ドイツの達人になる 医療、保険

癌細胞 vs. T-Zellen (18.09.2017)

投稿日:2017年9月17日 更新日:

今回のテーマは医療。まずは癌治療から。先月、米国でセンセーショナルな癌の治療薬(方法)が、臨床実験で大きな効果を挙げたことが報道された。その効果があまりに顕著なため、米国では薬の認可がすでに下りてしまったほどだ。この治療は”Gentherapie”(遺伝子治療)の一種で、過去20年以上に渡って研究されてきた。かって韓国でこの遺伝子治療を使って癌を治せると医師が大法螺をふいたことがある。目的はお金。高価な治療費を払ってでも癌を治したいと、世界中から癌患者がソウルに飛んだ。数年後、医師はこの治療がでたらめだったことを認めたが、その頃にはすべての患者が死去していた。ドイツでも、「癌を自然治療で治します。」と唱えるグールーがいる。往々にして癌患者の家族はこうした呪い師を現代医学よりも信用、患者は「自然治療のお陰で癌が治りました。」と宣伝用ポーズを取っているが、半年後には死去。家族は大金を役に立たない治療に払わされている。どんなにかすかな希望にでもすがりたい患者とその家族の心境を利用した、あくどい商法だ。

ただ今回ばかりは嘘ではないようだ。簡単に言うと、人間が備えている自然治癒力を遺伝子操作することで、がん細胞だけを攻撃するようにする。この治療に使われるのは長く研究されてきた”T-Cellen”と呼ばれる細胞だ。この細胞を患者の骨髄から抽出して、癌細胞を攻撃するようにプログラムして培養。培養された”T-Cellen”が点滴で患者の体内に戻されると、”T-Cellen”は増殖を続けながら癌細胞を攻撃、これを破壊する。その効果は目覚ましく、たった一つのT-細胞が1000ものがん細胞を破壊するという。効果が高い分、その副作用用も激しい。最初にこのT-細胞を与えられたのは白血病に罹った6歳の少女だったが、治療により高熱を発して意識不明、こん睡状態に陥った。この危険な状態が数ヶ月続いたが、意識が回復すると、がん細胞は死滅していた。今日では12歳になった少女は、白血病が再発することなく、元気に生活している。

残念ながら、「どんな癌でもT-細胞が効く。」というわけではない。この治療方法がよく効くのは特定の白血病と子宮癌で、脳腫瘍などのがん細胞には効果が出難い。さらに効果が出る事がわかっている白血病患者でも、強度の副作用が出るので、この治療で死亡するケースもある。そして肝心の治療費だが、数千万円かかる。日本や米国のような保険システムでは、お金持ちだけの治療法に留まりそうだ。欧州では米国の臨床実験を根拠として薬の認可申請が出ており、EU委員会は「2017年中の許可を目指して審査中。」との事だ。これが認可されれば、2018年からは一般市民がこの治療を受けることも夢ではなくなる。

次のテーマはうつ病の治療。米国の学者がうつ病患者の脳を研究した結果、患者は健康な人では見られない脳の部分で、活発な情報交換が行なわれることを発見した。これが鬱を発生されるとみなされているが、これを阻止する方法、治療法はまだ見つかっていない。この通常ではない脳の活動を押さえる事ができればいいのだが、脳を操作する事はできない。そこでボンとフライブルクの医学大学は共同で脳のペースメーカーを開発したボンとフライブルクの医学大学は共同で脳のペースメーカーを開発した</strong></a>。このペースメーカーは脳の喜びを担当する脳部分を刺激して、うつ病を押さえるという。このペースメーカーは、患者の脳から肩にかけて埋め込まれる。この方法は7万人を越えるパーキンソン患者で行なわれている手術と同じなので、その方法は数多くの手術で実証されている。埋め込まれた装置は定期的に脳に電気信号を送りだし、患者が鬱になることを防ぐ。臨床実験では長年うつ病に悩む患者にこの装置が埋め込まれたが、7~8割の高い確率で症状の改善が確認されている。

現段階では大いに期待させるポジテイブな効果が出ているが、やはり副作用がある。脳に信号を送るのが原因か、記憶力が減退する。とりわけ過去の記憶が大幅に薄れる。そして集中力が減退する。さらにこのペースメーカーだけでは不十分で、抗うつ薬の引き続き服用する必要がある。にもかかわらずこの手術を受けた患者は、「人生が鬱の前に戻った。」と感激している。今後、フライブルク医大では50人の重度のうつ病で悩む患者にペースメーカーを埋め込み、長期の影響を調べる。副作用が抑えられ、臨床実験がうまくいけば、将来は健康保険でこのペースメーカーを埋め込む治療が可能になる。

