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【恒例】ルフトハンザ スト – 地上勤務員 vs. パイロット

投稿日:2016年12月3日 更新日:

【恒例】ルフトハンザ スト - 地上勤務員 vs. パイロット
【恒例】ルフトハンザ スト – 地上勤務員 vs. パイロット

90年代、すぐストをする航空会社と言えば、エアフランスだった。

商用で欧州に飛ぶ客には、

「エアフランはストが多いですよ。」

と警告しておかないと、

「ストでフライトがキャンセルされた。なんとかしてくれ。」

という苦情と直面する羽目になった。

旅行代理店に航空会社のストの文句を言われても、筋違い。しかしエアラインの受付は空。

「誰かに日本語で文句を言いたい。」

という欲求のはけ口が、旅行代理店だった。

そこで商用でドイツに来る客には、エアフランス以外の航空会社を薦めていた。その同じ病気がドイツにやってきた。

ルフトハンザのパイロットが構成する労働組合”Cockpit”は、給与アップと早期退職、それに企業年金の改善を要求して2012年から”Neverending Strike”(終わりのないスト)に突入した。

ストは労働者の権利

不思議なことにドイツ人は、ストに対して日本人には理解できない理解度がある。

劣悪な労働環境に抵抗してきた長い歴史があるからだろうが、

「ストは労働者の権利だ。」

と言い、ストのお陰で仕事に遅れてしまうのに、怒っていない。(勿論、怒っている人も居ます。)

普段は自分の都合を最優先するドイツ人が、

「仕事に遅れても、労働者の権利は守るべきだ。」

と言うのは、目を見張る。だから当初はパイロットのストにも理解があったが、その理解にも限度があった。

パイロットのストに加えて、客室乗務員のスト、そして空港の地上勤務員のスト、さらには空港管理局員のストが続き、まるでフランスのような様相を呈してきた。

一年で一番大事な休暇のフライトがキャンセルされると、次第に世論が硬化してきた。

ルフトハンザパイロットのお給料は?

パイロットが劣悪な労働環境に抗議してストをすると思ったら、大間違い。

パイロットは、数ある職業の中でももっともお給与が高い職業のひとつだが、その中でも業界大手のルフトハンザはとってもお給料がいい。

パイロット学校を卒業した初任給は、さまざまな手当てが加わって7万3千ユーロ(年俸)、日本円ではほぼ1000万円、とかなりの高給だ。

毎年、賞与のカテゴリーは上昇して、定年まで勤めると、22万5千ユーロという夢のような超高給取りになる。定年後は国から出る年金が2万3000ユーロ、これに加えて企業年金が5万4千ユーロも支払われる。

ルフトハンザよりも給与が高いのはエミレーツだけで、エア ベルリンのパイロットには夢のような高給だ。

参照 : Merkur

まだ格安航空会社なんてものが存在しておらず、ルフトハンザの高いチケット料金でも座席を乗客で埋めることができる限りは、このような高給を払い、高額な年金を払うことができた。

ところが格安航空会社が台等、ルフトハンザの客を奪い始めると会社の業績が悪化、しまいには赤字になると、

「ウチは元、国営ですから。」

と過去の栄華にふんそりかえっているわけにはいかなくなった。

ルフトハンザ 独自の格安航空会社

日本の(元)国営航空会社は、この時代の流れを読めず経営破綻したが、ルフトハンザの経営陣はそこまでナイーブではなかった。

ルフトハンザを救うには、独自の格安航空会社を導入して、これに対抗するしかないと正しく判断した。

しかし格安航空会社を新設して、安いお給料で新社員を雇っても、パイロットや客室乗務員の大部分は古い(高い)ルフトハンザの契約だ。

結果として一向に経費が下がらず、格安航空会社の安いチケットを販売すると赤字になった。

そこで2012年にパイロットとの給与契約が期限を迎えると、給与体系を見直して給与の上げ幅を抑制、企業年金も手を加えて会社の負担を減らそうとした。

給与体系の見直しと言っても、英国航空やエア フランスなどより高い給与が支払われる。が、高級待遇に慣れたパイロットには会社の勝手な都合としか思えなかった。

こうして長く続くことになるパイロットの反抗が始まった。

【恒例】ルフトハンザ スト

ルフトハンザは、パイロット側に4.4%の給与アップ+1.8ヶ月分の特別ボーナスを提示した。

しかしコックピット(パイロットの労働組合)は給与の20%アップを要求しており、会社側のオファーを、

「全く話し合う気がない。」

と、けちょんけちょんに非難、ストに再突入した。

参照 : Zeit

このストにより、毎日、890ものフライトがキャンセルされ、9万8千人の乗客が苦渋をなめている。ストによる会社の損益は1500万ユーロ/日にも上る。

参照 : faz

しかしパイロットは会社を無期限ストで脅し、会社の運命など全く気にかけていなかった。

ところがである。これまでは共同ストを展開するなど、仲の良いところを見せていたルフトハンザの地上勤務員の心境に変化が生じた。

コックピットが無茶な要求を上げるお陰で日々自宅待機になり、会社に大きなダメージを与えているの見ていると、次第に腹が立ってきた。

地上勤務員 vs. パイロット

パイロットは地上勤務員の数倍の高給をもらっているのに、さらに20%もの昇給なんて有り得ない!

コックピットのストお陰で自宅待機している期間は、地上勤務員にはお給料が支払われないのだ。そして会社がストのお陰で大赤字を出せば、その金は何処かで節約しなくてはらない。

早い話、パイロットのストのしわ寄せが来るのは、客室乗務員、それに地上勤務員だ。

地上勤務員の労働組合は、パイロットが会社側の4.4%の給与アップを蹴ってストに突入、会社の前でデモすると、

「パイロットは強欲すぎる。恥を知れ!」

と会社前で対抗デモを行った。

パイロットは当初、

「お前たちは会社に騙されているんだ!」

と同僚の対抗ストを真面目に取ろうとしなかったが、ジーメンスの社長などドイツの経済界のトップは、パイロットのストを批判した。

各国は投資家を自国に招こうと必死で、高い金を払ってCMをゴールデンアワーに流している。ドイツだって例外じゃない。

投資家がドイツに来てくれなければ、国内経済は空洞化してしまう。そこで

「高い教育水準、高い労働者の能力」

を訴えて、資本家にアピールしている。

しかしいくら努力しても、パイロットの終わりのないストが報道されると、折角の努力が水の泡だ。

労働組合に急所を握られている企業の姿が報道されると、そんな国に投資しようという奇特な投資家はいない。

経済界はパイロットのストが与える悪影響を心配した。

これにメデイアからのパイロット非難も加わると、パイロットのイメージが(銀行員のように)エリートから詐欺士のレベルまで落ちることが心配になってきた。

ようやく置かれている状況を理解し始めたコックピットは、会側の提案を検討すると発表、結果が出るまでストを延期した。

「お金持ちほどケチ」

と言うが、ルフトハンザのパイロットを見る限りまさにその通り。足ることを知らないパイロットの姿はとっても醜い。

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執筆者:

nishi

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