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軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できるのか?

投稿日:2019年12月27日 更新日:

軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できるのか?

米国で言えば、ロッキード・マーティン社、日本で言えば三菱重工業に相当する、ドイツが誇る軍産複合体のテユッセン クルップ /”Tyssen Krupp”社が、倒産の憂き目と戦っている。

クルップ社と言えば、ドイツが誇るルール工業地帯の大軍事産業で、大砲から潜水艦まで、ドイツの軍需産業の柱だった。そしてテユッセン社と言えば、そのクルップよりもさらに一回り大きなドイツ最大の鉄鋼王。この両者が合併してできたのが、テユッセン クルップ社。

ドイツの鉄鋼業界と軍需を一手に収めて、「1000年続く大帝国」になる筈だった。ところが合併から20年後、倒産の憂き目にさらされている。何がマズかったのだろう。

鋼鉄王 クルップ

伝説的なアルフレート クルップ氏が一代で築いたのが、クルップ帝国だ。ドイツ統一戦争時には、ドイツ軍とフランス軍の両方に大砲を売りつけるというウルトラCを達成、特需景気に沸いた。

第一次大戦には「デブのベルタ」の異名で呼ばれた、射程120kmもある口径210mmの大砲を製造した。ちなみにベルタとは、クルップ氏の娘の名前。日本の感覚からするとあまりありがたくないが、ドイツ語の太い /”dick”は誇張する意味があり、「大きなベルタ」と訳したほうがいいかもしれない。

参照 : weltkrieg2.de

ドイツ軍はこの大砲でパリを砲撃して、パリ市民を震え上がらせたので、「パリの大砲」とも呼ばれる。一体、クルップの大砲(鉄鋼)は、他社よりも何処が優れていたのだろう?

硬いと言えば、クルップの鉄鋼

それはクルップの技術者が発明した炭素鋼にある。普仏戦争の結果、ドイツはアルザスーロートリンゲンを併合。ここから大量の鉄鉱石が産出されたが、その質が悪かった。この粗悪な鉄鉱石から軍需に絶える鉄鋼を作成する為、溶解の段階で炭素を咥えた。

出来上がった鉄鋼は、良質の鉄鋼で作った鉄鋼より硬く、良質の鉄鋼だった。お陰で”Hart wie Kruppustahl”(硬いと言えば、クルップの鉄鋼)が、同社のクルップのトレードマークになった。

しかし第一次大戦の敗北で、クルップ社の命運は尽きたかに見えた。ところが連合軍が戦争賠償の目録として、大量の大砲を要求してきた。ドイツ陸軍が保有している大砲では到底足らず、連合軍に賠償品を納めるために、クルップの溶解炉は息を吹き返した。

軍需産業からの撤退

第二次大戦の敗北により、ドイツは軍備の放棄を強いられたため、今度ばかりはクルップの命運は尽きたかに思えた。しかし今度は朝鮮戦争が勃発。米軍はクルップに大量の鉄鋼を注文、クルップは不死鳥のように再び息を吹き返した。

アルフレート クルップの後継ぎは、戦争犯罪人として収監された体験から、軍需産業からの撤退を決定。戦車や大砲を製造する会社に鉄鋼を納めることはあっても、自社ではもう大砲や戦車は生産しない事となった。その代わりに民需に特化した鉄鋼を製造することとなった。

ドイツの経済成長と共にクルップ社も成長したが、70年代にオイルショックがまき起こした大不況により、クルップ社は大きな危機に陥った。人件費とエネルギー費用の上昇で、クルップで生産する鉄鋼は価格面で、アジアで安価に製造された鉄鋼に負けた。

クルップは次々に工場を閉鎖、80年代後半になってようやく会社経営が軌道に乗った。しかしクルップ社の伝説的な社長のバイツ氏は、「次の危機は必ずやってくる、」と予測、対抗策を打つことにした。

