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売春法改正 – EU最高裁判決 売春は生業なり

投稿日:2019年7月16日 更新日:

ドイツ留学中 / 滞在中、遅かれ、早かれ見聞きするであろうドイツの売春事情。「あれってどうなの?」と疑問が浮かぶが、誰に聞けばいいのかわからない。自分の素性がわからないようにネットで探すも、ドイツの売春法を本当に読んでいる日本人なんて皆無。まともな回答などあるわけがない。

こうして事実とはかけ離れた回答が事実とされて、口コミで広がっていく。新たなドイツ伝説の誕生だ。一旦、間違った見解が広まると、これを修正するのは大変です。新たな伝説が誕生しないように、ドイツの達人が本当のドイツの売春事情を紹介しよう。

建前と本音

体裁、面子を重視するアジアでは、日本を始めとして売春が違法な国が多い。しかし売春を禁止しても、売春がなくなるわけではなく、この商売は地下に潜るだけ。地下にもぐると組織犯罪の財源になり、売春を強制される女性が後を立たない。体裁、面子を守る以外に、売春を違法化することにどんな利点があるのだろう。

ドイツでは売春が組織犯罪に利用される懸念から、「違法でもなければ合法でもない。」という曖昧な状態が長く続いていた。わかりやすく言えば、違法ではないので売春をしても逮捕されることはなかった。ただし法律で認められている職業ではないので、脱税の温床になり、厚生年金にも加入できず、健康保険も本人任せという、一種の無法地帯だった。

この無法状態を変えたのが、ある売春婦の訴えだった。

EU最高裁判決 売春は生業なり

20世紀末、オランダで自営業者(売春婦)として働こうとしたポーラン人女性、Jany にオランダ政府は労働許可+滞在許可証発行を拒否した。これはEUで定めている大原則、”Freizügigkeit”、EU内の国民ならどの国でも自由に働ける、に反するとして、Jany はチェコ、スロバキア国籍の女性と一緒にオランダ政府を欧州裁判所に訴えた。

売春婦に訴えられたオランダ政府は、「売春は普通の職業と違う。」という理屈で自己弁護。しかし欧州裁判所は判決で、「売春は生業のひとつ。」との判断を下した。

参照 : Wikipedia

売春が他の職業と同じ生業ならば、オランダは外国人の労働を妨げることは違法となる。これによりEU内の国籍保持者がオランダ、あるいはその他の加盟国で売春婦として職業を遂行することは、合法となった。

ドイツ売春法改正

欧州裁判所で判決が出ると、加盟国はこれに沿った法整備をする必要がある。これまではドイツでは売春婦が契約を履行しない場合は、契約主には損害賠償を請求する権利が生まれるとされていた。ところが契約主が売春婦にサービス料金の支払いを拒否した場合、契約主が売春婦の財産に損害を与えたとはみなすことができず、未払い金の請求権がないという一方的な状況が生じていた。

ところが売春が生業と認められたことにより、これを是正する必要に迫られた。2001年12月にドイツの売春法が改定されて、売春はドイツでも立派な生業として認められることになった

参照 : ドイツ法務省

こうして売春業は、職人に自宅のリフォームを頼むと一緒で、サービス業として認可された職業となった。結果、売春婦は他の生業と同じく、稼いだお金には税金が課され、収入から国民健康保険費用、失業保険費用、そして国民年金の掛け金の支払い義務が生じることになった。

売春法改正 – 売春税

ではどのくらいの税金がかかるのだろう。ドイツでは所得税は地方自治体の財源なので、税率は自治体が自由に決めることができる。すなわちベルリンでは20ユーロ/日で済むが、ケルンでは30ユーロ/日だ。税率が日割りなのは、毎日働くわけではないから。もし職業として売春をする場合は、別の税率が採用される。

自営業者として売春をする場合は、通常の自営業者と同様の税率が採用される。すなわち8820ユーロ(年間)までの収入なら、税金はかからない。この額を超えた最初のユーロから17%の課税率となり、5万2000ユーロを超える収入は、最高税率の42%となる。

売春をする場合、届け出する必要はありますか?

