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テューリンゲン 州知事選挙 – FDP 党首が州知事に就任!?

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テューリンゲン 州知事選挙 - FDP 党首が州知事に就任!?

ドイツの中央部にテューリンゲン / Thüringen という州がある。かっての東ドイツを構成していた州で、日本でも知られているワイマール市(正確にはドイツ語ではヴァイマーと言う)がある。

ドイツ人がテューリンゲンと聞いて最初に連想するのは、この州で発案されて全国で愛されているソーセージ。ドイツ人が大好きなカレーソーセージに使用されるのは、大方、テューリンガーと呼ばれるこのソーセージだ。

テューリンゲンのもうひとつの名物は、他の旧東地域に共通する根強い右翼思想。「オッシー」と呼ばれる東ドイツ市民は、まるでヴェッシー(西ドイツ市民)よりも質の低い国民であるとの風潮が広がっている。

こうした劣等感を克服するために、(彼らの思想では)さらに質の低い外国人を差別することで、自尊心をキープしている。

この州で2019年に行われた州選挙が、あの(ドイツに興味のない)日本でも報道されるほど、注目を浴びている。しかし日本の報道はあまりにも短い上、ドイツの事情をご存じないキャスターが報道していたので、意味が理解できなかったに違いない。

そこでドイツの達人が、わかりやすく解説いたします。

2014年 州選挙

旧東ドイツにあった州では、伝統的に左翼政党の支持率が高い。これに拮抗しているのが、西ドイツの政党 CDU だ。社会民主党は左翼政党と同じ選挙民を競うので、必然的に得票率が低くなる。

又、(元)東ドイツの州の特徴として環境保護への意識は低く、緑の党はテューリンゲン州議会で議席を獲得したことがない。

もうひとつの特徴は、長年、共産主義の保守思想を叩きこまれていたので、リベラルな思想、難民受け入れ、同性愛などには理解が低い点があげられる。結果、お金持ち優先のリベラル政党 FDP は議席を獲得したり、無くしたりと、瀬戸際の選挙戦を戦っている。

2014年9月、そのテューリンゲン州で地方選挙があった。

参照 : tagesschau.de

ドイツ初!左翼党首が州知事に就任

この選挙で西ドイツの政党 CDU は善戦して、第一党になった。が、相棒(連合政権)の社会民主党は散々な惨敗を被った。それでもこの2党で、かろうじて過半数を制することができるだけの得票率はあった。ところが社会民主党は選挙の敗北の原因が、CDU との連立政権にあったと考えた。

また同じ連合を組めば、5年後にはさらに痛い目に遭う。そう考えた社会民主党は、連立政権の継続に消極的だった。

一方左翼政党は5年前とほぼ同じ得票率で、 CDU に次いで第二の得票率を獲得した。そして緑の党は初めて5%の枠を超えて議席を獲得、一方、リベラルなFDPは議席をすべて失った。結果、計算上は左翼政党 + 社会民主党 + 緑の党で過半数に達してしまう。

が、かっての東ドイツで独裁政権をひき、逃げようとした国民を銃殺した SED。その継続政党である左翼政党の党首が州知事になるのは、大きな抵抗があった。そんな西側の心配をよそに、社会民主党と緑の党は、左翼政党と連立政権で合意に達し、ドイツで初めて左翼党首が州知事に就任した。

参照 : welt.de

テューリンゲン州知事 ラメロウ氏

こうしてテューリンゲン州で州知事になったのが、左翼政党の党首であるラメロウ氏だった。氏は左翼政党の中では中道派。マルクス主義を公に否定するのは抵抗があるが、思想のためではなく、資本主義の下で法律を守り、公益のために働くだけの分別があった。

こうして西側の危惧とは裏腹に、ラメロウ州知事はスキャンダルもなく、州知事として責務をこなしたて人気の州知事になった。思想の異なる三党党の連立政権なのに、大きな争いもなかった。一体だれが、この展開を予想できただろう?

テューリンゲン州はドイツの真ん中にあるという地の利から、オペルの工場など、大企業の生産拠点がある。好景気にも恵まれて、テューリンゲン州では過去最低の失業率を記録した。

参照 : mdr.de

当然、市民はラメロウ政権に満足しており、この連立政権が今後も続く事を望んでいた。これが2019年10月に州選挙が行われる前の状況だ。

2019年 州選挙

ところが蓋を開けてみると、選挙民の多くは極右政党の AfD に投票した。極右は先回の選挙から12.8%も得票率を伸ばして、第二党に躍進してしまった。

難民が大量にやってきた2015年ならまだわかるが、難民危機も過去のものになった今、何故、これほどまでに右翼は得票率を伸ばすことができたのだろう。それには選挙結果を分析してみる必要がある。

参照 : tagesschau.de

選挙結果 – 原因解明

大勢には関係ないが、後で決定的な役割を演じるリベラルなFDPは、かっきり5%の得票率を獲得して、州議会に復活した。

政権にあった左翼政党は先回の選挙からさらに得票率を伸ばし、過去最高の31%の得票率を記録している。すなわち政権への不満ではなさそうだ。

連立政権のパートナー、緑の党は環境保護ブームにもかかわらず、先回よりもわずかに得票率を落としてはいるが、無視してもいいレベル。

では社会民主党は?先回の最悪の選挙結果からさらに得票率を落とし、8.2%という一桁の得票率になってしまった。これは腑に落ちない。政権にある左翼政党は得票率を伸ばし、緑の党もほぼ同じ得票率、なのに何故、社会民主党だけ成績が悪い?