クルップ財団 / Krupp-Stiftung

話を進めるまえにクルップ財団 / Krupp-Stiftung の説明もしておく必要がある。アルフレート クルップの後継ぎ(アルフリート クルップ氏)の希望で、クルップ家のお家継が刑務所に入らなくて済むように、クルップ財団が設立された。

クルップ財団はクルップ社の筆頭株主で、会社の運営、方針決定には、クルップ財団の後押し(暗黙の承認)を受けた社長が行う。会社を経営するのはクルップ一家ではないので、今後、スキャンダルが起きても、刑務所に入るのは社長というわけだ。

前出の社長、バイツ氏が社長の時にクルップ財団が設立され、氏は初代の財団長に就任して、クルップのかじ取りをすることになった。

テユッセン 敵対買収

クルップ社(正確にはクルップ財団)が考えだした、クルップ社を将来の危機に対して予防する対抗先とは、同業者でクルップよりもさらに大きな会社であるテユッセン社の敵対買収だ。

2つの大企業が合併すれば、膨大なコストカットが可能になる。結果、製造コストが下がり、国際競争力が高まる。これを可能にするため、バイツ氏はドイツ銀行の頭取と密かにあって、「資金面では任せてください。」という返事を取り付けていた。

そしてクルップによるテユッセン社の敵対買収が明きからになると、「合併により、また職場が失われる。」と、社会批判が巻き起こった。その非難の矛先は、これを資金面で支援していたドイツ銀行に向けられた。

ピーナッツ

当時、ドイツ銀行は「建築業界の獅子」と呼ばれた人物を金融面で支援していた。ところがその建設会社が、払えぬ数百万マルクの請求書を抱えて破綻した。債権者は「ドイツ銀行の支援があると聞いていた!」と業者が銀行に苦情を上げると、「そんなピーナッツ(少額の請求)で、ぐだぐた言うな。」と一蹴した。

参照 : tagesspiegel.de

これが紙面で報道され、ドイツ銀行の塩対応が大炎上。ちょうどその後で発覚したのが、テユッセン買収だ。テユッセンの労働者は買収反対のデモを行い、ドイツ銀行の前にいくと、皆でピーナッツをばらまいた。

軍産複合体 テユッセン クルップ の誕生

あまりの社会の逆風に、クルップ社は敵対買収を取りやめたほどだった。しかし買収されかけたテユッセン社も、「このままでは、次の不況を乗り切れるかわからない。」との不安から、クルップと合併の話をすることになった。

こうして1999年に誕生したのがテユッセン クルップ社。参照 : thyssenkrupp.com

さまざまな鉄鋼の生産から、工場施設を建設する建設部門、電車部門、製造機械部門、軍需品部門、エレベーター事業など、数多くの事業を抱える押しも押されぬ軍産複合体の大企業が誕生した。そして合併後のテユッセン クルップ社は、コストカットも効いて、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

軍産複合体 テユッセン クルップ – 終わりの始まり

時はリーマンショック前の黄金時代。中国の経済成長率は10%を超え、いくら鉄鋼を生産してもたらないほど売れた。テユッセン クルップ社は、「採算が取れない。」と閉鎖していた工場を中国企業に丸売り、中国企業は工場を解体して、中国本土で組み立てるほど、好景気に沸いていた。

ここでマネージメントが重大な決定をする。景気のいい北米と南米に工場を建てて、鉄鋼を現地生産しようというものだ。これまではドイツ国内で工場を閉鎖することはあっても、新しく建設することはなかった。数十年ぶりの新工場を、それぞれ北米と南米で建設する同社のプランは大きな戦術的一歩だった。

完成しない工場

工場の建設費を安く上げるために、テユッセン クルップ社は南米工場の建設を中国企業に委託した。これがテユッセン クルップ社の棺桶となった。少なくとも南米工場に限っては。

今、ドイツの首都ベルリンでは、9年も空港を建設している。

今度は本当に完成?8年遅れのベルリン空港 BER

これと全く同じことが、テユッセン クルップ社のブラジル工場で起きた。工場は完成したが、中国企業の手抜き工事で、操業できる状態ではなかった。肝心要の溶接が不十分で、操業すると文字通りバラバラになるのだ。結局、出来上がった工場を潰して、もう一度作り直すことになった。

