コロナ禍により日本でも流行り始めた、テレワーク。(*1)
しかし日本の労働条件は、過労死という言葉で世界中で「有名」になっているように、バナナ共和国並み。西欧では当たり前の基本権利が、労働者に認められていない。
実際、日本ではネット上はおろかテレビでも、テレワーク中の社員を監視するソフトが堂々と宣伝・販売されている。
日本では、このような手段を取るのは違法ではないかもしれない。が、それは労働条件が整ってないバナナ共和国での話。
同じ感覚でドイツでテレワーク監視ツールを使用すると、そんな道具を使った上司自身がクビになりかねません。
この記事の目次
探偵を使って社員を監視させるのは合法?
テレワークがこれだけ広まると、これを悪用してさぼる社員が出るのは、自明の理。
ちなみにドイツ人のさぼりは、日本人の想像を超えます。仕事の代わりにネットフリックスを見るなんて、かわいい方。
中にはテレワークをいいことに、2週間キャンピングに行ったり、ドイツ人の大好きなホームセンターに通いつめ、庭を造ったり、さぼりの次元が違います。
問題はこれをどうやって証明するか。
中には探偵を雇って社員を監視させる会社もありますが、具体的な証拠がないのに、探偵を使って社員の私生活を探るのは違法です。
そんな違法の監視で社員のさぼりが発覚、クビにしたとしましょう。日本人と違ってドイツ人は、弁護士保険に入っているので、必ず不当解雇で訴えます。
すると裁判で、
「何がきっかけで探偵を雇って、身辺調査をさせたのか。」
という点が争点になります。ここで社員がさぼっているという具体的な証拠がないのに、探偵を使って身辺調査をさせたことがわかれば、不当解雇と判断されます。仮に本当にさぼっていたことが発覚しても。
具体的な証拠とは?
では探偵を使って、合法に身辺調査をさせることができる具体的な証拠とは何でしょう?
それは、
「ここ数か月、成績が極端に悪い。」
という状況証拠だったり、あるいは同僚から、
「〇〇さんは、全然、返事をしない。」
という陳情があった場合に初めて、合法に身辺調査をさせる状況証拠が揃ったことになります。もっとも会社側はそんな状況証拠がないのに、身辺調査を依頼することも稀ではありません。
そこで仕事時間中にホームセンターに買い物に行ったのがばれても、まだゲームオーバーではありません。これを理由に解雇通知をもらったら、弁護士に相談しましょう。
裁判になれば原告側は、
「身辺調査を合法化する状況証拠」
を提示しなくてはなりません。これが提示できない場合、あるいは同僚が裁判所での証言を拒否してくれれば、仕事中にキャンピングに行っていても、裁判で勝てます。
仮に合法的な状況証拠があった場合でも、まだ負けとは決まっていません。
「たった1回の誤った行動で、解雇は行き過ぎ。」
と判断され、解雇が取り消されたこともあります。
正当な解雇になるにとは?
では、具体的な状況証拠があって探偵を使う場合、どの程度の誤った行動が証明されれば、正当な解雇となるのでしょう?
上述のように2週間もキャンピングに行っていれば、間違いありません。裁判所は常習性を重視しているので、週3~4回も仕事時間中にスポーツジムに行っていれば、
「常習犯」
とみなされる可能性が高いです。短時間スーパーにお買い物に行く程度では、
「スーパーに言った分、残業した。」
と言えば、解雇の理由とはなり得ないことが多いです。
探偵による身辺調査の費用
では仕事振りの悪い社員の身辺調査を、探偵事務所に頼むと幾らかかるのでしょう。
この分野でも値段はピンからキリまであります。経験豊富な探偵事務所であれば、800ユーロ/日が最低ラインです。
短期間の調査で何か見つかっても、裁判所は不当解雇とみなすことが多いです。上述のように「常習性」が重要な為です。
そこで社員を月曜日~金曜日まで身辺調査してもらうと、4000ユーロ+税金です。
ですから社員の身辺調査を探偵に依頼するのは、高給取りのケースが多いです。もっとも、
「私はヒラだから、監視される心配はない。」
と安心するのはまだ早い。
テレワーク監視 ツールは違法なり! 【私的領域侵犯】
というのもこのデジタルの時代、監視は探偵を使わなくても、監視ソフトでできちゃいます。
そんな監視ツールを使えば、費用はわずか10ユーロ。テレワークの増加に伴い、こうした監視ツールの需要が高まっています。
しかし需要が高まっているから、
「使っても構わない。」
というものではありません。
NRW州のとある会社での出来事です。
「今後、パソコンにログインすると、操作内容が会社にもわかるソフトを入れた。」
と社員に通告。にもかかわらずある社員は、会社のパソコンを私用で使ってしまいます。会社からクビを宣告せれた社員は、不当解雇で会社を訴えます。ドイツの労働裁判所は、
「具体的な根拠がないのに、監視ツールをインストールして社員を監視するのは、個人領域の侵犯である。」と判断、クビを宣告された社員の言い分を認める判決を下しました。
参照 : Deutsche Welle
このケースでは会社側が社員に監視ツールを入れた事を通知したので、まだマシでした。
社員に通告しないで監視ツールをこっそりインストールすると、
- 2000億ユーロまでの罰金
- あるいは会社の年間の売り上げの4%までの罰金
が課されます。ドイツの大手デイスカウントスーパーLidl は社員をさまざまな手段で監視したとして、150万ユーロの罰金を課されました。
参照 : Süddeutsche Zeitung
労働裁判所から目玉の飛び出るような罰金を課されると、そのような違法な監視ソフトのインストールを命じた上司が、
「会社の規定から逸脱した行為。」
としてクビになりかねません。
個人情報保護法 / DSGVO 恐るべし!
もっとシビアなのは、日本では当たり前の社員の個人データの収集。
社員の健康状態、家族構成、休暇などのデータを記憶していたのが、日本でも有名なアパレルメーカーのH &M 。
こちらは個人情報保護法違反で350万ユーロの罰金を課されました。
参照 : mopo.de
まとめ
ドイツでは労働者 & 個人の権利がかなり厳格に守られています。しかし日本から派遣されてくる派遣社長は、ドイツの法律なんか知らなばかりか、気にもかけていません。
そこで違法な手段を用いることもしばしば。そんな違法な手段に対抗できるように、こちらもどこまでが合法なのか知っておくことが欠かせません。
又、ここで何度も説教しているように、ドイツで就職したら弁護士保険に入る事。これはあなたの権利を守る最後の砦です。
注釈 – テレワーク監視 ツールは違法なり!
*1
英語圏では会社から離れて働く事をリモートワーク 、あるいはテレワークと言います。
しかし自宅で働く場合の正しい英語は、ホームオフィスです。日本では自宅で働く場合もテレワークと呼ばれるため、抵抗がありますが、敢えてホームオフィスとは言わず、テレワークと表記しています。