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ノルトライン ヴェストファーレン州選挙 – Kraft(力)及ばず

投稿日:2017年9月22日 更新日:


兵どもが夢の跡

5月14日、デユッセルドルフが州都のノルトライン ヴェストファーレン州(以後、NRWと略)で州選挙があった。この州にはドイツの全人口のほぼ1/4が住んでいるので、「小さな全国選挙」とも呼ばれ、9月に行われる全国選挙の指針となる大事な選挙だ。

ノルトライン ヴェストファーレン州

ドイツの地方政治をご存じない方がほんどだろうから、かいつまんで解説しておこう。この州は元来、社会民主党(以降SPDと略)の地盤であった。理由は日本でも歴史の時間に習うルール工業地帯だ。ここで採掘される石炭を利用して、クルップを筆頭にドイツの軍需産業が栄えた。戦後、軍需産業は下火になったが、鉄鋼業で沸いた。

労働者の支援を受けたSPDは、他の州から大きな会社がNRWに進出してくるのを阻止して、労働者は鉄鋼業で従事するしか他に選択肢がない環境を作り上げた。たくさん企業が出てくると労働者の取り合いになり、賃金が上昇するのを妨げるのが目的だ。ところが石炭と鉄鋼が下火になると、他の産業がないのでこの州は大不況に見舞われた。

デユーイスブルク、ボッフム、オーバーハウゼンなどはゲットー化が進み、ドルトムント、エッセンもこの波に飲み込まれつつある。州政府、すなわちSPDはやっと過ちを悟って大企業を誘致しようとしたが、大企業はこの州にまだあった工場を閉鎖、東ヨーロッパに工場を移転、産業の空洞化が止まらない。

SPD政権に返り咲く

不況に対して一向に効果的な手段を見出せないSPDに愛想を尽かした選挙民は12年前、CDUに鞍替え、30年ぶりのCDU政権が誕生した。ところが政権は変わっても、不況に対して打つ手なし。4年後には選挙民に愛想をつかされて、政権は再びSPDに戻ってきた。もっともSPDは緑の党とあわせても過半数に達しないため、議案を議決するには左翼政党のご好意にすがる形だったが、それでもなんとか政権の奪取に成功した。

ここで州知事に就任したのがクラフト女史で、緑の党の代表も女性だったので、「女性パワーでNRWを改善させる。」と約束した。クラフト女史にとって幸運だったのは、リーマンショックが巻き起こした不況が底を打って、女史が政権を獲得すると景気がゆっくりと回復を始めたことだ。選挙民はこれを女性パワーのお陰と感謝、2012年の州選挙ではSPDは緑の党と合わせて過半数を獲得した。選挙で勝利したクラフト女史は将来の首相候補と持ち上げられて、党首代理という立派な役職までもらった。

NRW州は過去の負の遺産に加えて、他の州よりも高い企業税、複雑怪奇な規制で悪名高い。ドイツで会社なり工場を作るなら、人件費と土地が安い東に行けば、細かい規制で悩まされず、税率も低いので会社に残る金(儲けが)大きくなる。東が嫌なら、インフラが整備されているヘッセン州、BW州、ニーダーザクセン州など選択肢は多い。

改革遅れ

SPD はこうした点の改革に着手すべきだったが、緑の党との兼ね合いもあって、ほとんど手付かずの状態だった。お陰でNRWは好景気に沸くドイツでも、ブレーメンなどと同じく、景気の波に乗り損ねた州のひとつと化した。さらに間の悪いことに2015年12月31日にケルンで女性が移民に大量に襲われる事件が発生した。にもかかわらずケルンの警察署長は、「のんびりとした年越しでした。」と発表、この一件をもみ消そうとした。

ドイツのメデイアはこれを信用せず、独自の取材で正反対を証明した。おそらく政治家から圧力を受けたのだろう、ケルンの警察署長は、「事実隠蔽」の罪をひとりでかぶって辞任した。

警察の大きな誤算

この事件の一抹で、「NRW 州の内務大臣、イエーガー氏が事件をふせるように警察署長に指示を出した。」と周囲で語られた。事件後に開かれた調査委員会でイエーガー氏は、「知りません、覚えていません。」で逃げおおせた。州知事はこの時点で同氏を、メルケル首相がやるように首にすべきだった。

2016年12月にベルリンでチュニジア人よるテロが発生、12名が犠牲になった。事件が起きた当初から、「何故、警察はテロを止められなかったのか。」と警察の対応が問題になった。というのもテロリストのアムリはNRW州で難民申請を出していたが、これを拒否されて強制帰国するべく警察に収容されていた。

しかしアムリはパスポートを破棄しており、警察は「チュニジア政府がパスポートの再発行をしてくれない。」と、アムリを釈放してしまったのだ。警察は、「拘束期間が90日までしか認められていないから。」と正当防衛したが、強制送還者の身柄拘束期間は裁判所に申請すれば90日以上に延期できるのだ。しかしその手間を惜しんで、アムリを釈放した。

しかし警察は引き続きアムリを監視していた。チュニジア政府から、「アムリはテロリストである。」との報告が来ていたからだ。ところがアムリを監視していた警察は、アムリがラマダンを無視して平気で食事を取り、酒も日常飲んでいるので、「イスラムの戒律を守っていないから、テロリストではない。」と判断した。

アムリが、「準備が出来た。いよいよ妹と結婚する。」というメッセージを送ったことまで把握していたのに、何も処置を取らなかった。その挙句がベルリンで発生したテロで、12名の市民、観光客が犠牲になった。「何故、収容期間の延長をしなかったのか。」と聞かれたNRW州の内務大臣、イエーガー氏は、「知らなかった。落ち度はなかった。」と保身に尽くした。

クラフト州知事は遅くてもこの時点で役に立たない内務大臣を首にすべきだったが、これをしなかった。同氏を首にすることで、間接的に落ち度を認めることを心配した。それに選挙戦も始まっている。5ヶ月もすれば新政府を組むので、その際に内務大臣をすりかえればいいと楽観した。

Kraft(力)及ばず

クラフト女史の対立候補はCDUのラシェット氏で、「パットしない。」という言葉がぴったり当てはまる政治家だった。女史は4年前に同氏を蹴散らして勝利しており、今回も楽勝になる筈だった。ところがNRW州の前にあった州選挙ではCDUが躍進、西で州をSPDから奪取した。

半年前は世論で快適なリードを保持していたクラフト女史だったが、選挙前になると風向きが変わり、ラシェット氏が世論調査で並ぶまで迫ってきた。クラフト女史の人気は(まだ)高かったので、このSPDの不調の原因は他の箇所、例えば内務大臣にありそうだった。しかし今更、何もできなかった。

18時に選挙速報が出ると、明暗がはっきりわかれた。SPDは過去最低の31%にまで投票率を落とし、CDUが33%獲得して第一党に躍進した。クラフト女史は過去8年間のツケが回ってきたことを悟って、党のすべての役職から辞任した。「女性パワー」という言葉は響きが良かったが、構造改革を怠って経済発展から取り残されたこと、安全対策を一度ならず二度までも怠った知事を市民は許さなかった。

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執筆者:

nishi

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