北米工場も完成が遅れたが、操業を開始することはできた。ところがその頃には好景気と中国の高度成長は終わり、世界中で「鉄鋼が余って仕方がない。」という状態だった。テユッセン クルップ社は数年大赤字を出し、社長と取締役員をクビにして、ジーメンスから新社長のヒージンガー氏を呼び寄せた。

タタ スチールへの売却

新社長は四面楚歌の中で健闘した。大赤字を出している北南米工場を売却して、テユッセン クルップ社の大冒険に終止符を打った。そして大改革に乗り出した。テユッセン クルップ社の基幹事業であった鉄鋼部門の売却である。

欧州ではエネルギーと人件費が高過ぎて、又、鉄鋼業は景気の浮き沈みが激しく、もうペイしないと考えた。そこで同社の鉄鋼部門をインドの鉄鋼王、タタ スチールに売却、今後、テユッセン クルップ社は景気の浮き沈みが少ないエレベーター事業などに専念、テクノロジー企業に変身させようとした。

流石はジーメンスのマネージャー、いい案を考えたものである。ところがEUの寡占取り締まり委員会が、鉄鋼部門の売却を認めなかった。

参照 : reuters

経営陣の辞任

ここから自体は急展開する。ヒージンガー社長は同社のヒレ肉であるエレベータ部門を分離して上場、集めた金で会社の他の事業、自動車部門、建設部門、原材料販売にテコ入れ、鉄鋼事業からの依存度を減らす方針を発表した。

ところが、これまで二人三脚でやってきたクルップ残団がこの方針に賛成しなかった。皆まで言えば、クルップとテユッセン クルップ社の黄金時代を作ったバイツ氏は死去、財団長には工科大学の学長が就任していた。

この学長、教授のタイトルに加え、二つのドクターのタイトルを持つ才女だが、これまでの「難しいときには、クルップ人は団結する。」のクルップの長年の方針を放棄、数学のドクターらしく、数字しかみなかった。

クルップ財団の後ろ盾がないと、トイレットペーパーさえも買えない社長に、この状態で一体、何ができたろう。ヒージンガー氏が辞任を表明すると、まるで数学教授に見せつけるように取り締まり役員会長も辞任を提出した。

軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できるのか?

クルップ財団はこの危機に、毎年、新しい社長を任命することで対応した。本当はもっと長く在任して欲しのかもしれないが、数学教授は社長を次々にクビにした。

お陰でヒージンガー社長の退任から2年が経とうとしているのに、戦艦 テユッセン クルップ は船長がいない状態で荒海にもまれている。

2019年11月、新社長のメルツ社長は同年度の業績を発表したが、またしても10億ユーロ(邦貨で1兆3000億円)の赤字だった。

参照 : faz.net

危機的な状況

業績発表にてメルツ社長が、「危機的な状態がまだ2~3年続く。」と、日本企業にように事実を隠さずに赤裸々に事実を述べたことは、歓迎された。しかし新社長から会社を立て直すプランの発表はなく、株価はまたがっくり逝った。

同社の状況はドイツ銀行のように、お先真っ暗だ。テユッセン クルップ社のお株だった鉄鋼は、設備投資が遅れて品質の面で他社に先を越されてしまった。建設業は大きな決め手に欠け、原材料販売は不況で需要が減り、原材料の価格も下がる一方。

軍需部門もオーストラリアへの潜水艦納入競争で、フランスに負け、注文が入ってくるのを待っている。ドイツ海軍が注文してくれた駆逐艦4隻だが、まるでブラジルの製鉄工場のように欠陥だらけ。海軍から受領を拒まれて、この4年間その欠陥の手直しに終始。

参照 : zeit.de

どこをみても目も当てられない大赤字だ。ところが問題は赤字事業だけでは終わらない。

企業年金問題

クルップは労働者のためにアパートを建てて、ここに労働者を住ませるなど、福利厚生の厚い(珍しい)会社だった。当然、企業年金制度も充実しており、退職した労働者へ手厚い年金を払っている。その額はかっての国営航空会社のルフトハンザを上回る。

ところが毎年の大赤字で、これまで積み立てた企業年金の底が見えてきた。同社がかっての労働者に約束している企業年金は、ここ数年で空になるという危機的な状態だ。

エレベーター事業の売却?

