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スターダ争奪戦 – ヘッジファンドがヘッジファンドを恐喝

投稿日:2017年11月5日 更新日:


ドイツで処方される薬はほぼゲネリカ、コピー薬品です

キッチン用品メーカーWMF

ドイツの有名なキッチン用品メーカー”WMF”をご存知だろうか。高級品のイメージを崩さないように同業者と談合、高い値段を維持していた。これが寡占局にばれて、高額な罰金を課せられると資金繰りが苦しくなった。このチャンスに投資家が2012年、”WMF”を買収した。その額6億ユーロ。

もっとも投資家が自分で払ったのは1億ユーロ。残りの金は銀行が出した。”WMF”を買った投資家は、”WMF”の傘下にある子会社を競争相手に売却、ドイツ国内の生産拠点を閉鎖して中国に生産拠点を移すなどの手段で、収益率を改善した。こうして持ち主は大いに儲けたが、これを可能にするために数多くの社員が職を失なった。

WMF転売

それでも投資家はまだ不満で、次は”WMF”自体を売却することにした。その方法はふたつ。解体してばら売りするか、まとめて売るか。ばら売りすると、各個の買い手を見つける手間がかかるが、儲け幅が大きい。

長く売却先を探した結果、フランスのキッチン製造メーカーが”WMF”をまとめ買いすることになった。売却額は15億ユーロ。投資家はわずか1億ユーロの投資で、14億ユーロの儲けを出すことに成功した。銀行に払う(返す)借金などを差し引いても、8億ユーロを超える儲けだ。

このような投資家をドイツでは、”Heuschrecken”(イナゴ)と呼ぶ。社員の運命などこれぽっちも考えず、利益を出すために会社を食い尽くすので、ぴったりの名前だ。ドイツの有名な“Grohe”も投資家が購入して、生産拠点をタイに移転、多くのドイツ人が職を失った。数年後、投資家は会社を日本企業に売却して大儲けした。

製薬会社 Stada

ドイツに残る唯一の製薬会社、STADA”が同じ運命にさらされている。この会社は19世紀に薬剤師が集まって作った会社で、これまでは主にゲネリカ(パテントが切れた薬の製造)に力を入れてきた。ところがゲネリカ市場は飽和状態にあり、売り上げ、儲け共にここ数年停滞している。この会社に目を付けたのが、容赦ない要求で有名なヘッジファンドだった。

会社の5%の株を手に入れると、これまでの社長を首にして、新しい社長を就任させるように要求してきた。株主総会でこのヘッジファンドは新人事を承認させると、ヘッジファンドの息のかかった社長を送り込んできた

新社長は最初の仕事として会社の一番大事な規約、「会社の株の貸与を禁止する。」を抹消した。これにより投資家が必要な株を買わなくても、銀行から必要な株を借りて自分の名前に書き換えるだけで済むからだ。こうしてドイツに残る唯一の製薬会社、スターダの身売りが始まった。

スターダ争奪戦

冒頭で述べた”WMF”のように、ドイツにあり、しかも黒字を出している会社はいい値で売れる。生産拠点をアジアに移すだけで、一気に収益率が改善するからだ。これを武器に「お買い得ですよ。」と売り込めば、投資した金の数倍の儲けを期待できる。このような千載一遇のチャンスをイナゴ(ヘッジファンド)が見逃すわけもなく、会社の規定が変更されると、イナゴの群れがスターダの買収に次々に名乗りを上げてきた。

ヘッジファンド間で買収競売になり、一番高い値段をオファーした投資家にチャンスが与えられることになった。スターダ買収が報道されるや、株価は40ユーロを割っていたのに、64ユーロまで上昇した。

もっともヘッジファンドが買収のオファーを出したのは66ユーロで、買収が成功するには67.5%の株を取得することが条件だった。買収のオファー締め切りが6月末から7月始めに延長されたので、高価な買収額にもかかわらず、それほど順調に進んでいないと推測された。

スターダ買収失敗

蓋を開けてみれば、買収できたのは65.5%で買収は失敗に終わった。理由はいろいろ推測されたが、蚊帳の外だった別のヘッジファンドがさらなるオファーの改善を期待してスターダの株を購入、買収を妨げたと言われている。身売り失敗後、スターダの社長は、「2017年度の会社の営業目標は、この失敗に関係なく達成できる。」と嘯いた。

しかしこの買収劇に払った億単位の金が会社の業績を悪化させることは避けられず、株価は落下に転じた。そして数日後、この新社長は首になった。その前にこの新社長を無理押ししたヘッジファンド、保有していた5%の所有株を売って、多額の儲けを手中にした。「スターダを長期的に支援していきたい。」という声明は、1年半しか持たなかった。

二度目の正直 – ヘッジファンドがヘッジファンドを恐喝

買収劇はこれだけでは終わらなかった。ヘッジファンドは、先回のオファーに25セント/株を上乗せした買取オファーを出した。株の取得目標は63%。当初は40~50%の株主しか買収に同意せず、このオファーはまたしても失敗するように見えた。ところが最終日に多くの株主が意見を変え、63%+の株主が株の売却に同意した。こうしてスターダはヘッジファンドに買収されることになった。

普通ならここでお話は終わりだが、買収成立後も株価は上昇を続けた。というのも別のヘッジファンドが、残っているスターダの株を大量に買い漁った。こうして同社の株価は82ユーロ、買収前の2倍強の株価に達した。

スターダの残り株を買い漁ったヘッジファンドは、「新しい会社の経営方針に影響力を行使する。」と脅し、スターダを買収したヘッジファンドに74ユーロという高額な価格で株を押し売りすることに成功した。情け容赦ないヘッジファンドが、さらに大きく、さらに情け容赦ないヘッジファンドの脅迫に遇うという、まさに見本のようなケースだった。

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執筆者:

nishi

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