その答えは、先回の選挙から大幅に12%もの得票率を落とした CDU と一緒に見る必要がある。選挙民は CDU と SPD に反対票を投じたのだ。その反対票の受け皿が、極右政党だった。

ではこの両党に共通するものはなにか?それは CDU と SPD によるメルケル第三次連立政権だ。 選挙民は中央政府に対する不満を、この地方選挙で示したのだった。

何故、選挙民は中央政府に不満なの?

ドイツには問題が山積している。お金持ちとそうでない層の格差が、広がる一方だ。低所得者が35年間も働いても、年金が低くて、生活保護を受ける必要がある。これを解決するのは、

  • 年金制度の改革
  • 最低賃金の大幅な上昇

しかない。しかし連立政権は企業団体への配慮から、一向にこの問題と取り組まない。国民は政治に嫌気がさして、通常は投票にさえいかない。ここで登場したのがAfDで、右翼政党はこれまで誰にもできなかった離れ業を成し遂げた。AfD は投票にいかない選挙民を、動員することに成功した。

こうしてテューリンゲン州選挙の結果が生まれた。

テューリンゲン 州知事選挙

州選挙の結果、ラメロウ州知事は連立政権を継続したいが、社会民主党が議席を失しなったために、左翼政党、社会民主党、それに緑の党の三党連合では州議会で過半数を獲得できないという事態が生じた。

選挙で第一党になった政党が過半数を獲得できない場合、三つの方法がある。

  1. 第二になった政党が、過半数を取れるか交渉してみる
  2. 少数派政権を樹立する
  3. 選挙のやり直し

第二の得票率を獲得したのは右翼政党だが、誰も連立を組まないと選挙前から公言しているので、1.の可能性は消えた。そこでラメロウ州知事は、少数派政権で試すことにした。これは以前、NRD州でSPDと緑の党が実施、5年間それなりに安定した政権運営をした実例がある。

しかし少人数政権が成立するには、州議会で他の党から賛成票を2つもらう必要がある。大きな賭けだがラメロウ州知事は、州議会で州知事の任命選挙に臨むことにした。

FDP 党首が州知事に就任!?

テューリンゲン州議会でラメロウ氏が州知事に立候補、右翼政党のAfDは Christoph Kindervater 氏を州知事にノミネートして、州知事選挙が始まった。この右翼政党の候補者は、東ドイツの350人の村の村長で、誰も知らなかった。

今になって考えてみれば、何故、AfD がよりによって誰も知らない候補者を立てたのか、その意図を考えてもよかった。が、「どうせ右翼のすること。」と誰も真面目にとらなかった。ちなみに第三の勢力に転落したCDUは独自の候補者を立てていない。

一回目の投票ではラメロウ氏は44票を獲得した。これは過半数に1票だけ足りない。二度目の投票でも同じ。三度目の投票になると、5%の得票率をギリギリで確保して州議会に復活を果たした FDP のケマーリヒ氏が立候補した。

するとAfDは三度目の得票で、自身が立てた候補者ではなく、FDP のケマーリヒ氏に投票した。まだそれだけでは過半数にほど遠いが、これになんと州選挙で赤っ恥を書いた CDU が同調したために、45票の過半数表を獲得してしまった。

AfD の策略

これを目の前でみせられた左翼政党の驚きと失望は、隠しようがなかった。

参照 : faz.net

数分後には驚きと失望は怒りに変わった。左翼政党の書記長は、ラメロウ氏が州知事に就任した際に渡す予定だった花束をケマーリヒ氏の足元に投げ、そのシーンは全国で放映された。

実はコレ、数日前からAfDとFDP、それに CDU が密かに談合して、三度目の投票でFDPのケマーリヒ氏に投票する事を決めていた。これが事前にばれると大騒ぎになるので、選挙まで秘密にされていた。このAfDの策略を隠すため、Christoph Kindervater 氏という誰も知らない人物をわざと州知事に推したのだ。

良い、悪いは別にして、AfD の策略には脱帽だ。

テューリンゲン 州知事選挙 – その反響

ケマーリヒ氏が議会運営をする上で欠かせないのが、議会決議に必要は過半数の賛成票。しかし5%の党にとって、AfD + CDU の賛成票なくしては過半数に達しない。すなわちナチスの政権奪取を許し、世界中を戦争に巻き込んだドイツで、右翼政党の息のかかった州知事が誕生してしまった。

