で儲からない支店が閉鎖されており、まだ”Kaufhof”のある町は市民に購買力がある証拠だ。

“Kaufhof”の向かい、あるいは隣に店舗を構えてライバルだった”Karstadt”は2009年に倒産、今はオーストリアの投資家が支店網を縮小して細々と商売している。この両百貨店の規模は小さく、残りの15%の「その他」に含まれる。この「残りその他」に含まれるスーパーで、もっとも規模が大きいのが、”Tengelmann-Kaiser”だ。

赤字スーパー テンゲルマン

もう二度と書く事はないだろうからこの際に解説しておくと、会社の起源は19世紀まで遡る。会社の創始者のカイザー氏が、手押し車で家庭を訪問してコーヒーを販売したのが会社の起源だ。会社はdie Kaiser’s Kaffee Geschäft AG(カイザーコーヒー株式会社)と呼ばれた。その後、生鮮食料品も扱うようになり、戦前には1000店舗を誇るドイツ一の大きなスーパーだった。

戦後はアルデイの商法を真似したが、価格競争に負けて”Tengelmann”に買収さた。以降、”Kaiser-Tengelmann”として営業している。しかしアルデイー、リデイルなどの値段に慣れたドイツ人は、「アルデイーの方が安い。」と値段しか見ない。値段で競争できないテンゲルマンは客足が減って、赤字に転落した。90年代には会社を”Platzhirsch”(業界最大手)のエデカに売却しようとした。

三顧の礼

ところがエデカは、「黒字の店舗は買ってもいいが、赤字の店舗は要らない。」と条件を突きつけたので、売却に至らなかった。そこで同社は赤字の支店を閉鎖、あるいは一部の店舗をアルデイー、リデイルの向こうを張って、”Plus”という独自のデイスカウンター店舗に改造した。さらには北ドイツではカイザー、南ドイツでは テンゲルマンという短い名前に改名して、アルデイー、リデイルに対抗することにした。この為、デユッセルドルフではカイザーという名前で、南のミュンヘンに行くと、テンゲルマンと言う名前で営業している。

残念ながら名前は変わっても、会社の業績は改善しなかった。そこで再びエデカの玄関を叩き、「エデカの商品を扱わせてくれ。」と頼み込んだ。業界最大手のエデカは、販売する量が多いので、品物を安く仕入れることができる。そこで品物を独自のルートで仕入れるのではなく、エデカの仕入れルートを使って、エデカの商品を店舗で売ろうと考えた。南ドイツには”Marktkauf”というスーパーがあるが、ここはまさにこの商法を取っており、店舗の商品はエデカの商品に並んでいる。

寡占局

ところが今度は寡占局が、「待った!」を出した。業界最大手のエデカが実質上、カイザーテンゲルマンの店舗を手中にすると、ただでも寡占状態にあるドイツのスーパーは寡占が進み、エデカが強大になりすぎて自由に値段を決めることが可能になる。これを危惧した寡占局が、そのような取り決めを禁止した。方策尽きた同社は、2010年からさらに支店網の縮小を始めたので、「ここにあったPlusがReweになっている。」と、店舗が変更されたのに気づいた方も居るはずだ。

にも関わらず、カイザーテンゲルマンは赤字から抜け出せなかった。それほどまでにドイツ人消費者の値段意識は高く、安い店でしか買わないのだ。同社はエデカの門戸を三度訪問して、カイザーテンゲルマンの残る450の支店を買ってもらえないかと持ちかけた。「三顧の礼」に感心したのか、それとも赤字店舗が減って金儲けのチャンスを見たのか、今度はエデカは首を縦に振った。ところがここでも寡占局は、この買収を禁止した。

テンゲルマン争奪戦 – 大臣許可

ところがエデカは袖の裏、もとい、別の方策を持っていた。寡占局が許可しなくても、経済大臣が”Ministererlaubnis”(大臣許可)を下せば、寡占局を無視して買収が可能になる。エデカが経済大臣にこれを申請すると、来年に総選挙を控えて人気が低迷しているSPDの大臣は、二つ返事で承諾した。ただし、「5年間は買収した店舗を閉鎖してはならないし、16000人の従業員も解雇してははなない。」という条件付だった。

しかしいざ買収してしまえば、この条件に違反しても大きな罰則がない上、買収を「なかったことにする。」というわけにもいかない。早い話、買収してしまえば好きなように料理できるのだ。エデカは大臣の条件を二つ返事で承諾、これでカイザーテンゲルマンの名前は、”Hertie”、”InterSpa”さらには”Walmart”などと一緒に、「そういえば、そんな名前の店があったなあ。」という思い出に消えることになった。

大臣許可の余波

ところがこの大臣の勝手な決定に、我慢のならない人も少なくなかった。まずは寡占局の局長。局の仕事である寡占を防ぐという仕事をしているのに、大臣が勝手に決定を覆すのでは、寡占局の意味がない。局長は大臣の決定を不服として局長から辞任すると表明。お陰で大臣は、自身が出した大臣許可を弁明することを余儀なくなれた。

業界第二の規模を誇る”Rewe”も大臣の決定に大いに不満だった。この買収が許可されてしまうと、追いつくことが不可能なまでに差をあけられてしまう。スーパーの店舗が増えれば、それだけ安く仕入れできて、客を他の店から奪うことが可能になる。そこでレーヴェはデユッセルドルフの上級裁判所に大臣許可への不服を申し立てた。今後、裁判所が苦情を受け入れるかどうか審査されることになり、この決定が下るまでカイザーテンゲルマンの買収はお預けになる。細かいことを言えば、カイザーテンゲルマンの従業員の2016年の賃上げ交渉も、エデカが組合と同意する事が条件になってり、まだ買収が決まったわけではない。

編集後記

デユッセルドルフの高等裁判所はレーヴェの苦情を受け入れて、大臣許可の審議に入った。裁判所は大臣が許可を出す前にエデカとテンゲルマンの代表者、そして大臣の3人で「密談」しており、その会話の記録が一切公開されていない事を非難、これでは大臣が公平ではなく、”befangen”(片方の肩を持っている)で決定を下したと判断。

さらにはエデカが約束した、「テンゲルマンを買収後、現在残っている16000の職場を削減しない。」の保障がないと大臣の認可を非難、大臣が与えた許可は無効であるとした。党首としての能力が問題視されている中で、この裁判所の判断は産業大臣にとってとりわけ大きな政治的ダメージだ。大臣はこの判断に対して異議を申し上げて、この件は最高裁判所で判断されることになった。大臣の異議が却下されれば、大臣の能力を問う声が党内で大きくなりそうだ。

そうこうするうちに、”Kaiser’s-Tengelmann”が、「もう我慢の限界」を白旗を揚げた。赤字が膨らみ、もう支店を閉鎖するしか道はないと発表した。経済大臣は、「だから許可したのだ!」と自身の決定を自慢したが、当事者には何も助けにもならない。今、エデカ、レーヴェ、カイザーテンゲルマンの3社で、支店をどのように山分けするか協議した。一時は、「エデカが全支店を買収することで同意。」というニュースも流れたが、取引は成立しなかった。カイザーテンゲルマンは10月17日から同社の解体に着手した。

この最後の土壇場になってエデカ、レーヴェ、カイザーテンゲルマンは合意に達した。カイザーテンゲルマンの主要な店舗はエデカが買収、ベルリンなどのレーヴェの支店数が少ない地域では、レーヴェが支店を買収することで三社が同意。レーヴェが裁判所に出していた異議申請を取り下げたので、産業大臣の面子も救われて、「ウイン ウイン」の結末で終焉した。

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執筆者:

nishi

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