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ムスク税

投稿日:2019年1月11日 更新日:

16世紀の初め、現在の東ドイツで修道士が教会の拝金主義を非難した際、一体、誰がその余波を想像できただろう。これによりキリスト教は大きく改革された。

現在でもカトリック教徒は離婚を許されず、教会はコンドームを悪魔の手先と非難、ローマ教皇は堕胎を「契約殺人」と非難している。ルターの非難がきっかけになって誕生したプロテスタントがなければ、キリスト教は未だに中世の暗闇を彷徨っていただろう。

今度はよりによってドイツでイスラム教の改革が始まっている。果たしてルターのような大きな宗教改革に繋がることになるだろうか。

モスク税導入なるか?

教会税

ドイツには犬猫税同様に人気のない教会税がある。日本でもかってはお寺が兵士を抱え、諸侯と対峙していた。ドイツには司教領があり、司教様が絶対権力を持つ小国家だった。これが変わったのがナポレオン戦争。戦争に負けたドイツでは、ナポレオンへの賠償金を払うため司祭領を接収すると、教会の財産まで没収する。さらには教会に課税の義務まで課すと、教会の存続が困難になった。そこで教会の財源を確保する目的で1827年、教会税が導入された。

以来、ほぼ200年、教会税が存続しています。日本からドイツに引越し、市役所で住民登録の際にあなたの宗教について聞かれるので、教会税を払いたくない人は要注意。もっとも、「いや、将来は教会で結婚式をあげたいから。」という人は、教会税を払う必要がある。すると毎月、お給料から教会税が引かれる。

「教会で挙式を挙げるには、幾ら払う必要がありますか。」それは住んでいる州、町、お給料、家族の状況による。例えばバイエル州に一人住まい、お給料は税込みで3000ユーロだったら、およそ35ユーロ/月が教会税になる。そう、テレビの受信料の倍の額だ。これを毎月、死ぬまで(教会を脱会するまで)払う必要がある。この高額な税金のお陰で、ドイツの教会は英国などど比べて、どの教会も保存状態がいい。

そして牧師様は大学出たばかりでも4000ユーロの高額初任給をもらえる。それだけではない。住む場所は教会が提供してくれて、お食事は「経費」なので、お金が溜まって仕方がない。これが司祭様になると月給9000ユーロ。ドイツでは聖職者はメルセデスやBMWを乗り回す高額所得者だ。

合理的なドイツ人の対処法。まずは最初の結婚までは教会税を払い、挙式後、教会を脱退する。どうせ二度目の結婚式では教会は使わせてもらえないので、「払うだけ無駄。」だそうだ。市役所で教会脱退証を出せば、教会税から開放される。

ゲルマン人のキリスト化

幸い、税金を取られる宗教はキリスト教だけ。もっとも安心できないので、役所で宗教を聞かれたら、「なし。」と応えるのが一番です。というのも、今、ドイツではイスラム教徒を対象にしたモスク税を導入しようという議論が高まっている。

ドイツ人(ゲルマン民族)はかって、キリスト教に改宗することを頑なに拒んだ。ゲルマンの民俗信仰を捨てるよりは、文字通り死を選んだ。ところがローマ帝国の支配可に入った部族は、これを受け入れた。そしてゲルマン民族がローマ帝国の領土を征服してゲルマン民族の王国を立てる頃には、多くの種族はキリスト教に改宗していた。

ドイツにおけるイスラム教

以来、ドイツではキリスト教が国の宗教だが、第二次大戦後、トルコ系住民を筆頭にしてイスラム教徒が増えてきた。しかしキリスト教のドイツでは、移民とその宗教は、原住民とキリスト教よりも低い存在と見なされてきた。結果、イスラム教徒はドイツで生まれてドイツで育ったのに、「社会の一員として受け入れられてない。」と感じていた。これが変化の兆しを見せたのが2006年の大統領の発言で、同氏は「イスラムはドイツの宗教だ。」と語った。

参照元 : Zeit Online

この発言により大統領は各方面、ガチガチのキリスト教徒と右翼から非難されたが、態度を変えなかった。この発言がイスラム教徒の心を救った。とは言っても、現実面ではイスラム教はまだ社会には受け入れるまでには至っていない。その理由のひとつが、かってのカトリック教のような、旧態然のイスラム教のあり方だ。

一夫多妻制、食習慣、性差別、衣装から始まって、”Ehrenmord”(名誉の殺人)と呼ばれるイスラム教徒の若い女性の残酷な処刑がドイツで相次ぐと、ただでさえよくなかったイスラムのイメージ、それに偏見は深まるばかりだった。とりわけドイツ人はイスラム教徒の女性に課されているスカーフの装着を女性の(性の)抑圧と理解しており、「学校の教室でスカーフは許されるのか。」と度々、議論になっている。

イスラム教徒のルター?