この事実はドイツはおろか、世界中で報道された。きっと日本でもこれに関する報道を読まれたことがあるに違いない。しかし背景の説明がされていないか、間違った説明がされていたので、理解できなかったに違いない。これがその本当の背景だ。

世界中で報道されたくらいだから、ドイツではもっと大きな反響、むしろ反動と言った方が正解だろう、を巻き起こした。各種メデイアが、「AfD の賛同なくしては何もできない人物が、州知事になってもいいのか?」と報道、市民は道路に出て「ナチスを止めろ!」と、叫び声を上げた。

FDP と CDU の反応

その反響の大きさに最も驚いた人物が二人いた。誰だかわかるだろうか。FDP の党首のリントナー氏と、CDU 党首のカレンバオアー女史だ。

FDP の党首のリントナー氏はすぐに記者会見を開き、「知らなかった、聞いていなかった。」と事前の連絡があった事を否定した。これは真っ赤な嘘で、事態が悪化した際に自身のキャリアを救うべく、布石を投じたに過ぎない。

この時点では FDP 内ではテューリンゲンの事態をどう評価すべきか、意見が割れていた。中には、「見事な手腕だ。」と褒める幹部もいるほどで、党首のリントナー氏も(暗黙の了解を当てていたので)まんさらでもなそうだった。

一方、CDU 党首のカレンバオアー女史の態度ははっきりしていた。ケマーリヒ氏が州知事に就任した後に記者会見を開き、「党は右翼政党との共同戦線を張る事を禁じていた。」と明言した。この声明は、

  • テューリンゲンの党支部から事前に連絡があった。
  • テューリンゲンでは党首の言葉が無視されている。

事実を露呈した。

ケマーリヒ氏が州知事に就任した翌日、ドイツ中で(勿論 AfD の支持者は除く)FDP と CDU に対する非難が高まった。「極右と共同戦線をひいた両党は、ヒトラーの首相就任を認めたヒンデンブルクの行動にひとしい。」と的確な比較がされた。

渦中のケマーリヒ氏は、「右翼と共同戦線を張ったわけではない。」と弁明、全国から巻き起こった辞任要求に対しては、「辞めるつもりはない。」と、突っぱねた。

メルケル首相の反応

テューリンゲンの政治劇が起きてる真っただ中、メルケル首相はアフリカ諸国訪問の日程をこなしていた。党首の座をカレンバオアー女史に譲った手前、自分が表に出るのは避けようとしたが、カレンバオアー女史は自身と党の立場を擁護するだけで、行動に出なかった。

大火事が起きているのに、「大火事ではない。」と知らんふりをしている後任者に任せておける事態ではない。南アフリカの大統領官邸で記者団の前に立った首相は、「この行動は許されるべきではない。元通りにされなければならない。」とコメント、南アフリカから明確なメッセージを送った。

参照 : welt.de

そして直ちに行動した。ケマーリヒ氏の州知事就任を歓迎した党の東ドイツ担当官を即日、首にした。これが男ばかりの政治の世界で生き延びてきたメルケル首相の政治手腕だ。首相の意向に背く者は、直ちに要職から解任される。

この行動力によってメルケル首相は潜在的な危険を排除、長期政権を可能にした。カレンバオアー女史にはその行動力が欠けていた。

テューリンゲン党本部の反抗

そしてメルケル首相のメッセージはしっかり届いた。CDU 党首のカレンバオアー女史はテューリンゲンに向かい、現地の党幹部と協議を開始した。協議と言えば聞こえはいいが、協議の内容は喧嘩と同じ。

女史が「すぐに右翼との共同戦線を辞めろ。」と要求すれば、「地方政治はテューリンゲン党本部の管轄で、党首には命令できる権限はない。」と、テューリンゲンの党本部長にこれを否定される。ほぼ半日、カレンバオアー女史は会談に費やしたが、成果は出なかった。

テューリンゲン 州知事選挙 – ケマーリヒの三日天下

一方、FDP の党首のリントナー氏の権威はまだ損なわれていなかった。詳しい内容はわからないが、「これ以上被害が大きくならないうちに、辞任しろ。」と命令したようだ。ケマーリヒ州知事はリントナー氏との会談後、「新しい州知事が決まり次第、辞めます。」と言った。そこには前日のような自信はなかった。

ところがここで事態が急転した。テューリンゲンの州都、エアフルトではケマーリヒ州知事への個人攻撃が始まっていた。家族が路上で罵倒されたり、つばをはきかけられるなどの被害が多発した。流石にこれは元気のよかったケマーリヒ氏にも効いたようだ。

「新しい州知事が決まり次第、辞めます。」と言ったその翌日、州知事就任から3日後、ケマーリヒ氏は州知事からの辞任を発表した。これがドイツ史上最短で終わった州政府で「 ケマーリヒの三日天下」と呼ばれている。

テューリンゲンの政治劇は、まだこれで終わりではない。さらに大きな激震を巻き起こした。続きは次回の更新で紹介いたします。

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執筆者:

nishi

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