売春をするのに必要なのは、マイナンバーだけ。会社勤務の場合は、これを仕事場に届ければ、会社が自動的に税金を差し引いて、納税してくれる(筈)だ。自営業者として仕事をする場合、ちゃんと確定申告をすれば、何も心配する必要はない。

EU外からドイツに来た外国人、例えば日本人がドイツで売春をするには、労働許可証、あるいは永住許可証がいる。

「ワーホリビザでいいですか。」

駄目です。日本人がドイツで合法に売春をするには、制限なしの労働許可証か、永住許可証が必要です。条件付きの労働許可証の場合は、、労働局がこれを認可してくれればOK。

学生アルバイトはアリですか。

ケース バイ ケースです。通常は禁止ですが、大学生になると滞在ビザは「ゼミの休みの就労は例外的に許可。」と書かれます。このビザをもらった際に、売春もこれに含まれるのか、聞いてください。ガチガチのカトリックのバイエルン州では駄目だと思われますが、リベラルならベルリンなら許してもらえるかもしれません。

売春で学費を稼ぐ?

ある団体がベルリンの大学生、3250人に売春をしているか、あるいは売春をして学費を稼ぐ事を考えているか、アンケートを取った。

参照 : karrierebibel.de

このアンケートによると、3.7%(120人程)が、SEX産業に従事してお金を稼いでいると回答。売春で学費を稼ぐ事を考えている、あるいは考えたことがあると回答したのは、なんと33%にも上った。この数字はドイツ全土の平均値のほぼ倍。流石、ベルリン!

売春すると幾ら稼げるの?

このお仕事は個人差が激しいので、一概には言えません。あるアンケートによると少ないケースでは50ユーロ/日、収入が多いケースでは5000ユーロ/週、だったそうです。

参照 : Taz.de

プロになると、もっと稼げるようです。時々、脱税容疑で税務署が家宅捜査をしています。

参照 : NTV.de

この件ではお金持ち(潜在的なお客さん)の多いハンブルクで働いていた、自営業の売春婦。税金を払わないので、税務署が家宅捜査しました。押収した証拠から1年の収入を17万ユーロから、32万ユーロと推定。これに相応した税金の支払い命令、及び罰金を課しました。

仮に17万ユーロとしても、日本円で2000万円。やっぱり会社勤務よりも、自営業の方が儲かるみたいです。

何処で仕事を探せばいいの?

法律で認められた職業なので、ハローワーク、ドイツで言えば、ジョブセンター / “Jobcenter”に行くと、「売春婦募集」の求人広告も出ている。ただし失業しても、「売春業はどうですか。」と薦められることはないし、「長く失業しているんだから、この仕事に就きなさい。」と強制されることもない。あくまでも売春を生業として働きたい人だけが、自由意志で働くサービス業だ。

もっとも時々、常識のない公務員がいるのは日本もドイツも同じ。バイエルン州はアウグスブルクのジョブセンターに仕事を探しに行った19歳の女性、ソープランドの職を勧められて、ドイツ全土で笑いの的になったこともある。

参照 : Spiegel

お堅い街のジョブセンターでは、仕事を仲介してないケースもあります。ドイツは連邦制なので、売春婦募集を載せるかどうか、これは自治体が自由に決めることができるためです。勿論、新聞やネットでも募集記事が載っていますが、そのような掲載には注意してください。バックにはマフィアがいる(事が多い)からです。

ドイツのお仕事場はどんな形なの?

