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マイナス金利の功罪(18.01.2017)

投稿日:2017年5月10日 更新日:

2016年3月、欧州中央銀行(以降EZBと略)は歴史上初めて公定歩合を0%に下げると同時に、保険会社や銀行などがEZBにお金を預ける場合に採用される金利をマイナス0.4%に設定、さらなるマイナス金利の導入に踏み切った。日銀も、「マイナス金利はない。」とそのような政策を拒否していたのに、結局はマイナス金利を導入した。もっともマイナス0.1%という「低金利」なので、EZBに比べればその余波は小さい。

そもそもマイナス金利を導入する思惑は、「銀行はEZBに金をプールして(預けて)おかないで、事業に融資すべきだ。」という点にあった。マイナス金利を払うくらいなら、銀行は客に金を貸して金利で儲け、社会にも金が出回って、経済活動が活性化するという希望的な観測から下された金利政策だった。ところが欧州の銀行の多くは、2007/8年の金融危機以来、未だに多額の借金(不良債権)を抱えている。しかるにEZBはこの根本的な問題の解決策を提供しないで、将来の金融危機に備えて自己資本率を上げるように銀行に条件を課した。結果、山のような不良債権を抱え、低い自己資本率で悩む銀行は、余剰金を投資に回さないで自己資本率の改善に使った。マイナス金利を払いたくない銀行は、預金をEZBから引き下ろして銀行の金庫に保管した。まだ大きな金庫を持っていない銀行は、金庫の設置を検討している。毎年、0,4%もの金利を払うなら、数千万円かけて金庫を作ったほうが安い。

こうしてEZBの思惑とは異なり、企業融資の数は一向に改善しなかった。さらには公定歩合をゼロに設定することで、消費をてこ入れして、日本のようなデフレが定着しない事を期待した。しかしそんなに簡単にデフレ退治ができるなら、日本は20年近くもデフレに悩んでいない。実際、ドイツ国内のインフレは0.4%~0.5%にへばりついたままで、EZBの目標の2%には逆立ちしても到達しそうになかった。2007/8年の金融危機、それに続き発生したユーロ危機で果敢な金融政策を実施して危機を克服したEZBだが、今度ばかりはその金融政策が効果を発揮しなかった。これを象徴するのが定例の金融政策発表のコメントだ。EZBや日銀は「経済はゆっくりと回復している。」という表現を用い、その政策を正当化することに余念がないが、期待された効果は出ていない。

これがとりわけケチで知られるドイツ人には気に入らない。ドイツ人の大好きな貯金をしても、お金は一向に増えることがない。年金生活者なら、「物価が上昇しなくてすみやすい。」だが、これから年金をもらう世代にはたまったものではない。個人年金に加入しても保障金利は0.9%なので、これでは何年払っても年金の足しにはならない。国が「国民年金では足らないから、個人で年金に加入しないさい。」と推奨しているリースター年金(貯蓄型)も同じ金利を約束しているが、契約成立時に保険会社が取る高額な手数料(コミッション)を差し引くと、実質金利は0.42%になる。これではインフレ率よりも低く、貯蓄ではなく減蓄だ。投資型のリースター年金に加入している人は、高い手数料に加えて、保険会社が投資した株のパ-フォマンスが悪く、年金額がマイナスになっているケースさえある。その一方でEZBの国債買い上げ政策により、10年物の国債の金利さえもマイナス金利になり、ドイツ政府は国債保有者に払う利子を節約するばかりか、マイナス金利で15億ユーロという大金を稼いだ

ドイツ人には「目の上のたんこぶ」だが、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどの国では、EZBの金融政策は天の恵みだ。本来なら6~10%の金利を払わないと買ってもらえない国の10年物の国債が、なんと2%未満の金利で完売してしまう。国債が低金利で完売するので、政府は人気のない構造改革をする必要性を感じない。産業の競争率を高めるのに必要な社会保障のカット、増税、労働時間の延長(*1)、解雇条件の緩和などをやると、選挙で負けて政権を失うからだ。こうしてEZBのマイナス金利は、もともと競争力がないために経済の成長率が低い国の政府が、何も対抗策を取らない様に背中を押す結果になってしまった。EZBは国債を買い上げることで国の緊迫した財政事態を緩和、時間を稼いで、その間に構造改革を進めることを期待していたが、結果は正反対となった。マイナス金利は何ひとつとして、目的を果たさなかった。

ここで安値に悲鳴を上げた産油国が生産量をカットすると発表すると、原油価格はほぼ20%も上昇した。これが消費価格を押し上げて、2016年12月、ドイツでは1.7%という数年振りの高いインフレを記録した。EZBや日銀は決して認めないだろうが、EZBや日銀がゼロ金利、マイナス金利を導入しても退治できなかったデフレを、産油国が一気に解消してしまった。このままインフレ率が上昇して2%を突破すると、EZBは金利を上げなくてはならない。ドイツ人は貯金に利子がついて大喜びだが、イタリア、ポルトガル、スペインなどの国では国債の利率が上昇して、借金をするのが難しく(高く)なる。さらに公定歩合が上昇すればユーロが高くなり、ユーロ内で生産された商品は値段が高くなり競争力を失う。これが一番応えるのが、構造改革を怠ってきたイタリアだ。イタリアの国債がまた8~9%もの利率になると、借金の沼にはまっているイタリアは借金を返せなくなる。しかしイタリアはギリシャやポルトガルと違って経済規模が大き過ぎて、EUの金融支援では支えきれない。そうなるとまたユーロ危機、2.0の再来だ。だから前イタリア政府は構造改革を実施しようと国民投票を行ったが、国民はこれを拒否した。イタリア、そしてユーロは今後大きな試練に直面することになるだろう。

*1
日本では長時間労働が当たり前で、「世界中、どこも同じ。」と信じているが、欧州の事情は全く異なる。労働時間の延長と言っても、おフランスの労働時間は週35時間と、欧州の中でもとりわけ短い。日本と違って、欧州には残業がない、あるいは残業をしないので、この時間が本当の労働時間になる。当然、フランス産の製品は高くなる。高くてもルイビトンのバックなら売れるが、誰でも買うものではない。労働時間が38.5時間のドイツと比較すると、同じ製品でもフランス製は高くなる。さらにドイツでは派遣を(悪)利用して、労働賃金をダンピング、周辺国よりも安く生産できる。劣悪な労働環境で働いてる日本人が欧州に来たら、目からうろこだろう。

欧州中央銀行総裁 ドラギ氏

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執筆者:

nishi

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