ドイツの政治 ドイツの最新情報

EU コロナ復興基金 総額 7500億ユーロ 合意達成!

投稿日:2020年5月26日 更新日:

EU コロナ復興基金 総額 5000億ユーロの給付金!!

メルケル首相(独)とマコン大統領(仏)は 5000億ユーロ規模の EU コロナ復興基金 を創設する事で合意に達した。

参照 : sueddeutsche.de

合意に達したとは言え、法案が出来上がっているわけではなく、ただの提案。

EU 官僚がこの提案を法案にまとめ、EU 加盟国がこの案に同意して初めて、コロナ復興基金の設立となる。

順調に行っても一か月以上かかる大事業だが、

「金の話」

になると笑顔で済ませられないのが政治の世界。

果たしてこの EU コロナ復興基金は成立するのだろうか。

EU コロナ復興基金 とは?

人の居ない駅

コロナウイルスの蔓延がひどかったイタリア、スペイン、それにフランスの三国では、2か月以上も完全なシャットダウン状態続いた。

これが経済に与える打撃は、未だに正確な予想さえできてない。わかっているのはその余波は、2008年のリーマンショックを軽く超える事。

リーマンショックが引き起こした当時の金融危機では、ギリシャは10年間空前の大不況に苦しんだ。あの陽気な国民の中から多数の自殺者が出るのだから、左翼政権が誕生したのも無理はない。

今、それを超える経済危機が訪れようとしている。相応の経済対策を打つ必要があるのは、欧州加盟国の政治家に共通した見解だ。

そこでまだシャットダウン中の4月半ば、EU 加盟国はテレビ会議を開いて1兆5000億ユーロ規模の経済政策に大筋で合意した。

参照 : dw.com

EU コロナ復興基金の財源

EU 加盟国の意見が揃ったのは、ここまで。肝心の金の話になると意見が分かれた。

経済対策に必要な資金の調達方法として議論されたのは、以下の2通り

  • EU 発行のコロナ国債
  • EU 金融安定機構 / ESM からの融資

コロナ国債の問題点

EUがコロナ国債を発行するということは、EU 加盟国がその債務の保証人になる。

日本でも、

「どんなに仲がよくても、絶対に保証人にはるな。」

と言われていますよね。

欧州加盟国はお互いに仲がよくもないのに、

「保証人になれ。」

と言われて、

「いいですよ。」

とならぬのは、言うまでもなし。

ドイツ国内では右翼と保守派が、

「ドイツが保証人になれば、ドイツの国債の利率があがり国民の負担が増える(かもしれない)。」

と警告を鳴らしている。

もう一つの無視できない問題もある。コロナ国債で入った収入を、イタリア政府がどのように使用するか、チェックできない事。

イタリアは(先進国の中では)日本に次ぐ借金大国。借金に対する意識が低い。

右翼とポプリストからなる政権が国民の人気をとるため、

「コロナ特別給付金 一人50万円支給!!」

とやっても、地団駄をふむしかない。そこでオランダが主張したのが、ESM からの融資だ。

ESM からの融資の問題点

2008年、事実上破産したギリシャには  ESM の前の救済傘 / Rettungsschirm から資金援助が行われた。同時にトロイカと呼ばれる専門家チームが派遣されて、ギリシャ政府の出資をことごとく調査した。

もしトロイカに背くと、次回の支援金が払われず、国家破産が現実となる。自分の国なのに決裁権を奪われたも同じで、ギリシャ人は(お金はもうないので)最後に残っていた誇りまで傷つけられた。

これを目のあたりしていたイタリアは、

「イタリアはギリシャではない。」

と、ESM からの融資を頭から拒否している。

早い話が面子の問題。政府は国内世論も気にしなければならず、

  • EU から金の使い道を監督する官僚が派遣されること
  • 決裁権を奪われる事
  • 人気が落ちる事

を気にしている。

こうしてEU コロナ復興基金の創設は合意に達したが、資金超調達方法はまだ何も決まっていなかった。

ドイツの政党の立場

ドイツ国内、政権内でもこの EU コロナ復興基金に対する態度は、はっきりと分かれていた。

政権に参加している SPD 党首は、おおむね、

「ドイツは一人勝ちしないで、今こそ周辺国を助けるべきだ。」

という立場を取った。この立場への賛同を表明したのは、緑の党、それに左翼政党。

それほど隣人愛にあふれていないメルケル首相の CDU は、

「債務を加盟国で肩代わりするわけにはいかない。」

と、やんわりとコロナ国債を拒否した。

日本並みの超~保守派のバイエルン州の政党 CSU は、

「ESM という救済機構があるのだから、ここを利用しなさい。」

と、姉妹党と同じ立場を取った。この立場に賛同したのはリベラル企業優先派の FDP だった。

EU 内で意見が割れるのはまあ、仕方ない。しかしドイツ国内でも意見が分かれるようでは、日本のコロナ政策の二の舞。

後手後手に回って、

「中小企業救済案が出来上がった頃には、企業が倒産した後。」

ということになりかねない。そうなっては、特別給付金も効果を発揮せず、国の借金が増えるだけ。

そこでメルケル首相が動いた。

EU コロナ復興基金 総額 5000億ユーロの給付金!!

