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(独) バイヤー (米) モンサントをドイツ経済史最高額で買収す!

投稿日:2019年2月1日 更新日:


これで癌になれば7800万ドル!

2016年5月、ドイツを代表する化学薬品メーカーであるBayer(以後、バイヤーと略。)が、アメリカの化学品、品種改良種子メーカーのモンサント社を買収すると発表した。

モンサント側の了解を取り付けるため、バイヤーは買い取りのオファーを三度も上方修整、ドイツ経済史上最高額の560億ユーロで買収が成立した。買収により会社の業績改善を目指していたのが、蓋を開けてみると、、。

 

バイヤーってどんな会社

バイヤーは19世紀にバイヤー氏とその共同経営者によってヴッパタールの郊外に作られた会社で、化学品の製造を生業としていた。創立者の死後、息子は会社名に親の名を関して「ペンキ屋フリードリヒ バイヤー」と改名、株式会社として登記した。

バイヤーは株式公開で集めた金を元手に化学者を雇うと、化学品の成分の研究を始めた。その一環で発見されたのがアセチリン酸。バイヤーは1896年にこの成分のパテントを取得していたが、この成分を使った薬品が開発されたのは終戦後。この薬品はアスピリンの名前で世界的な大ヒット商品になり、バイヤーを世界的な大企業に成長させた。

バイヤーは世紀の変わり目に現在のレバクーゼン(ケルンの北)に会社(工場)を移した。会社の主な業務分野は農業用の化学品と薬品部門。日本ではあまり耳にすることがないが、実は日本で販売されている農薬の結構な部分はこのバイヤーがパテントを持つ化学品であり、日本の会社が日本でパテント生産をしている。

ありがたくない過去の遺産もある。ベトナム戦争中、枯葉作戦で使用された発がん性の薬品を米国に届けたは、バイヤーだ。最近ではバイヤーの避妊ピル ヤスミンが世界的なヒットになった。しかし「ヤスミンを飲むとお肌が綺麗になる。」という口コミを信じた女性が死亡。バイヤーは米国で巨額な損害賠償請を払っている。

参照元 : DAZ

新たな飛躍?

日本の武田薬品や米国のファイザー社の例が示すように、薬品業界では新製品の開発がますます巨額事業になり、新薬の開発、そして販売許可を取ることが難しくなってきた。将来も生き残るには、巨額の投資を行なえる会社の規模が物をいう。

そこで薬品、及び化学品業界では、食うか、食われるかという再編成の波が押し寄せている。バイヤーは傘下にあった特殊化学品会社Lanxessを2014年に、2015年には樹脂を生産するCovestroを本社から分離して、株式市場に上昇、大金を手中にした。

(独) バイヤー (米) モンサントをドイツ経済史最高額で買収す!

その豊富な資金を元に2016年、バイヤーは米国でバイオケミカルの大手、モンサントを買収すると発表した。ドイツの経済史に残るであろう巨額な買収額を払うため、バイヤーは同社の株式を増資、前年に子会社化した会社の株をさらに売却して資金を用意する。

さらには寡占局の許可を取るため、モンサントと事業が被っている農産物への薬品事業は、世界最大の化学品会社のBASFに売却する。それでもまだ金が足らず、買収金の大部分は20もの銀行から借り入れた金で支払われることになった。

参照元 : Handelsblatt

経済アナリストの大部分は、この買収を歓迎した。「被っている事業が少なく、高い経済(経費節約)効果が期待される。」というのが大方の意見だった。これからも世界の人口は増え続けるが、耕作面積が増えないので食料が足らなくなるといわれている。そこで必要になるのが同じ耕作面積で高い収穫をもたらず、モンサントの種子事業だ。

さらにはモンサントは世界的なヒット商品になってる農薬を持っている。この両方をバイヤーのカタログに加えることで、バイヤーはバイオケミカル事業では、世界のトップに躍り出ることができる。

モンサントが遺伝子を組み換えた種子や、農薬の発がん性で世界中で非難されているのに、バイヤーの経営陣は都合のいい部分(利益)しか見ていないようだった。しかし会社の命運をかけた560億ユーロもの買収で、都合のいい面だけ見て決断してもいいのだろうか。バイヤーは「買収後はモンサントの名前は消える。」と発表、名前を消せば負の遺産も消えると錯覚しているようだった。

発がん性?

