スキャンダル ドイツの最新情報

地に落ちた星 (23.06.2018)

投稿日:2018年9月4日 更新日:


地に落ちた星

ドイツには交通省の下に、”Kraftfahrt-Bundesamt”という機関がある。一般には略称して “KBA” と呼ばれる。交通に関するデータを管理するのが役目で、交通違反を犯した際にもらえる点数を管理しているのはこの機関だ。その他にも車メーカーがドイツ国内で車を販売する際は、ここで申請して”Verkehr-Zulassung”(交通許可証)を取る

10年も前の話だが、中国製の自動車を個人輸入した業者、許可証を取ろうとしたが「ドイツの道路を走るのは危険。」として許可が下りなかったことがある。

Kraftfahrt-Bundesamt

この役所は、車の欠陥が発覚した場合にリコールを命じることができる。しかし、これを行使するのは稀。というのもフォルクスヴァーゲンのデイーゼル スキャンダルが示したように、国の機関なのに整備工場さえももっていない。自動車メーカーが出す書類を受領すると、保管するだけ。

どの車がどれだけ排ガスを排気しているか、検査もしないで盲目印を押す。もっとも日本や米国でもこの方法は似たようなもの。車のメーカーが出した書類を元に交通許可を出す。

癒着

そして交通省で働いていた官僚は、退職すると車メーカーに就職する。車メーカーに就職するとかっての同僚である”KBA”に、「将来、いい仕事に就きたいなら、そんなに厳しく見るな。」と指示を出す。お陰で”KBA”が車のリコールを命じることは、かなり稀。ほとんどのリコールは、車メーカーが自主的に”KBA”にリコールを申請した結果だ。ところが2018年になってから、この「まあ、そう言わんと。」という同僚関係が崩れてきた。

BMW リコール

“KBA”は今年の春先、BMWの最高級モデル BMW 750シリーズのリコールを命じた。

参照元 : BR24

理由は想像するに難くない。そう、”KBA”が同社のデイーゼル車に、排ガス洗浄機能を制限する違法のソフトを発見したのが原因だ。リコールを命じられたBMWは、「BMWが”KBA”にリコールを自主的に申請した。」と弁明したが、何故、デーゼル スキャンダルから3年後の2018年になっても、未だに禁じられたソフトを搭載して車を販売しているのか、その説明は避けた。

ポルシェ リコール

翌月、KBAはポルシェの最高級モデル、”Cayman”の6万台のリコールを命じた。

参照元 : Spiegel Online

理由は想像するに難くない。そう、”KBA”が同社のデイーゼル車に排ガス洗浄機能を制限する違法のソフトを発見したのが原因だ。リコールを命じられたポルシェ(フォルクスヴァーゲンの子会社)は、「ポルシェが”KBA”にリコールを自主的に申請した。」と弁明したが、何故、デーゼル スキャンダルから3年後の2018年になっても、未だに禁じられたソフトを搭載して車を販売しているのか、その説明は避けた。

メルセデス リコール

同月、”KBA”はメルセデスの商業用モデル、”VITO”のリコールを命じた。

参照元 : KBA

理由は想像するに難くない。そう、“KBA”が同社のデイーゼル車に排ガス洗浄機能を制限する違法のソフトを発見したのが原因だ。それだけではない、”KBA”は同社のもっとも販売台数の多い、Cクラスにも排ガス洗浄機能を制限する違法のソフトを発見したと発表した。これによりメルセデスは、60万台のリコールを覚悟しなければならない。

社長出頭命令

それだけではない。メルセデスの社長には交通省に出頭して、事情を説明するように要請した。出頭を命じられたメルセデスの社長は、「メルセデスには違法なソフトは入っていない。」と弁明したが、交通大臣はこれを信用しなかった。どうしてメルセデスの車は排ガスの洗浄機能を制限するようになっているのか、2週間後に再度出頭して、これを説明するように命じた。

2週間後に出頭した社長は、2週間前と同じく、「違法なソフトではない。」と主張、理由は説明されないままで残された。

これには勿論、理由がある。もし排ガス洗浄を違法なソフトで操作したことを認めると、”KBA”がその計測データを米国の交通省に渡す可能性がある。フォルクスヴァーゲンが米国で払った120億ドルの罰金を考えれば、否定するしかない。そこでメルセデスはドイツメーカーとしては初めて、”KBA”の判断を不服として行政裁判所に訴えを提出した。これまでは”KBA”と車メーカーはコインの表と裏。慣れ慣れの関係だったのに、ここまで関係が悪化したのには理由がある。

堪忍袋の緒

ドイツでは消費者団体、車クラブ、そして国民が、車メーカーの負担で排ガスを本当に洗浄するハードウエアを、すべてのデイーゼル車に搭載するように要求している。しかし政府は車メーカーを保護、「(安い)ソフトのアップデートだけでクリーンになる。」と、車メーカーの主張を繰り返してきた。何しろ、車産業はドイツの基幹産業なのだ。これを守ることがドイツ政府の至上課題

しかし車メーカーはこれまでの行為を反省するどころか、2018年になっても違法なソフトを搭載して車を生産、販売している。これではドイツ政府の堪忍袋の緒が切れたもの無理はない。政府は今年になってから、車メーカーへの圧力を増してきた。ただでも支持率の低い現政権のこと、何かしたら成果を出したい。こうして態度が一変した。

社長逮捕

その頂点が、フォルクスヴァーゲンの子会社であるアウデイの社長の逮捕だ。アウデイも今年、数万台のリコールを命じられた。検察は組織的な陰謀があるとして、社長の自宅を家宅捜査して書類を押収。社員には任意に検察に出頭を要請、事情を聴衆していた。すると虚言をして監獄に入りたくない技術者のひとりが極秘情報を検察に漏らしてしまった。

これを(どこからか)知ったアウデイの社長は激怒、電話でこの社員に対する罰則、対策を協議した。これが致命傷となった。検察は社長の電話を盗聴していたのだ。「社長は証拠を隠匿する意図を示した。」として検察は逮捕状を発行、同氏の身柄を拘束した。これが報道されると、フォルクスヴァーゲンの株価は急降下した。何しろデイーゼル ゲイトが始まってから3年、ドイツ国内で始めて逮捕者が出たのだ。

フォルクスヴァーゲンは直ちに社長の後任を任命して、波を収めようとしているが、社長逮捕の背景が報道されると、同社のただでも傷ついたイメージは地に落ちた。逮捕された社長は黙秘権を使用せず、供述を行なう意思があると表明した。これをしないと保釈金を払って監獄から出れないからだ。もっともその供述内容は真実ではなく、またしても自己弁護の内容だろう。証拠を押さえている検察の検討を期待したい。

この逮捕はドイツの車業界に震撼が走った。次の逮捕者はBMW, メルセデスの社長かもしれないのだ。果たして車メーカーは、これで考え方を変えるだろうか?その可能性は低いが、これまでのように堂々と嘘を供述することが難しくなる。ひょっとしたらデイーゼル車のハード面でのアップデートも、可能になるかもしれない。

 

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執筆者:

nishi

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