テユッセン クルップ社を救うには、

  1. 企業年金の穴を(一部)埋める。
  2. 会社に設備投資して製品の競争力を取り戻す。
  3. 必要な投資で工業 & 建築部門を更生させる。

しかない。しかし大赤字を出したソフトバンクのように、「テユッセン クルップ社に投資しましょう!」なんて銀行はない。同社は邦貨にして20兆円もの負債を抱えており、支払い不能になった場合は社宅から工場まで銀行が差し押さえることになっているからだ。

ところがテユッセン クルップ社の中で、順調に黒字を出している部門がある。それがエレベーター部門で、同社のヒレ肉の部分だ。同社はこの事業を上場するか、売却することで必要な資金を捻出しようとしている。

日立のチャンス!

クルップ財団は当初、唯一の黒字部門の売却には反対だった。しかしここに至っては、「背に腹は代えられぬ。」となってきた。もっとも完全な売却ではなく、一部売却にしたいらしいが。

そこで新社長はエレベーター事業の買い手を募集している。そしてこのテユッセン クルップ社のエレベーター事業の買い取りに、オファーを出している企業のひとつが日立だ。

言っちゃ悪いが、日本人は営業が下手。日本政府は日本製の武器を輸出すべく努力しているが、この4年間の売り上げはゼロ。これほど成果の出ない事業は世界中でも珍しい。この哀しい事実を支えているのが、日本人セールスマンの営業力のなさ。

頭を下げて、「お願いします。」だけで、日本製の武器を買う奇特な人物(国)はいない。それが日本人にはわかってない。日本人セールスマンは、「値段が高くて売れない。」というが、それは言い訳。

ドイツ人の有名な武器商人はドイツ軍払い下げの中古の装甲車を、新品価格で百台サウジに売った。これがドイツ人と日本人セールスマンの腕の差だ。公平を期すために付け加えておくと、その凄腕武器商人は今、アウグスブルクの監獄に入っている。

日立のエレベーターはアジア以外では全く売れてない。しかし日立がテユッセン クルップ社のエレベーター事業を手にいれば、セールスのノウハウはおろか、販売網まで手に入れるころができる。これ以上のチャンスはない。

エレベーター事業 希望売却額

テユッセン クルップ社は、エレベーター事業の売却額として150億ユーロを希望している。しかし肝心のオファーは100~120億ユーロと、まだ大きな開きがある。金が喉から手が出るほど欲しいテユッセン クルップ社だが、唯一の黒字事業を手放すと、ここ数年は赤字は必至。

その期間を生き延びれるだけの額が得られない限り、売却はしないだろう。落としどころは130億ユーロとみられているが、日立はそこまでオファーを改善する用意があるだろうか?

それともフィンランドの競争相手、”Kone”社が勝つだろうか。複数の投資家も買い取りのオファーを出しており、一番高額なオファーは、投資グループから来ている。現時点では売却交渉の行方は未定。個人的には是非、日立に頑張ってもらいたい。

もし日立の社員がこの記事を読んでいたなら、オファーに「2022年までの雇用保障」を付けるようにアドバイスしたい。雇用保障で労働組合を味方につけるのだ。テユッセン クルップ社は労働者の影響力が大きいので、労働者を味方にできれば、もう半分勝ったようなもの。

これは俗に言う、「紳士協定」で、中国記企がドイツ企業を買収する際に使用する常套手段。改めて言う間でもなく、この協定が守られることは滅多にない。買った者、勝ちなのである。

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執筆者:

nishi

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