2018年になって注目を浴びたのがモンサントの雑草対策の薬品、Glyphosato(グリホザート)だった。EUではドイツの農産大臣の痛恨のエラーで使用許可が延期された。

参照元 : Pfadfinder24

しかしよりによってモンサントのお膝元、米国ではモンサントはグリホザートのお陰で8700件もの裁判闘争を抱えていた!

参照元 : Handelsblatt

「グリホザート使用により癌になった。」と消費者が同社を訴えているのだ。そして米国と欧州にてモンサントの買収許可が下りた後になって、この裁判にて最初の判決が下った。判事は原告の言い分をほぼ認めて、モンサント、すなわちバイヤーに3億8900万ドルの損害賠償を命じた。

たった一件の判決でこの巨額の賠償金なのだ。同様の判決が20回下されば、バイヤーがモンサントに払った買収額を超えてしまう!この判決後、バイヤーの株価が急降下したのも無理はない。

バイヤーの大きな誤算

バイヤーがこの判決を不服として上告したのは、書くまでもないだろう。そして高等裁判所の判事も、「地方裁の判決はおかしい。」とコメント、バイヤーの経営陣と株主は無罪判決がでる事を期待した。バイヤーの株価はすでに判決が出る前から回復の兆しを見せており、無罪判決が出れば「めでたし、めでたし」になりそうだった。

そして高等裁判所は10月28日、最初の判決を覆して、バイヤーに(たった)7800万ドルの賠償金の支払いを命じた。この判決を聞いて、バイヤーの株価は一気に10%も急降下した。無罪判決を期待していただけに、同様の有罪判決はがっくりと膝に効いた。

罰金額は減額されたものの、今だに信じれないような高額の賠償金支払い判決で、モンサントの買収前は過去最高額を記録していたバイヤーの株価、この日、過去5年間でもっとも安値を更新した。他の場合なら、「今が買い時!」だが、バイヤーの株にだけは食指が伸びない。20を超える銀行から560億ユーロもの金を借りているのだ。借金を返せるのか、心配になってくる。

職場整理

そしてバイヤーはこの11月末、1万2000の職場を削減すると発表した。

参照元 : Tagesschau

会社の発表によるとモンサントの合併により必要のなくなる職場が整理されるだけで、解雇はないとのことだ。「この整理統合により会社の競争力が増す。」と経営陣は言っているが、発表の時期が微妙だ。

米国における判決により、すでに計画されていた職場の整理が前倒し、あるいは規模が拡大したと見るほうが現実的だろう。この職場整理だけで終われば、バイヤーは危機を克服できる見込みが高い。もし1年以内に同じような処置が施されるなら、赤信号だ。

モンサント買収の裏

そもそも今回のバイヤーによるモンサントの買収は、新社長の就任後、わずか数週間後に発表された。新社長が自身の行動力を見せたいがために、周囲の懸念を押し切って決断した買収劇ではないかとも推測された。今となってはこの説に真実味が出てくる。

灯台下暗し

バイヤーの株価が低迷する一方で、バイヤーが本社から切り離した会社、Lanxess と Covestro の株価は上昇する一方だ。とりわけコベストロは折からの樹脂への高い需要が功を奏して、ドイツのトップ30企業で構成されるDAXに昇格した。

皮肉なことにこのコベストロの株価での会社の資産価値は、バイヤーが高い金を払って買収したモンサントとほぼ同じ資産価値に達してしまった。9000件も裁判を抱えるモンサントを買収せず、コベストロの株を保有していれば、バイヤーは自社だけで大儲けできただろう。

灯台下暗し。経営陣が仕事ぶりを見せ付けたいがばかりに、あまりに大きな獲物を飲み込もうとして、咽につっかえてしまった。本当の価値は自社の中にあったのに、経営陣はセンセーショナルな買収を優先してしまった。

 

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執筆者:

nishi

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