よりによってそのドイツでイスラム教徒の女性弁護士が、イスラム教の改革を唱えている。彼女は厳格な(原理主義的な)イスラムの家庭で虐待されている女性、命の危険にさらされている女性を助ける弁護士だった。いつの頃か、彼女は被害に遭ってる女性を助けるだけでは、根本的な問題の解決に繋がらないと、イスラム教の改革を唱え初めた。

彼女の訴えの確信は男性と女性の平等化だ。イスラム教では男性と女性が同じモスクの同じ礼拝堂で祈ることさえも許されてない。女性の聖職者が説教をするなんて、男性への侮辱でしかない。21世紀の今、未だに女子大がある国では当たり前かもしれないが、セックスの差がないドイツでは、中世の遺物だ。

そこで彼女は自身のモスクを開いて、彼女が提唱する寛容なイスラム教の布教を始めた。勿論、男女同じ礼拝堂で祈る。これを厳格なイスラム教徒(男性)が許すはずもなく、最初の殺人未遂事件まで、長くかからなかった。暗殺を生き延びた彼女には100を超える殺人予告が届き、全く仕事にならず弁護士事務所を閉じることを余儀なくされたが、それでも彼女は負けなかった。2012年には弁護士事務所を再開、虐げられた女性の救済に尽くしている。

ちょうどルターがキリスト教の改革を提唱した中世の頃は、暗殺は政治の手段。カトリック教はなんとかして、この修道士の口を封じようと、何度も暗殺を企てた。ルターの主張に同調したザクセン王がルターを守らなかったら、ルターが翻訳したドイツ語の聖書など、彼の功績は後世に残らなかったろう。

今のドイツでは、ドイツ政府がザクセン王の役割を演じて、この女性の命を守っている。そして中にはイスラムの男性の中にも彼女の主張に同意する者も居て、彼女のモスクを訪問して祈りをささげている。

モスク税?

そして今、ドイツでモスク税を導入しようという議論が高まっている。我々日本人からすると、教会税、モスク税と聞けば、「罰せられる仕組み」と考えがちだが、実はその逆。モスク税を導入しようという議論の裏には、13年前に大統領が唱えた、「イスラムはドイツの宗教だ。」が、多かれ少なけれ、現実化した事実がある。

ドイツ人が認めようが、認めまいが、イスラムはドイツに根ざしている。ドイツには5百万ものイスラム教徒が住んでいるのだ。今更これを後戻りさせることはできない。ドイツでモスク税を導入するというのは、キリスト教と同様のステータスをイスラム教に認める事に他ならない。こうした背景もあって、右翼を除く政治家は大方、この議論を歓迎している。又、モスク税の導入によりドイツにおけるイスラム教の問題のひとつを除去できる。

イスラムの宣教師

その問題はイスラムの宣教師だ。現在もドイツのモスクで説教をしている宣教師は、トルコやサウジ、あるいはカターなどイスラム教の原理主義に近い国から派遣されている。ドイツのモスクにやってくると、西側の文化を猛烈に批判する。「社会に受け入れられてない。」と感じている若者はまるでスポンジのようにこの過激な思想を吸い込む。

モスクの建設費から宣教師のお給料まで、サウジやカターなどから出ている限り、これが変わることはない。しかしモスク税を導入すれば、モスクの宣教師は原理主義国家からの派遣ではなく、ドイツで生まれ育った穏健派の宣教師を採用することができる。

もっともこの案には法律上の問題もある。モスク税を導入するのは、イスラム教を宗教団体として認定する必要があるのだが、さまざまな派閥に分かれていて、これをすべて把握、検査、認定するのはものすごい作業になる。さらにモスク税はイスラムの教えに必ずしも合致するものではない。上述の女性弁護士も、この理由からモスク税の導入は問題があると見ている。

結果がどうなるにせよ、社会でイスラム教について真剣に議論することで、イスラム教への理解度、認知度が広がっている。社会に問題があるのに、公の議論を避けて絨毯の下においてしまう社会と比べると、ドイツの社会は風通しがいい。社会問題はこうして国民が議論に参加することにより解決されていくのだ。

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執筆者:

nishi

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