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VW 排ガス スキャンダル – 個人 vs. 大企業

投稿日:2019年2月26日 更新日:


訴訟の原因になったVW Tiguan デイーゼル

デイーゼル車の排ガス洗浄機能を、車にインプットしたソフトで違法に操作していたフルクスヴァーゲン社。米国と韓国で罰金刑に処されたが、その他の国では、ほぼお咎めなしの状態だ。

この待遇の差に腹を立てたEU委員会、EU内でも米国と同じ権利をVWの車を買ってしまった消費者に認めようとした。しかしこの努力は、よりによってドイツ政府の反対で、暗礁に乗り上げてしまった。悪事を働いても、お咎めなしで済まされるのだろうか。

個人 vs. 大企業

VW は一連の排ガススキャンダルで、米国で巨額の罰金を払った。欧州内では「何も違法なことはしていない。」と主張、VW 車のオーナーからの苦情には知らん顔。そこで排ガス洗浄機能を違法に操作した車を買ってしまった消費者には、二通りの選択肢が残されている。

1. 諦める

2. VW社、あるいは車を買ったVWの正規デイーラーを個人で訴える

米国のように集団訴訟が認められていればいいのだが、ドイツでは企業を過剰な要求から守るために、集団訴訟は認められていなかった。これが2017年になって修整されたが、排ガススキャンダルが発覚したのは2015年。当時のドイツでは、集団訴訟は認められていなかった。

参照先 : Pfadfinder24

今、ドイツ国内では5万人のVW社のオーナーが、個人で訴訟を起こしている。VW はドイツを代表する大企業で、一流の弁護士を数多く抱えている。個人の消費者がVWを相手に訴えるなど、まさにドンキホーテ状態だ。頭のいい弁護士は、あらゆる油断を使って裁判の進展を遅らせている。

裁判を経験した者ならわかるが、結果の不確定な裁判闘争を2~3年も続けるには、資金だけでなく、かなりの忍耐力、精神力が必要になる。VW 社はこれを熟知しており、一審、二審で負けても、諦めない。消費者、VW の車を買った客なのだ!が諦めるのを期待して、徹底抗戦する。

最高裁判所で判決が出てしまうと、今後の訴訟では原告/消費者はこの裁判結果を引用すればいい。すると、「あっ」という間に判決が出る。幾ら頭のいい弁護士を抱えていても、役に立たない。さらには原告/消費者には、「絶対に負けない。」という自信を与えてしまうことになる。

そこでVW社は訴訟が最高裁に持ち込まれると、いつも示談を提示していた。これにより最高裁の判決が出ることを効果的に阻止してきた。ところがそんな悪事についに終止符が打たれることになった。

新車に交換して!

VW のデイーゼル車 Tiguan を購入した消費者は、違法のソフトが入っている3年目の車を、「違法ソフトが入っていない新車と交換して!」と車を買ったVWの正規デイーラーに訴えたが、「何も落ち度がないので、車を交換する謂れがない。」と拒否してきた。

誤解されないように説明しておくと、米国や韓国では排ガスの洗浄機能を制限するVWのソフトは違法と判断されている。しかしドイツでは最高裁で判決が出てない上、VWが違法ソフトであると認めていないので、法律上はまだ違法ではない。

そこでこの消費者(の弁護士)は、「新しいソフトに入れ替えないと車の走行許可を失う。これは”Mangel”(欠陥)に相当する。欠陥なんだから、欠陥のない車と交換しなさい。」と論じて、裁判所に訴訟を起こした。

しかしバンベルクの上級裁判所は、「原告が要求するような車は製造されていないので、そのような要求は受け入れられない。」と原告の要求を退けた。消費者はこれを不服として、上告していた。そしていよいよ最高裁がこの件の審議に入るという時点になって、VW は原告に和解案を提示してきた。かなり魅力的な和解案だったに違いない、原告はVW (デイーラー)への訴えを取り下げてしまった。

これによりバンベルクの上級裁判所の判決、「原告が要求する車は製造されていないので、そのような要求は受け入れられない。」が最終判決となり、VW は形の上では裁判で勝ったことになる。

だったら二審で勝った際に和解案を提示すればよかったのだが、そこはVW。消費者にわざわざ最高裁まで上告させた。そして相手が折れないと見て、審議が始まる前に和解案を出してきたのだ。こうしてVWはまんまと勝者として残り、今後の訴訟では裁判例として利用することが可能になる。なんと頭がいい弁護士だろう。

最高裁の決議書

このVWの慣習を、ドイツの裁判所は「感心」していたわけではない。ドイツの裁判所には、審議が始まっていない訴えが山のように積もっている。訴訟開始が遅れて、殺人の容疑者が無罪釈放になることもあるほどだ。

参照先 : Hanburger Abendblatt

最高裁は全国で5万もの訴訟を引き起こし、毎回、最高裁までもっていくVWの「じらし戦法」に、お灸をすえる必要があると考えた。

上述の和解案が受理されて、原告が訴えを下ろした後、最高裁は”Beschluss”(決議書)を発表する異例の行動に出た。この決議書には、「排ガス洗浄制御装置は違法であり、モーターの“Mangel”(欠陥)に相当する。購入者には欠陥のない代用品を要求する権利がある。」と書かれていた。

参照先 : Süddeutsche Zeitung

この最高裁の予期しない発表にVWが喜んだ筈もないが、同社はすぐさま「最高裁の決議書は判決ではない。判決はバンベルクの上等裁判所が出したもので、VW の立場を認めている。」とコメントを出した。流石、VW。大企業は決して責任を認めることはない。

集団訴訟

VW がこのようなコメントを出した気持ちもわからないわけではない。冒頭で述べた通り、今、ドイツ版の集団訴訟、”Munstergrichtsverfahren”が進行中だ。これには40万を越えるVW車のオーナーが名乗りを上げている。最高裁の決議書がこの集団訴訟に与える影響を限定しようとしたのは、容易に想像できる。

この決議により、個人訴訟の5万件+集団訴訟の40万台でVWが敗訴したとしよう。すると賠償金払いや新車への交換が必要となり、同社への負担は計り知れない。しかもこれが欧州の他の国でも行なわれると、お先真っ黒だ。排ガス洗浄装置を操作した大量の車は、欧米ではもう売れないから、引き取っても使い道のないVWの中古のデイーゼル車、どうすればいいのか。

ちょうど日本とEUの自由貿易協定も発行したし、欧米では鉄屑の価値しかないデイーゼル車を日本に持ってきたら、案外言い値で売れるかもしれない。

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執筆者:

nishi

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