日本の旅行者、出張者に人気なのは、(誤って)FKK と呼ばれているクラブ形式です。FKK は Freikörperkultur の略。東ドイツで人気だった動きで、「人間は自然な姿に戻るべきだ!」との信念で、すっぽんぽんになる人、あるいはそのような思想を指します。

参照 : Wikipedia

これを拡大解釈して、売春を提供する場所を FKK あるいは、さらにもっとひどい拡大解釈で、「サウナクラブ」と呼んでいます。こうした使い方は隠語で、公式な表現ではありません。だからタクシーに、「FKK に連れていってくれ!」と言うと、すっぽんぽんで泳ぐ場所に連れていかれることもあります。

そのようなクラブには、少額の入場料を払って入ります。客は店で働く女のコと話をしながら、お気に入りを決めるとういのが一般的なパターン。ドイツ人が好きなのは、食事と飲み物、それに売春までコミの”all inklusiv”です。知人は昼間から入り浸り。「だって全部、込みだぞ!」との事。そのようなお店は、従業員に払うお給料は高くないです。

皆まで言えば、綺麗な女の子が多いクラブは収入がいい証拠。仕事を探しに行ったら、働いている女性たちのチェックもお忘れなく。そのようなクラブが営業していい地区は決まっているので、通常は郊外にあることが多いです。友人のギリシャ人、ステファノスのお勧めは、エッセンにあるペネロペ。リンク、住所の紹介は自粛。

もうひとつのタイプはアパートの一室を借りて、自営業者として仕事をするケース。デユッセルドルフ近郊で一番有名なのは、なんといってもケルンの郊外にあるパシャだ。

参照 : pascha.de

ライバルはシュトットガルト郊外にある”Paradise”。欧州で最大の売春のデパートだ!

参照 : paradise.de

自営業者はアパートの大家に賃貸料を払います。月割りでなく、日割りで。大家には、「俺はアパートを貸しているだけ。売春とは関係ない。」と堂々と主張できる利点があります。売春婦にとっても賃貸料金さえ払えば、残りは全部自分の収入になるので、高額収入が見込めます。おまけに顔を出して宣伝をする必要がなく、アパートのドアさえ開ければ、客がすでに待ているという素晴らしい仕事環境。

闇商売にはご注意!

「売春は合法なので、違法な売春はドイツにはないんですね?」と思われるかもしれないが、あります。どの生業でも闇商売はつきものです。典型的なものは、マッサージ店。タイ人、ベトナム人などを雇い、表向きはマッサージ店として商売をしています。駅の周辺にある人気のないネットカフェなども、その類です。

闇商売では経営者がピンハネをして、ろくな給料が支払われないので、要注意。間違っても闇商売に足を出さないように。警察の馬鹿ではないので、ちょくちょく摘発しています。

参照 : Focus

仲がいい自営業の仕事仲間同士で、市内のアパートを借りて闇売春アパートを経営するケースもあります。言うまでもなく、「売春をします。」と言うと、アパートは貸してもらえないので、「会社員です。」と言って市内の便利な場所にアパートを借り、仲間でこの売春宿を共同経営するケースです。

売春婦にしてみれば、パシャのような高い賃貸料を払う必要がなく、又、仕事仲間からの意地悪もないので、理想的な環境。問題は客の確保。闇なので宣伝できない。こうした宿は口コミで広がっていくので、評判が大事です。上述のステファノスはデユッセルドルフ市内の闇売春宿をよっく知っており、「ここには〇〇から来た〇〇が居る。」と、まるで生き字引。一緒に車に乗って市内を運転すると、全く別の街が見えてきます!

フラットレート 禁止令発令!

数年前、ドイツの売春宿で「フラットレート」システムが導入された。一度入場料を払うと、あとは何時間でも追加料金なしというシステムだ。この「フラットレート」はドイツ人男性に大いに好評だったが、「女性の尊厳を傷つける。」として、幾つかの地方自治体では禁止されている。

売春法改正 【2017年版】

とは言っても、売春が合法のドイツでも、女性が売春を強制されるケースが今でも後を立たない。その手口はこうだ。ルーマニア、ブルガリア、あるいはウクライナなどで、「ドイツで働いてみませんか。」といろんな場所で広告が出ている。これらの国では、「ドイツで働く」とは、「儲かる。」と同じなので、この派遣に申し込む人が多い。それも若い女性が。