最後にはあまり嬉しくないニュースも紹介しておこう。20世紀にイギリスで発見された抗生物質。お陰でこれまでは死亡していた数多くの患者の命を救うことが可能になり、人類の寿命が延びることに貢献した。残念ながら、「よく効く。」というので、抗生物質が多用されることになった。タイの田舎に行けば海老の養殖場が広がっているが、海老が汚れた水で病気にならないように抗生物質をたっぷり含んだ餌を与えている。これはなにもタイだけではない。ベトナムの魚の養殖場もしかり、チリの鮭もしかり、豚や鶏などの家畜にまで抗生物質が与えられている。これだけ大量の抗生物質が使用されると、バクテリアは環境に適応(異変)して、抗生物質が効かない新種のバクテリア、ドイツ語では”MRE”(multiresistenten Keim)”、日本語ではスーパーバクテリアが誕生した。

このバクテリアは往々にして、抗生物質が多用される場所で誕生する。すなわち病院だ。ただの盲腸や出産で大学病院に入院したのに、病院内でスーパーバクテリアに感染、患者が死亡する例が毎年報告されている。オランダではこのスーパーバクテリアに発生を防ぐため、医師、看護婦に殺菌、消毒を徹底させている。お陰でこのスーパーバクテリアが発生することはかなり稀。困ったのはドイツの病院で、オランダのように消毒、殺菌が徹底されてない。お陰で大学病院でスーパーバクテリアが発生、患者が次々と死亡する。こうなるとさらなる感染を防ぐため、病棟を隔離閉鎖、病棟を念入りに消毒しないとスーパーバクテリアを退治できない。稀ではあるが自宅でスーパーバクテリアに感染、それから病院に運び込まれるケースもあるので、医師、看護婦が消毒殺菌をしてないと、この殺人細菌が他の患者に移ってしまう。

この殺人細菌が発生すると、複数の抗生物質を組み合わせた特殊な抗生物質が貸与される。ここで使われる抗生物質は、このようなケースに備えて開発された(本来は)市販されていない種類の抗生物質で、殺人細菌には抵抗力がない筈だ。ところが人間が豚、鶏、魚、海老を経由して不必要に抗生物質を服用したため、体内のバクテリアには抗体ができあがっており、効かないケースが報告されている。こうなるとお手上げで、もう何もできない。運がよく感染が手足だけに留まっていれば、これを切断することで生命だけは救うことができる。抗生物質の乱用で、医学は抗生物質発見前の状態にほぼ戻ってしまった。

ところが医学は何も西洋医学だけではない。イギリスで抗生物質が発見される前、パリでは患者を救うべく”Phagen”(ウイルス)を逆に利用して細菌を退治して患者を救う研究、人体実験がが行なわれた。本来は人間に有害なウイルスであるが、細菌を栄養源にして繁殖していくウイルスを利用して、細菌を退治する医療方法だ。その後の抗生物質の発見、普及により”Phagen”(ウイルス)を使った治療法は西側では忘れられることになった。ところがかってのソビエト連邦、とりわけグリジアではこのウイルスの研究が進められ、”Phagentherapie”(ウイルス治療)が実現している。今日では抗生物質が効かない患者に、このウイルス治療を処方することで、患者の命を救っている。

普通なら西側でもこの治療が取り入れられる筈なのだが、西側ではウイルスを使った治療は禁止されている。というのも抗生物質は製薬品会社にとってのバイアグラ、金のなる木だ。”Phagentherapie”なんぞが導入された日には、抗生物質の売り上げ、とりわけ高価なスーパーバクテリア用の抗生物質が売れなくなる。強大なロビーをもつ製薬会社はEU委員会を通じて、”Phagentherapie”を今日まで禁止させることに成功している。そこでドイツでスーパーバクテリアに感染すると、まだ動けるうちにグリジアに飛んで、この治療を受けることが不可欠だ。最近ではポーランドでもこの治療が受けられるので、ベルリンに住んでいれば車でいける。日本ではどのような環境になっているのだろう。

 

-ドイツの達人になる, 医療、保険

執筆者:

nishi

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