メルケル首相はEU コロナ復興基金の件で、フランスのマコン大統領とテレビ会談を行った。

この会談でメルケル首相はこれまでの党の政策、

「債務を加盟国で肩代わりするわけにはいかない。」

を放棄、5000億ユーロ規模のEU コロナ復興基金を設置する事を提唱した。この救済金は日本語でいう給付金であり、返す必要がない。

EU 全加盟国に対して5000億ユーロでは、やや規模が小さいが、

「返さなくてもいい給付金」

という事で大いに注目されている。

イタリア、スペインの両政府はこの案を多いに歓迎しているが、一体、何処からそんな大金が出てくるのだろう?

日本ならまた国債を発行してこれを日銀が買い取る形で財源を確保できるが、ユーロ国債は存在していない。

財源は何処から?

では、5000億ユーロもの金の財源は何処から調達するのだろう?

てっきり

「コロナ国債」

を発行するのかと思えば、EU コロナ復興基金は EU 加盟国が毎年払っている加盟国負担金に上乗せして払う事で賄うという。

この方法でコロナ国債反対派を説得できるかと思えば、その正反対。

倹約の4国家

「絶対に反対」

と真っ先に声をあげたのは、オーストリアのクルツ首相だった。流石、右翼政権。

イギリスとフランスが仲が悪いことは、日本の皆さんもご存じだろう。それ以上に仲が悪いのがオーストリアとイタリア。日本と韓国くらい仲が悪い。

(イタリアとギリシャの仲も同じように悪い)

「イタリアのために金を払うなんてまっぴら後免だ!」

と声をあげたオーストリアに、オランダ、デンマーク、それにスウエーデンの倹約の4国家が揃って共同で記者会見を行った。

参照 : euractiv.de

欧州連合では全会一致制を取っているので、メルケル首相とマコン大統領が提唱した救済案がそのまま成立する可能性は低い。

勿論、そんなことはメルケル首相も知っている。では、何故、面子をうしないかねない救済案に同意したのだろう。

メルケル首相の最後の🏹

メルケル首相の任期はあと1年少々。このコロナ危機がメルケル首相最後の大仕事となる。

女史が考えるのは、国内での支持率、人気ではなく、女史の政治遺産だ。

後世が、

「メルケル首相はコロナ危機で効果的な対策を打てず、大不況の蔓延を許した。」

となれば、彼女の政治的指導者だったコール首相の二の舞になる。

それによりも女史の前任者のシュレーダー首相のように、

「ドイツ経済を再生させた首相」

として歴史に残りたい。

そこでこれまでの党の方針を180度転換して、EU 加盟国の負債をドイツが肩代わりすることも辞さない事を態度で示した。

落としどころは?

とは言っても、5000億ユーロの規模の給付金を加盟国が承認する可能性は低い。

日本政府は2か月にもわたっての営業自粛を要求した国内の企業に、1円たりとも払わなかった。

なのにドイツ政府はともかく、あのオーストリア政府がイタリアの為に数百億円も払うとは、到底思えない。

果たしてその結果がどうなったのか、その結果はこちらで報告します。

EU コロナ復興基金 総額 7500億ユーロ 合意達成!

EU首脳は7月17日からブリュッセルに集まって(テレビ会談ではなく)、EU コロナ復興基金について協議した。

予想されていた通り倹約の4国家の反対は固かった。協議が始まるとノルウエーも倹約の4国家に加わり、倹約の5国家になったことも交渉を難航させ、協議は何度も中断された。

オーストリアのクルツ首相は、

「大きなドイツとフランスが二か国で話し合った内容を、小さな国がそのまま承認すると思ったら大間違いだ。我々は同盟を組んで反対する。」

と、協議の間に反対声明まで出した。

倹約の5国家の中でとりわけ大きな声で反対していたのはオランダだった。その態度に怒ったイタリアのコンテ首相は、

「オランダの反対で協議が決裂すれば、数週間は勝者のような気分に浸れるだろう。でもそれも長続きせず、最後には後悔することになる。」

と非難しときは、EU首脳会談の失敗は避けられないように見えた。しかしメルケル首相は、

「かってない危機の中で、失敗することは許されない。」

と日曜日までだった首脳会談を月曜日、そして火曜日まで延長した。何が倹約の5国家を説得したのかわからないが、

「EU コロナ復興給付金の額を3500億ユーロに限定する。これが最後のオファーだ。」

と妥協案を出してきた。この提案をたたき台にメルケル首相、ミシェルEU大統領、マコン大統領が加盟国が個別に協議した結果、給付金の額を3900億ユーロにする事で合意に達した。

さらに3600億ユーロはクレジットとして準備されるので、EU コロナ復興基金の総額は7500億ユーロになる。

これが実に4日間、90時間にも及ぶ過去最長のEU首脳会談の成果だった。

参照 : www.dw.com

ちなみにドイツはこのEU コロナ復興基金に払い込む額が給付金よりもはるかに大きく、1333億ユーロの赤字となる。言い換えればドイツ国民は税金で他のEU諸国、それもドイツを非難することしかしない、ギリシャ、ポーランドも一緒に救済する事になる。

日本に置き換えれば、日本が税金で韓国の経済復興を助けるようなもの。日本だったら倹約5国家のオランダのように反対して、韓国の為に税金を使うことはなかったろう。

「EUは争ってばかりで一向にまとまらない。」

と正当な非難をされるが、コロナ危機のような一大事になると国家間の軋轢を克服して、同意できる事を示した。

-ドイツの政治, ドイツの最新情報

執筆者:

nishi

コメントを残す

アーカイブ