「ドイツではホテルやレストランで働きます。」と本人を納得させてドイツまで連れて来ると、売春宿に監禁、休みもなしで客を取らされる。逃げようにもパスポートを取り上げられているし、言葉も通じない。さらに、「逃げたら両親に復讐する。」と脅されて、逃げる勇気のある女性は少ない。

売春法の欠点が幾つか明らかになってきたので、売春法の改正が与党内で長く討論された挙句、改正案が施行された。

参照 : mdr.de

今後、「売春宿を経営しよう!」という人は、市役所で営業申請を行い、営業許可を取ることが義務化された。過去に犯罪の経歴があれば許可を拒まれる。

これにより違法な売春宿の経営を防止して、かつ、そのような違法の売春宿の摘発が容易にできるようになる。同時に売春宿で働く従業員は、自営業の申請をする事が義務化された。この申請は本人が出頭して行う必要があり、代理人の申請はできないので、これまでのような人身売買、そして売春の強制は困難になる(筈だ)。

そしてドイツ人男性ががっかりしたことに、コンドームの使用も義務化された。「ははは、じゃ、使わなかったら罰金ですか。」と甘く見ないほうがいい。ヴィキリークスの創始者アサンジ氏は、スウデ-デンで性交の際、コンドームを使用しなかったとして傷害罪で訴えられ、2012年にエクアドルの領事館に逃げ込んだ。7年の逃亡生活の挙句に逮捕されて、獄中でアメリカへの身柄引き渡しを待っている。

そのような場所に出向く男性は、「女性は毎月、性病の検査を受けている。これは義務なんだよ。」と主張する。実際には義務ではなく、あくまで自営業者の自由意志に任されている。又、売春を21歳からとする試みは、失敗した。よりによって女性団体が、「とりわけ若い女性が金銭的な問題で売春をせざるを得ない状況もあり、これを違法化すると組織犯罪のいい鴨になる。」と主張したためだ。

売春法改正 の成果 – 効果なし

2019年、2年前に改定された売春法の成果についての、最初の報告があがってきた。ドイツ政府が提出したその統計には、法律で定めた通りにちゃんと登録をした売春婦は、たったの6959人。ドイツ全土で20万人が売春業に従事しているとみられているから、ほぼ1/30。さらに社会保障費を払っているのは、76人という惨状で、法律改正の成果は効果なし。

参照 : sueddeutsche.de

売春をして働く人の多くは、基本的に税金を払いたくないというのが主要な理由のようだ。届け出をすると仕事中に携行する必要のある身分証明書が発行されるが、ここに「個人サービス業従業者(俗称、売春婦パス)」と書かれる事も不評だった。官庁で登録されることにより、親族に仕事がバレる事を恐れているのだ。とどのつまり、性産業に従事している人は搾取されやすいという状況は、法律の改定前から一向に変わっていない。

違法就労で摘発されるとどうなりますか?

まず罰金と税金の支払い命令が届きます。そのようなケースでは税務署は、「収入を判定する。」権利が与えられているので、高額の収入があったとされ高額の罰金と税金の支払い命令が舞い込みます。労働許可証もない状態で検挙された場合は、滞在ビザを取り消され、「月末までに退去せよ。」という命令が届くこともあります。

すでに労働許可はあるが、売春婦としての登録をしてない場合は、やはり罰金と税金の支払い命令。ただし初版で滞在許可まで危うくなることは滅多にない。知り合いの口コミで仕事をしている分にはばれることは少ないかもしれませんが、夜間、警察はパトロールを強化しています。

派手な(露出の多い)服装で、ドイツ人男性の車の助手席に座っていると、勘のいい警察には一発でわかります。ご注意あれ。

お断り

ここで書いた記事に関して、かなり頻繁にお問合せをいただきます。「仕事先を紹介してください。」から始まって、「こんなケースではどうでしょうか。」などなど。当社はジョブセンターではありませんので、そのようなお問い合わせには対応いたしかねます。何卒、ご了承ください。

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執筆者:

nishi

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